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顔だけ男は眠り姫の呪いをかけられる  作者: 里和ささみ


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魔女は怒っている

リリちゃんおこ。

よろしくお願いします。

グッドマン商会は、ジェフのジュエリーを正しく評価し、相応しい値段で販売していた。利益もきちんと還元してきた。その点については信用がある。


リンダはレベッカのために関係を断ってほしいと思っているが、リリはジェフが絆されることを考慮に入れるべきだとリンダにこっそりと話した。


雛型を型取りして作る大量生産の平民向けデザイン、その独占使用権を手放させる。孫請けの工房に任せている物だ。商品ひとつに対して薄利とはいかないまでも利益としては少ないが、幾種もあるのでかなりの売り上げを出している。


石や金属を変えればアレンジが出来るデザインが多いので、自由に使用出来るとなれば使いたがる商会は多いだろう。引き続き、ジェフの懐にはロイヤリティが入る。その辺りが落とし所だろうとリリは考えていた。


実際、グッドマン商会の伝手は大きい。領内一番の商会で、支店も他領だけでなく友好国に限るが他国にも広げている。


特に、貴族への対応には一日の長がある。貴族と職人が直接顔を合わせて打ち合わせるということは稀である。ジェフのネームバリューならばそういうやり方も出来なくはないが、この夫婦が貴族相手に交渉ごとが出来るとはリリは思わなかった。


グッドマン商会と完全に縁を切ることが出来ないならば、貴族向けの一点物に関しては一任するという形にまとめる。ジェフの才能に固執しているブライアンも、納得出来るであろう。リンダからジェフとブライアンの関係性を聞いたリリはそう考えた。


「おじいさんがそう考えていても、そこのオジサンたちが同じだとは限らないわ。その後もそう。ジュエリーの意匠の著作権は二十年よね?今から作る物や最近作られた物に関しては、オジサンたちの代だけの話じゃないわ。それこそ一筆書いてもらわないと、こちらとしては了承しかねるわね。」


リリがそう言うと、ブライアンはマックスとサマンサをそれぞれ見遣った。それにマックスが慌てて答える。


「もちろん!もし取り引きを続けてもらえるなら、必ず約束は守る!今度こそ、絶対だ!サマンサたちの代になってもだ!」


サマンサも頷いた。


「ということだ。ジェフ、いいな?」


「良くないわよ。そっちの有責なんだから偉そうにしないでくれる?そちらさんはジェフおじさまやリンダおばさまの信用を失くしてるのよ。こちらの要求は今後そちらと一切の関係を断ち切る、よ!他に何か利点がない限りはね!」


途端にジェフが苦い顔になった。リンダも眉尻を下げて困っている。リリはそれを見てため息をついた。


「ジェフおじさま、言いたいことがあればどうぞ?」


「えっ!?いや、そんな、私は……」


ジェフはチラリとリンダを見た。リンダは目をつぶって深呼吸をすると、目を大きく見開いてジェフをまっすぐに見つめた。


「ジェフ、言いたいことがあるならハッキリと言えばいいわ。私もリリも、それにレベッカも、ちゃんと分かってるから。」


リンダはそっとジェフの肩に手を置いた。ジェフはそれに手を重ねて俯いた。まなじりには涙が浮かんでいた。


「リンダ、すまない。私はやはり、大旦那様を裏切れない。あの時、大旦那様に掬い上げてもらったから、今があるんだ。」


「ジェフ!」


ブライアンは大いに感動した。しかし、リリは険しい顔で忠告する。


「でも、レベッカはコイツらに傷つけられたのよ。レベッカは悪くないとはいえ、既に流れている評判や噂はそうそう消せないわ。レベッカはこれからより一層、好奇の目に晒されるのよ。それでもおじさまは娘のことより恩人の方が大事なの?」


ジェフはハッと顔を上げてリリとリンダを見た。それでもまだ逡巡しているようだった。


「そんなもの、儂らがどうとでもしてみせる!」


「それで結局お宅の都合のいいようにされたら意味ないわ。」


マックスが慌てて否定した。


「そんなことはしない!レベッカの名誉は守ってみせる!」


「それでも、やっぱり噂の的になってジロジロと見られる羽目になるのよ。この街じゃ、そこの男のことを知らない人はいないんでしょう?婚約がなくなって、ソイツが支店に飛ばされて、勘繰らない人はいないわ。それが同情から来るものであっても、レベッカはまた嫌な思いをしなきゃならないの。分かってんの?それとも、それくらいは我慢しろって言うわけ?」


「しかし、婚約破棄のことは決まったことで、それについてはどうしようも……」


マックスは口籠もってしまった。ブライアンの手前、強気で押すつもりでいたが、レベッカが好奇の目を向けられることはどうしても避けられないことも分かっている。金を払えと言うなら払うが、あちらの要求は完全な縁切りだ。金などいらぬという姿勢に他ならない。


「不可避なことならそちらから誠意を示すか、こちらから制裁を加えるか、どちらかしかないじゃない。言っとくけど、お金じゃ動かないわよ。」


「そ、それは分かっている……」


「誠意と言うがね、森の魔女。どうすれば誠意を示したことになるのだね。ジェフは欲がないから金で動かんのも分かっとる。名誉にだって此奴はこだわりがない。メリーはしばらく牢屋に入れられ、店の評判も今回の件で落ちるだろう。慰謝料に関してはこちらも同意している。これ以上、何を望む?」


「リリちゃん……」


ジェフがリリに縋るような視線を向ける。リリはそれを一顧だにせず、ブライアンを睨みつけている。


「そういう心持ちが誠意が足りないって言ってんの!加害者側がこれでもう充分だろうって言うこと自体が誠意がないじゃない!」


レベッカとリリと出会う前のこととはいえ、リリはグッドマンの面々に怒っていた。一応、自分が感情的になっている自覚はある。そろそろ折衷案を出してもいい頃だとも分かっている。だが、ブライアンの横柄な態度に腹が立った。彼はジェフのことしか考えていない。リンダもレベッカも、ジェフの付属品と思っている。それが癇に障った。


ずっと静かに傍観していたニールが口を開いた。


「ならば、どのようにすればよろしいですか?こちらとしてはジェフさんとのお付き合いを続けたいと思っております。条件があるなら呑みますので、どうか一考していただけませんか?」


お読みいただき、ありがとうございます!

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