魔女、初めてのお宅訪問
レベッカと愉快な家族。
ちなみにレベッカはひとりっこです。
リリは騎士団でニールに解毒薬を渡した後、魔女のローブを学生鞄のような肩かけバッグにしまい、街の学校へと向かった。
国民の義務である基礎教育は七歳から十五歳まであり、平日の五日間午前九時に授業が始まり、午後三時には終了する。
リリは現在十五歳だが、とっくに飛び級で卒業したので学生ではない。今日の目的は、友人となったレベッカの待ち伏せだ。
寄り道しながら下校時刻に合わせて校門の前へやってきた。
リリは美少女だ。なおかつ異国風の色をしているのでかなり目立つ。
かといって、この街に異国の者が全くいないわけではない。移民や商人の出入りがあるので、一度チラリと見られはするが、それ以上のことはない。
リリは自分が美しい自覚があるので、盗み見られても気にしない。煩わしさはもう捨てた。
レベッカの姿が見えた。知らない女の子と楽しそうにおしゃべりをしながら歩いてくる。リリは少しムッとしたが、気を取り直して笑顔を作った。
レベッカはニコニコ顔のリリに気付くと、友人に一言断ってからうれしそうな顔をして駆け寄ってきた。
「リリさん!こんなところでどうしたの?びっくりしたわ!」
「薬を渡してきたから、その報告よ。街もブラブラしたかったし?ついでにアンタの顔でも見てこうかなって?」
リリは視線を泳がせた。いざとなるとなんだか気恥ずかしい。
後ろからレベッカの友人が追いついてきた。
「テレサ!この人がリリさんよ!私の恩人で、お友だちになったの!」
「お友だちじゃないわ!茶飲み仲間よ!」
テレサはレベッカから話を聞いていたのでリリが森の魔女であることを知っているが、実際に会ってみれば人目を引く美少女なのでとても驚いた。
しかし、口を開けば年相応の娘らしさがある。テレサは思わず笑ってしまった。
「何よ!初対面で!失礼ね!」
「ごめんなさい、つい。森の魔女がこんなにかわいい子だなんて思ってなかったの。初めまして、リリさん。テレサです。レベッカの幼なじみよ。私の家もグッドマン商会と関わりがあるから、話は聞いているわ。」
「フン!アンタがテレサね。あのクソバカ男がアンタの方が良かったって言った女ね。」
「そうらしいわね、初めて聞いたわ。」
テレサもまた美しい容姿をしている。風に靡く真っ直ぐな亜麻色の髪に翠色の瞳の少女だ。美少女が並んでいるので、周囲の視線を集めている。
「ねえ、リリさん。これからテレサと私の家でお茶する予定なの。昨日久しぶりにクッキーを焼いたから、それを食べようかなって。一緒に来ない?」
「別に呼び捨てでいいわよ。あとあんまり外で私の仕事の話しないでくれる?バレたら貧乏人が押しかけてきて面倒なの。」
レベッカとテレサは顔を見合わせた。なんという言い様だ。だが、こんな少女が森の魔女と分かれば無理難題を押し付ける輩が湧いて出てくることだろう。
「軽率だったわ、ごめんなさい。」
「分かればいいのよ。クッキーはプレーンかしら?ナッツは入ってる?」
「ふふ、プレーンもあるし、ココア生地にアーモンドを入れたやつ、胡桃とチョコチップが入ってるのと、オートミールとドライフルーツ入り、ちょっと奮発していい紅茶の葉っぱを使ったのも!なんと五種類!」
レベッカは作ったクッキーの種類を指折り数え、最後にリリに向かって手のひらを向けた。
「ア、アンタ、なんか性格変わってない?」
「あら、レベッカは元々こうだったのよ。無邪気で、天然って言うのかしら?ちょっと変わってるのよね。」
「そう?普通じゃない?」
「普通ではないわね。今でも虫とか鷲掴みにしてるじゃない。」
「テレサは怖がりすぎよ。そのくせアゲハ蝶のブローチとか使ってるじゃない。虫は造形の勉強にいいの。」
「それでも普通は素手でこねくり回したりしないわよ!……ね、こんな感じなの。」
「アンタの苦労が偲ばれるわ、テレサ。」
「うふ、ありがとう、リリ。」
「なんだか、私よりもう仲良しみたい。」
レベッカは頬をぷうと膨らませた。
「ハイハイ、いいから、もう行きましょ。チャーリーにジャーキーを買ってから帰るんでしょ?」
「チャーリー?」
「ウチの犬よ!猫もいるけどね。」
「猫!猫、好きなの!触らせてもらえるかしら?」
「人懐こい子もいるから大丈夫!お客さん大好きなの!」
「楽しみだわ!」
それから三人は予定通りジャーキーを買ってレベッカの家へ向かった。
レベッカの家から工房で使う機械の音が響いていた。周りも職人の家だらけなので、金属を叩く音や木を切るのこぎりの音、人の作り出す様々な生活の音が聞こえる。
静かな森で木々の騒めきや鳥の声を聞いて暮らしているリリには、それがとても新鮮に思えた。キョロキョロと周りを窺っている。
「リリ、工房の音がうるさかったらごめんなさい。ただいまー!」
レベッカがドアを開けると、ワン!と犬のチャーリーが飛び出してきて、こぢんまりとした庭を一周するとレベッカの足元にすり寄ってきた。
「ふふ、チャーリーただいま。鞄から何か匂う?後のお楽しみよ、ちょっと待っててね。」
レベッカがチャーリーの頭をひと撫ですると、リンダがエプロンで手を拭きながら奥から出てきた。三角巾の下から見える髪の色はレベッカと同じブルネットだ。
「おかえりなさい。テレサもいらっしゃい、久しぶりね。あら?そっちの子は?」
リリの姿を見留めるとリンダは榛色の瞳を瞬かせた。顔立ちは似ていないが、リンダはレベッカと同じ落ち着いた色をしていて、緊張していたリリは少しだけ安心した。
「あ、この子は……」
「はっ、初めまして!リリです!レベッカの友人です!よろしくお願いします!」
校門の前で否定したのに、友人を名乗っている。リチャードに仕込まれた挨拶だ。
レベッカの友人になるのなら、友人に恥をかかせてはいけないよ、と言われていた。テレサの時は失敗してしまったので、今回はちゃんと言えた!と満足そうな顔をしていた。
「リリちゃん?学校の子じゃないわよね?あら?でも、最近お名前を聞いたような……」
「お母さん、リリは森の魔女よ。」
沈黙の後、リンダは叫んだ。
「えええええ!いやだ、もう、早く言ってよ!申し訳ありません、失礼いたしました!この度は森の魔女様にお世話になりまして、わたくしも主人も本当に感謝しております!ただいま主人も呼んで参りますのでご挨拶を、ああ先にお席に、汚いところですが、あっ、お茶も出さなきゃ!」
リリは圧倒されてカチコチに固まってしまった。客ならば森の魔女として横柄な態度でも許されるが、友人の親となるとそうはいかない。失礼な態度を取れば、あの子と遊んではいけません!と言われるよ?とリチャードにも釘を刺された。
経験のないリリは必死にリチャードの助言を思い出しながら、失態は許されないと緊張で動けなくなり、直立不動でフリーズしている。
「お母さん、落ち着いて!リリが驚いてるわ!」
「おばさん、とりあえず森の魔女様の接待は私たちがするから、おじさんを呼んできて。レベッカ、悪いけどお茶淹れてくれる?おばさん、このままじゃお盆ひっくり返しそうよ。」
「そうね。ほら、お母さん、深呼吸して。はい、すーっはーっ!」
「すーっはーっ、ああ、まだドキドキしてる。取り乱しまして、お見苦しい姿をお見せしてすみません。少々お待ちくださいね。」
リンダはバタバタと足音を立てて、お父さん!おとうさーん!と工房の方へ走って行った。レベッカは小さく嘆息してお茶の用意を始めた。
「おばさんが一番騒がしかったわね。リリ、大丈夫?」
「だっ、大丈夫よ!なんてことないわ!ただ、ちょっとびっくりしただけ!」
テレサに促されて席につく。勝手知ったる他人の家なのだろう、自然な態度だ。リリの胸がチリリとした。
「リリ、お茶どうぞ。クッキーも。お口に合えばいいんだけど。今回は贅沢にバニラビーンズも使ったから、美味しいはずよ。」
「レベッカのお菓子はいつも美味しいわよ。味は保証するわ。」
テレサに褒められて、レベッカは照れ臭そうに肩をすくめた。
工房へ向かう扉の向こうから、バタバタと足音が聞こえてくる。バタバタの数が増えたようだ。
「レベッカ!森の魔女様がいらしてるって!?」
「お父さん!失礼よ!まずご挨拶して!」
「あ、ああ、すまない。レベッカの父、ジェフと申します。こちらは妻のリンダです。この度は娘がお世話になりまして、妻共々感謝しております、ええっと、今日はどのようなご用件で?」
ジェフは朴訥とした、平凡な男だった。濃い金髪に大地の瞳で、顔立ちはレベッカによく似ていた。どことなく、人の心を和らげる雰囲気が感じられる。
しかし、その手から作り出されるジュエリーは世界中の人々を魅了しているのだから不思議なものである。
「今日はリリが会いに来てくれたから、お茶に誘っただけよ!それに森の魔女様っていうのもやめて!誰かに聞かれたらどうするの?リリが大変なことになるわ!」
森の魔女は街の人間にとって、気まぐれに手を差し伸べる神のような存在だ。小さな願望から巨大な野望まで、運がよければ叶えてもらえるかもしれない、そんな風に考える者が大半だ。
実際に森へ魔女を探しに行くものもいる。棲家を見つけられた者の中で、願いを聞き届けられた者のみが魔女の薬を得る。
それが、年端もいかない少女で、その辺の娘のように街を出歩いていると知られれば、大騒ぎになるのは容易に想像出来る。
「た、大変申し訳ありません、リリ様!」
「もーっ!様付けはやめてー!」
緊張が限界値に達したリリはとうとう叫び声をあげたのであった。
女の子の三人組が好きです。
バランスが取れてる気がします。
男の子三人組も好きです。
三が好きなんですね。
お読みいただき有難うございます。




