魔女の友だちは友だち
娘が三人寄って姦しいです。
ウソです。姦しいのはリリだけです。
リリはレベッカとテレサに挟まれて、レベッカの両親と向き合っていた。
結局、失態を冒してしまった。リリは貴重な素材を使った薬の調合を失敗した時よりも落ち込んでいた。人生最大の落ち込み具合だ。
おかげで、まだクッキーにも手をつけられていない。
「あ、あの、本日はお日柄もよく…」
「おじさん、それ、なんか違うわよ。」
「あっ、ああ、そうか。いや、本当に、すみません、夫婦で取り乱してしまって。改めて、先日はありがとうございました。リリさんがすぐにお気付きになったことを、親の私が長い間分からずいたなんて、親として不徳の致すところです。まだ数日ですが、レベッカの笑顔が増えてこんなに嬉しいことはありません。リリさんのお力添えをいただけなかったらこんな日が来ることもないまま、嫁に出してしまったことでしょう。重ねてお礼を申し上げます。」
ジェフが語り終わると、夫婦は揃って深々と頭を下げた。
リリはハッとして、少し俯いていた顔を上げ慌てて二人に声をかけた。
「そ、そんなに畏まらないでください!今日は友人として、お家に遊びに来ただけですから!頭を上げてください!結構ですから!」
レベッカが、リリって丁寧な言葉でも話せたんだな、などという明後日なことを考えていたら、テレサにリリ越しに膝を軽く叩かれてしまった。
「そうよ!これから家に来る度に毎回そんな態度を取られたら、リリだって来づらいじゃない!」
「えっ!また来ていいの!?」
「えっ!来てくれないの!?」
娘と魔女の気の抜けるやりとりを見て、リンダはようやく落ち着きを取り戻した。
「分かったわ、リリ、でいいかしら?これからも是非遊びに来て頂戴。私たちは大歓迎よ。」
「おい、リンダ!」
「ジェフ、気を遣わせたら却って悪いわ。」
「おばさまのおっしゃる通りです。おじさまもリリとお呼びください。」
「お、おじさま…そんな貴族みたいに呼ばれたことないぞ。」
狼狽えるジェフにリリは困惑した。畏まった言葉遣いはリチャードに教わったので、平民には大仰過ぎたようだ。
「申し訳ありません、家族以外でまともに会話する相手は貴族だけなので……」
「なら、家族に話すように話して?娘のお友だちなんですもの、気軽に接してくれるとうれしいわ!」
リンダに笑顔を向けられて、リリはむず痒くなった。象牙色の肌が耳まで赤くなっている。
「かしこまりました…じゃなくて、分かったわ。今日、騎士団へ行って薬を渡してきたの。話は聞いた?」
「あ、ああ、三日前にニールさんがレベッカを送ってきてくださってね。その時はすぐ店に戻らなければならないと言うので、婚約を解消することになったとだけ告げられて帰られた。」
「あちらの有責だから、実際には婚約破棄ね。書類を作って持ってくるって言うから、レベッカに学校帰りに取りに行かせますって断ったら、自分はレベッカとはもう会えないから、って。その日は泣いてひどい顔だったから馬車で送ってくれたけど、これから来るときはレベッカが学校に行って不在のときだけになるなんて言うし、サッパリ意味が分からなかったわ!」
アハハ、とリンダは笑うが、ジェフは苦い顔をしている。
「まあ、それで、翌日会頭のマックスさんとニールさん、それに顧問弁護士の人を連れてやってきたんだ。契約書見せられたけど、正式な騎士団の文書だって言うからおったまげたよ。」
「そうね、恐れ多くて触るのも躊躇ったわ。」
「アタシが知り合いに頼んだの。兵站長のリチャードよ、サインがあったでしょ?グッドマン商会とも顔見知りだし、男爵だけどここの駐屯地の中ではそこそこ権力があるから、融通がきくの。あっちは商人だもの、結局向こうに都合のいい契約になってしまったら意味がないわ。」
大人は目を丸くした。貴族までも利用するなんて、なんとも魔女らしい。
「随分しっかりしてるのね、うちの子とは大違い。歳は変わらないわよね?」
「十五よ。」
「なら、私たち同い年なのね!魔女は学校に行かないの?」
テレサが質問する。市中ならともかく学校では黒髪だと目立つはずだが、見かけた記憶がない。
「行ったわよ、飛び級ですぐ卒業したけど。」
「じゃあ、入学式のときにいたのね!気付かなかった!」
レベッカはなぜか嬉しそうだ。レベッカの笑顔を見るとリリも嬉しくなる。
「目立たないようにカツラ被ってたからね。」
「そういえば、入学してすぐにテストで全科目満点取って飛び級した子がいるって聞いたわ。」
リンダは他の子どもの保護者から話を聞いたことがあるようだ。
進級テストは希望があればいつでも受けられる。合格すれば上のクラスに上がれる。単位制なので、仕組みとしては必修科目と選択科目で単位を取り切れば一年目でも卒業出来る。
「実技もあったから、三ヶ月くらいかしら?毎日毎日ひたすら問題を解いて、ノイローゼになりそうだったわ!問題だって、大したことないんですもの!」
「さすがだな、叡智の魔女というのは本当なのか。」
「おばあちゃんが言うには、こちらの学問が遅れているんですって。あんなもの時間をかけて学ぶのは無駄だからさっさと終わらせろって言われたわ。」
おだてられてようやく調子が出てきたのか、リリはクッキーに手を伸ばした。
「魔女は色々学ぶの。医学薬学だけじゃなく、心理学とか経済学とか。法律もね。祖国で搾取されてきた歴史があるから、もう二度と騙されないようにってことらしいわ。」
なるほど、とリリ以外の四人は感心した。魔女に歴史アリだ。すると、リリは急にモジモジしだした。
「だからね、今回のことも、まだ問題は残ってるでしょ?よかったら相談に乗ってあげようかなって……と、友だちだし?」
「あら?茶飲み仲間じゃなかったの?」
とテレサが揶揄った。リリはガシッと勢いよくレベッカをつかんで叫ぶ。
「もうっ!さっきは悪かったわよ!アタシたちは友だちよ!」
「じゃあ、私は?」
テレサが追い討ちをかけると、リリはまた真っ赤になってしまった。
「とっ、友だちよ!聞いたことあるわ!友だちの友だちは友だちなんでしょっ!?もうーっ!!」
「テレサ、あんまり揶揄わないであげて?」
あんまりリリが取り乱すので、リンダもジェフも大笑いしてしまった。
「ああ、おかしい!三人とも、もうすっかり仲良しね!」
目尻に溜まった涙を拭きながら、リンダはお茶を淹れ直すために席を立った。
リリちゃん暴走しがち。
テレサはレベッカが沈んでいくのを間近に見てきたので、それを解決してくれたリリに感謝していますが、かわいい子ほど揶揄いたくなる質なので、ついやってしまいます。
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