魔女のお出かけ
報告回です。
よろしくお願いします。
「ごめん!お待たせ!」
リリが息を切らして走ってきた。街の商業地区の噴水広場で待ち合わせしていたレベッカたちは、リリがなかなかやって来ないのでとても心配していた。
「そんなに待ってないわ。大丈夫よ。」
テレサが肩を上下に揺らすリリの背中に手を当てる。
「はーっ!喉乾いちゃった!」
「リリ、今日は本当にありがとう。我が家のことに巻き込んでごめんなさい。疲れたでしょう?」
「大したことじゃないわよ。ただ、決めたことを書面に起こしてもらってサインしただけよ。」
「詳しい話は後にして、早速だけど、もう行きましょ。予約してあるし、お店で一息ついた方がいいわ。」
「そうね。リリ、お腹空いてる?」
「もうペコペコ!」
顔を見合わせた三人は笑った。予定通り、テラス席に案内してもらい、リリは席に着くやいなや最初に出された水のグラスを飲み干した。
「話し合い、大変だったでしょ?」
「あー、なんかおじいさんが来てね、偉そうだったわ!ムカついちゃった!」
「大旦那様がいらしたのね。おじさんが関わることなら仕方ないわ。迫力がある方でしょう?」
「そうね、ボスっていうか、親分っていうか。でも、交渉自体は本当に大したことなかったのよ。昨日、おばさまと決めた条件はすぐ受け入れられたし。」
「そうなの?」
「条件って?」
テレサが首を傾げる。レベッカも昨夜、ジェフのいない時を見計らってリンダから伝えられていた。リリもリンダもレベッカの承諾なしには条件つきでも付き合いを認める方向には進めたくなかった。
「専売は貴族向けのオーダーメイドのみってやつよ。大衆向けのものは独占使用権を放棄させたわ。」
「あらま。結構な痛手じゃない?ウチにも影響あるかしら。」
「テレサのおうちは宝石の研磨をしているの。カットの特許もいくつか持っているのよ。お父さんが使う宝石は全てテレサのおうちで作られたものなの。」
「そうだったの。まあ、多少は影響あるかもしれないわね。大口の貴族は特に変わりないと思うわよ。」
「ウチは極小粒のカットも得意なのよ。大量生産品には、そのメレサイズのカット石を使っているものが多いの。石なしのもあるけどね。派手すぎないから普段使いにも向いてるし、石自体の品質はいいから輝きが綺麗なのよ。」
「そうなんだ。他の工房では作れないの?」
「出来ないこともないと思うけど、ウチほど小さく、美しくカットは出来ないでしょうね。グッドマン商会のお抱えだから、技術の漏洩管理も徹底されてるのよ。」
「それなら、品質重視する人は買ってくれるわよ。裸石だけの販売もすれば、客が持ち込んで他所のデザインと組み合わせてセミオーダーみたいにするんじゃない?元々、記念日のプレゼントとして人気みたいだし、フルオーダーは難しくても特別感上がるしね。まっ、グッドマン商会には裸石分の利益しか入らないけど!」
「石だけ売るなんて、考えたことなかったわ。」
「普通に既製品買うよりは高くつくだろうけど、女の子はそういうトクベツなの好きだしね。ただ、他所の既製品と石の大きさを揃えなければダメね。何種類か決めておいて、ダイヤモンドの他に色石もあると組み合わせで差をつけられるからいいんじゃないかしら。」
「今までメレはダイヤモンドしか作ってなかったわ。性質の問題で、難しい種類も多くて……でも、試してみる!リリ、ありがとう!」
テレサはリリに抱きついた。リリは動揺した。
「ちょっ!なんで抱きつくのよ!慣れ慣れしい!」
「やだ、照れてんの?このこの!こうしてやる〜!」
テレサは赤くなったリリの頬を指先でつついた。その光景をレベッカは微笑ましく思った。
「リリ、すっかりテレサに懐かれたわね。」
「レベッカ!笑ってないでどうにかしてよ!」
「うれしいくせに〜、またそういうこと言って〜!」
「ホントにもう!まだ大事な話があるんだから!戻って戻って!」
「ハイハイ。失礼しました!」
少し乱れた髪を手櫛で直すと、リリはレベッカに向き直した。
「隠してもしょうがないからハッキリ言うわ。あのオバサン、メリーだっけ?捕まったわよ。正確には、これから警察に突き出すそうよ。今頃、署に向かってるんじゃない?」
「ええっ!?」
「わ、わた、私のせいで……メリーさんが……」
「せいじゃないわよ!自業自得よ!横領罪、脅迫罪、労働法違反、こんなところね。名誉毀損も入れてもいいと思うけど。蓄えがあれば、罰金払って禁固刑にはならないでしょうけど、犯罪歴はつくから、これからまともな仕事を探すのは難しいでしょうね。」
「旦那様が支払うんじゃないの?」
「あの夫婦は離婚よ。むしろあの女から慰謝料もらいたいんじゃない?大損させられたんだから。」
「そんな……」
「それで、あの顔だけ男は支店に飛ばされることになったわ。異動になったらこの街で顔を合わせることはそうそうないと思うわよ。」
「あら、街の王子様は鄙びた場所へ流されて、倹しい生活を強いられるのね。」
「なんか良さげな物語風にしないでよ!母親の面倒は自分が見るそうよ。」
「思い切ったわね。でも、上手くいく気が全くしないわ。」
「アタシもよ。あの男は今まで母親のいい面しか見てこなかったようだけど、これからは全部あの男が受けるしかないのよ。あんな姑がいたら結婚も難しいんじゃないかしら?」
「エリオットは結婚になんか興味ないわよ。自分が一番好きなんだもの。」
「似たもの親子じゃない。せいぜいお互いに食い合えばいいわ。」
レベッカは気落ちしてしまった。自分が我慢出来ずに婚約を取り止めたことで不幸になった者がいる。その事実が、良心の呵責となって胸が疼いた。
「もうっ!そんな顔しないでよ!ざまあみろくらい言ったらどうなの!?」
「リリ、レベッカには難しいわよ。私たちと違って、優しい子だもの。」
「それ、どういう意味よ!アタシだって優しいわよ!」
「リリは優しいわ。知り合ったばかりの私のために頑張ってくれたもの。私がこんな気持ちになるのも、申し訳ないし、失礼だと分かってる。でも、ごめんなさい。どうしても、これで良かったなんて私には言えないの。」
リリとテレサは困ってしまった。そこに食事が運ばれてきた。テレサが突然、パン!と手を合わせて鳴らす。
「ハイハイ、もう暗い話はおしまいにしましょ!レベッカにはリハビリが必要よ!まずはみんなで楽しいことしましょ!ホラホラ、ホットサンドが冷めちゃうわ!チーズが溶けてておいしそう!これをリリに食べてもらいたかったのよ!レベッカも外食は久しぶりでしょ?女の子は、おいしいものを食べて、楽しくおしゃべりして、たまには愚痴を言い合って、ストレス発散が王道よ!」
リリが前に言ったことと同じことをテレサが言ったので、リリとレベッカは顔を見合わせて笑ってしまった。
「な、何よ。なんかおかしかった?」
「ううん、その通りだなって思っただけよ。いただきます!」
「おいしい!」
リリは一口入れただけで大感動した。チーズのコクに負けない厚切りベーコンの味わいが絶妙だ。付け合わせの野菜のピクルスもスパイスが効いている。
「トマトがちょっと生っぽいところがまたいいわね。チーズが多いかと思ったけど、トマトのおかげであっさり食べられるわ。ベーコンも挟む前に一度焼いて焦げ目をつけてるのね。ピクルスもローリエとブラックペッパーだけじゃない、パンチが効いていて口直しにぴったり!何が入っているのかしら?」
「リリってば、グルメなのね。」
「食べ物も薬の一種よ。医食同源って言って、身体を造るのに食べ物にはそれぞれ大事な役割があるの。でも、食べ過ぎはダメよ。特にこんな脂の多い食事、若いからって毎日食べていたらあっという間に肥満症になっちゃうわ!」
リリが興奮して話すので、周りの女性客がビクリと肩を揺らした。食事をする手が止まっている。
「まあ、こんなもの、毎日食べるわけじゃないし、普段健康的な食事をしていれば関係ないわ。たまの贅沢は心の栄養よ!」
女性客たちの肩が下がる。安心したようだ。レベッカは周りを見遣り、ホッとして食事を続けた。
「美容と健康は女の子に取って一番の話題だわ。リリ、他にも教えてくれない?リリってば、肌がキレイよね!特別なお手入れしてるの?」
テレサが目を輝かせている。
リリは得意がってあれこれと話した。レベッカはひたすら感心していたし、テレサは時折メモを取ってフンフン頷いていた。
女の子が三人寄れば姦しい。話題は尽きず、楽しい午後は瞬く間に終わった。
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