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顔だけ男は眠り姫の呪いをかけられる  作者: 里和ささみ


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王子様、目覚める

またタイトル詐欺疑惑。

よろしくお願いします。

三日後、約束の時間になるとリリはやってきた。


ニールは内心不安だった。魔女という生き物は、猫のように気まぐれだからだ。だがそれは杞憂に終わった。


今回も同じ部屋に通されたニールは同じ席につき、同じようにリチャードとリリと向かい合っていた。


あの後にグッドマン商会であったやりとりを二人に話し終わったところだ。


「では、眠っているエリオット氏以外のサインは済ませたのですね。」


「そんなんでよくその女がサインしたわね。」


「それは会頭が離婚を盾に脅したからでしょう。喧嘩の多い夫婦ではありますが、あの二人は恋愛結婚ですから。」


リチャードとリリは驚いた。それなのに、自分の子には政略結婚を勧めるとは。不思議なものである。子どもには安全な道を歩ませたいという親心かもしれない。


今日のニールは余裕がある。出された茶に優雅に口をつける。最早、商会にいるよりも気持ちが落ち着くような気もしていた。


「ふうん、ま、いいわ。本題に入りましょ。ハイ、コレ!解毒薬ね!」


トンとテーブルの真ん中に置かれたのは、スクリューキャップの小さな小瓶だった。


「コレね、飲ませる直前まで封を開けないで。中の空気は抜いてあるから開けない限りは大丈夫だけど、空気に触れるとあっという間に効き目がなくなっちゃうから。」


ニールもリチャードも、まじまじと小瓶を見つめた。


「それならば、どのように飲ませればよろしいのですか?」


「意識のない人間に飲ませるにはどうしても時間がかかるでしょ?多めには入ってるけど、瓶から直接飲ませらんないし。だからね、口移し。蓋を開けたら誰かがすぐに口に含んで、口移しで少しずつ嚥下させるの。今も栄養剤飲ませてるんでしょ?容器は口だけど、その要領でね。」


ニールは固まってしまった。誰がそれをやるというのか。


「だからね、これは眠り姫の薬って魔女の中では呼ばれてるの。本当は山で遭難したときなんかに使うのよね。雨風避けれるとこに移動して、周りに獣避けを焚いて、これを飲んで仮死状態になって助けを待つのよ。魔女の使う薬は、栽培が難しいものもあるからね。山に採りにいくしかないものもあるのよ。」


魔女には飼い慣らした鳥が必ずひとりに一羽いるので、遭難したらその鳥を飛ばして助けを呼びに行かせる。魔女たちは数日がかりで山に入るので、場所によっては助けがいつ来るかは分からない。


眠り姫の薬を飲めば、数週間は飲まず食わずでいられるらしい。目覚めた時には衰弱しているので、療養食から始めるそうだ。リリは消化しやすいものから食事を始めるように指示をした。


「じゃ!誰が薬を飲ませるのか知らないけど!がんばって!」


リリはいい笑顔で去って行った。学校の終わる時間を見計らって、レベッカを待ち伏せして驚かせるつもりなのだとリチャードが椅子から立ち上がりながら説明した。


「では、私もこれで失礼します。眠り姫ならぬ、眠り王子がお姫様のキスで早くお目覚めになるのをお祈りしておりますよ。」


レベッカに送られてきた手紙を思い出した。スーザンは知っていたのだ。王子様は、キスでしか目覚めないことを。


ニールは気が重かった。商会に戻り、誰が薬を飲ませるのかまた話し合いだ。


再びマックスの執務室に集まる。商会を辞めさせられたとはいえ、さすがに今日はメリーも同席している。


「というわけでございます。」


ニールは解毒薬の投薬方法を説明した。サマンサはあからさまに顔を歪ませる。マックスの眉間には山脈が出来ていた。このまま山々が定着しそうである。


そんな中、メリーがあっさりと宣言した。


「私がやるわ。」


そもそも栄養剤を飲ませているのもメリーなので、立候補するのも分かる。メリーの表情に躊躇いはなかった。


「早くケビン先生を呼ばなくては!魔女が言うには、目覚めても衰弱しているのでしょう?栄養剤を飲ませてはいるけれど心配だもの。すぐに診察してもらわなければね。」


「薬が効いてくるのは三十分から一時間ということです。」


「なら、今から飲ませるわ。ニール、ケビン先生にすぐ来てくださるようお願いしてきて。マックス、ニールに頼んでいいわよね?」


メリーはもう商会の人間ではないので、マックスに確認した。


「いいだろう。ニール、頼む。」


「かしこまりました。」


「サマンサ、悪いけれど、薬を飲ませる間エリオットを支えて頂戴。一緒に来て。」


サマンサの了解を得る前に、メリーはさっさと部屋を出て行ってしまった。父と娘は顔を見合わせた


「母の愛は偉大ってことだな。」


「正気じゃないわ。」


「全くだ。」


俺も行こう、とマックスも立ち上がり、サマンサを促して、二人でエリオットの元へ向かうと、メリーは遅いじゃない!と小言を言った。ここ数日、意気消沈していたが、すっかり気力を取り戻している。


マックスとサマンサでエリオットを起こし、背にクッションを当てた。それでも不安定なので、横から二人で支える。


メリーはなるべく口元で瓶のキャップを開け、すぐさま口へ流し込んだ。頬を膨らませた顔は栗鼠のようだ。


メリーは素早くエリオットに口づけると、慎重に薬をエリオットに移していく。


サマンサは、うげぇ、と顔を逸らす。チラリと父を見れば、同じように顔を背けて目をつぶっていた。母と、幼子でもない息子のキスシーンは見るに堪えないらしい。


ゆっくりと、時間をかけて口に含んだ分を流し込むと、念のためと瓶に残った液体全てを口に含み、またエリオットに口移しで摂取させた。


二回目の投薬が終わると、マックスは起きたら呼んでくれ、とだけ言って仕事に戻った。


しばらく沈黙が続いた。メリーはエリオットの体を再び寝かせて、手を握りしめている。


「薬、残った分は意味がないって言われたじゃない。本当に息子に甘いわね。」


メリーはサマンサの方へ振り返ると事もなげに言った。


「何言ってんの。アンタでも同じことするわよ、私は。」


サマンサは目を見開いた。メリーの視線はエリオットにすぐ戻ってしまった。


「そう。」


サマンサが呟くのと同時に、エリオットは重たげに瞼を開いたのだった。

目覚めるだけで終わってしまった。

ラストスパートです!

よろしくお願いします。


お読みいただきありがとうございます!

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