王子様、旅立ちの決意/帝王のプライド
ご来訪、ありがとうございます。
まだまだおじいちゃんのターンです。
よろしくお願いします。
「大旦那様、いくらなんでも横暴ではありませんか?」
意外にもリンダが意見した。ブライアンは訝しげにリンダを見た。
「これで君らの溜飲もいくらか下がると思ったのだが、違うかね?」
「私たちはメリー奥様を犯罪者にしたかったわけではありません。何がいけなかったのかを理解していただいた上で、心から謝って欲しかっただけです。」
「そんな日はいくら待っても来ない。儂らとて長いこと待っていたが、結局この有様だ。」
確かにブライアンの言う通りだった。メリーが改心する日は一生訪れないだろう。そこに残った者、全員が思った。マックスがいれば、きっと同じように思っただろう。リンダも黙ってしまった。悔しそうな顔をしている。
ジェフとリンダの夫婦は、似た者夫婦だ。リンダはしっかりしているが、性善説が思考の基本になっている。善は人の数だけあるのが分かっているようで分かっていない。
「でも、おじいさま。母さんを放り出して、後はどうするの?実家とも疎遠だし、帰るところないわよ、あの人。」
ここに来て初めてエリオットが口を開いた。
「俺が面倒見るよ。姉さんが家を継ぐなら俺が独り立ちする方がいいだろ?どこかに部屋を借りて、二人で住むさ。」
「アンタと二人だと不安しかないわ。母さんのこと、抑えることが出来るの?またやらかしそうで怖いのだけど。」
「俺が支店に行ってもいいよ。領内だけど、どこか離れた街に行けば、レベッカの家に迷惑かけることないと思う。ジェフさん、リンダさん、どうですか?」
ジェフとリンダは顔を見合わせた後、リリを見た。リリはひとつ頷く。
「それで構わないわ。危ない奴とは物理的に距離を取った方がいいもの。アタシたちもアンタの顔も見なくて済むしね!」
エリオットは苦笑した。ここまで異性に敵意を向けられたのはリリが初めてだった。改めて落ち着いて対面すれば、今までどれほど彼女に嫌な思いをさせてきたかを実感することが出来た。
「君にも今まで申し訳なかった。ごめん。レベッカもだけど、もう偶然会ったとしても声をかけたりしないよ。約束する。」
「あったりまえでしょ!約束じゃなくて契約よ!くれぐれも軽く考えないことね!」
「レベッカにも、迷惑をかけてごめん、と伝えてくれるかな?」
「嫌よ!あの子にはアンタの名前も聞かせたくないわ!アタシたちの楽しい時間に水を差すようなことしたくないもの。」
「ずいぶんとレベッカを気に入ってるんだね。」
「うるさいわね!アンタには関係ないでしょ!」
「私から伝えるよ。」
ジェフが答えた。エリオットは一礼すると、安堵の表情を浮かべた。
「さて、メリーとエリオットの件はこれでいいかね?森の魔女よ。さっさと本題に入ろうじゃないか。」
ブライアンは商売のことしか考えていない。そこにマックスが戻ってきた。
「戻りました。」
「母さんは?」
エリオットが問うと、マックスはため息をついた。
「とりあえず、馬車で家へ帰した。家から出ないように言って、ダンたちに見張ってもらうことにした。警察へはその後だ。親父、いいか。」
「分かった。今はそれでいい。話が進まない。座れ。」
「それでは、専売契約についてですね。では、まずこちらを。」
弁護士が一枚の契約書を出した。グッドマン商会側と専売契約を交わした時の紙だ。最初に契約を交わして以来、更新されたことはない。文面は取り分と契約違反事項について触れている。
「今回はこちらの違反事項にある〝互いに対し不利益を与えた場合、契約を解消または契約内容を改める機会を設ける〟が適用されます。」
この一文は主に職人側が違反した場合のことを考えて入れられていたのだが、マックスたちはまさか自分たちが違反者側になるとは思ってもみなかった。
「そちらのご希望はございますか?」
ジェフの顔が曇る。恩を感じているが、義理を果たしている自分たちに不義理をしたのは商会側だ。ブライアンはレベッカとエリオットの婚約に難色を示していた。その不安は実際のものになってしまったのだから、自分たち、いや、自分の見通しが甘かったとしか言い様がない。
それでも、商会側の過失は見逃せない。リリとリンダに説得され、専売契約を解消するつもりでいた。しかし、ブライアンを目の前にすると、申し訳ない気持ちが再び溢れてきた。
「専売契約の解消をすれば、今までのような商会の庇護を受けられなくなる。そうなれば、お前への足がかりとしてレベッカを狙う者も出てくるだろう。儂は婚約なぞしなくとも、お前を家族ごと守ってやるつもりでいた。それは今でも変わらん。」
ブライアンにとって、ジェフは現役最後の大仕事だった。ジェフの作品を貴族に売り込み、最初は無名が故に相手をされなかったが、領主の娘の結婚式のティアラのコンペを勝ち取ったことで、大きな評判を呼んだ。
それからのジェフの大躍進は言うまでもない。小さな石を使う繊細な彫金のデザインから、王侯貴族でも垂涎するような大きな石を使い伝統を踏襲しながらも大胆なデザイン、街の若者でも少し頑張れば買えるような価格帯で飽きの来ない普遍的なデザインまで、幅広い活躍を見せた。
ジェフを見出したことは、ブライアンの誇りだった。
ブライアンにとって、商人としての集大成がジェフだった。
絶対に逃すものか。そう決めていた。
メリーは変わりません。
周りが変わるだけです。
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