王子様は恨まれている
ニール空気回。
ニールはみなさんの想像する出来る限りのロマンスグレーなステキ老紳士を思い浮かべて下さい。万年筆と懐中時計は必須ですが、メガネはオプションです。
よろしくお願いします。
「声に出して読み上げろ。」
マックスがそう言うと、エリオットは素直に読み上げた。
一、エリオットとレベッカの婚約解消を書面にすること。
二、レベッカに慰謝料を支払うこと。金額は勉強と称して無給で働かせていた分に上乗せで、グッドマン商会の基準で、解毒薬を販売した場合の利益率分。
三、レベッカの父であるジェフが専売契約を断っても恨まないこと。
四、グッドマン商会の者、特にグッドマン一家とニールはレベッカに故意に近付かないこと。
五、これらの条件をもし破った場合には、森の魔女が今回の件を世間に公表し、騎士団の取引も停止すること。
「どうして騎士団なの?」
「それは魔女への仲介を騎士団に頼んだからよ。アンタの元カノのアンが騎士団へ行けって教えてくれたの。」
「兵站長のリチャード様のサインも入っております。森の魔女の後見人のような方で、この契約に関して問題が起きた時に騎士団預かりにするため、サインしてくださったのです。」
「なんでそんなおおごとに?」
「それはこっちのセリフだ!お前、アンとも関係があったのか!騎士団内でお前の心証は最悪だ。恋人を取られたという騎士が少なくないというじゃないか。しかもだ!お前、魔女に声をかけたんだって?ニールによれば、街で会う度にしつこくされたと相当お前のことを嫌っているって話だったぞ!」
「魔女となんか知り合いじゃないよ。人違いじゃない?」
「黒髪に黒目で、象牙の肌の、美しいお嬢さんですよ。年の頃はレベッカさんと同じか一つ上くらいですね。」
「……ああ、あの子か。あの子が森の魔女なの?おばあさんかと思ってた。あの子なら俺とピッタリだと思ったんだ。すごく綺麗な子だから。」
「相手は嫌がってるがな。魔女は解毒薬を売り渋ったが、レベッカに絆されて、レベッカになら売ってくれることになったんだ。それをこちらに譲るのにつけた条件がコレだ。俺は散々お前に女遊びはやめろと言ってきた。母さんに庇われ続けて好き放題した結果、こうして問題を起こした。どうやらピンときてないようだが、そもそもお前はレベッカとの婚約で重大な契約違反を犯している。魔女が公表しなくても、これでジェフとの取り引きがなくなって、その事情が世間にバレたら、ウチの評判はガタ落ちだ!お前はどうやって責任を取るつもりなんだ?このことを客に知られたら、お前を跡取りから下ろしただけじゃどうにもならないんだぞ!?」
エリオットは答えられなかった。視線をさまよわせ、動揺を隠し切れない。
「何度も言ったわよね?従業員の態度はウチの評判に関わるって。特にアンタは目立ってて有名なんだから、私生活も気をつけなさいって!コソコソしてるつもりでもどこからか誰かが見てるんだって!人の往来があるところで、女がアンタを取り合ってキャットファイトしたことも、私、お客様に教えられたのよ!?アンタが跡取りで大丈夫なの?って言われたけど、そのお客様はすでにアンタのことは大丈夫じゃないって思ってるから聞いてきてるのよ!?口には出さなくてもそんな人がたくさんいるの!今はただの従業員だけど、アンタが上になる頃にはアンタが遊んだ女たちが主な購買層になる!恨んでる男のいる店で、買い物したいと思うかしら!?それをこれから私とテッドで尻拭いしていかなきゃならないのよ!!この!頭の悪い!弟のせいで!!顔だけ男!役に立つのは顔だけなんだから、マネキンだけしてればいいのよ!商会の、父さんの、私の足を引っ張らないでっっ!!」
サマンサは滂沱の涙を流しながら湯たんぽでエリオットのベッドをボスボスと叩いた。
エリオットは呆然とサマンサを見つめた。なんとなく漠然と、自分は何をしても許されると思っていた。実際に、許されてきたと思っていた。そうではなかった。ただみんな言わなかっただけだ。レベッカのように。
「俺は、姉さんにも、恨まれてるの?」
「そうよ!母さんをいっつもひとりじめして!外を歩けばチヤホヤされて!才能もなければ努力もしないくせに!男だからって!跡取りって!私の方が先に生まれたのに!私の方が!ずっと、ずっとずっと、がんばってるのに!お姉ちゃんだからって!出来て当たり前だって!長女なんだから家のためにがんばるのは当たり前だって!なのに女だから跡取りになれないって!がんばっても母さんに褒められたことなんて一度もない!褒めるときはアンタの面倒を見たとか、いじめっ子からアンタを庇ったとか!そんなんだけよ!アンタはいつも当然の顔して、私の欲しいものを与えられる!だからずっと嫌いだった!アンタが生まれてから、ずっとずっと大嫌いだった!!」
サマンサは子供のように泣き出した。マックスは気まずい顔をしたが、隣でベッドに泣き伏せて嗚咽しているサマンサの背中を優しく撫でた。
「サマンサ、もういい。悪かった。俺が悪かった。俺が言ったんだ。お前が産まれた時に、メリーに言ったんだ。女じゃ跡継ぎになれないなって。言ってしまったんだ。お前が産まれてきてくれてうれしかったのに、かわいかったのに、言ってしまったんだ。何気ない一言のつもりだったが、母さんはずっとそれに囚われてたんだな。今やっと分かった。そのせいでお前に辛い思いをさせてきた。エリオットも歪んだ愛情を与えられて人の心の機微が分からないまま大人になってしまった。すまなかった。俺のせいだ。全部俺がいけなかったんだ。」
マックスはそのままサマンサを抱きしめた。娘に触れるのは久しぶりだった。サマンサの体は赤子のように温かく、マックスは家族を顧みずにきてしまったことを後悔していた。
グッドマン一家の歪み。
メリー不在で進んでますが、どうなるでしょうか。
今回もお読みいただきありがとうございました!




