魔女、友人が出来る/王子様の家族、喧嘩する
すみません、エリオットが起きる前に家族喧嘩を入れてしまいました。
すぐに次を投稿しますので、続いてよろしくお願いします。
結局、森の魔女リリはニールから小切手を受け取った。
但し、解毒薬を売るための条件をつけた。
一、エリオットとレベッカの婚約解消を書面にすること。
二、レベッカに慰謝料を支払うこと。金額は勉強と称して無給で働かせていた分に上乗せで、グッドマン商会の基準で、解毒薬を販売した場合の利益率分。
三、レベッカの父であるジェフが専売契約を断っても恨まないこと。
四、グッドマン商会の者、特にグッドマン一家とニールはレベッカに故意に近付かないこと。
五、これらの条件をもし破った場合には、リリが今回の件を世間に公表し、騎士団の取引も停止すること。
これらの条件ももちろん書面にした。騎士団内で使われる正式な契約の書式だ。紙も、下の方に騎士団の紋章が印刷されている。
書記はヘンリーが務め、三部作成し、レベッカ、魔女リリ、リチャード、ニールがサインをした。あとは商会の代表であるマックス、妻メリー、娘サマンサ、息子エリオットのサインを書いてもらい、レベッカ、グッドマン商会、騎士団で各自保管する。
「リチャード様のサインはどうして?」
レベッカはリリに聞いてみた。
「立会人として、ね。第三者で権力がそこそこあるから、書類に名前があればコイツらが契約を反故にしても口を出せるでしょ。何かあったら思う存分、活用するといいわよ。」
「そうなのね、私、まだ知らないことだらけだわ。リチャード様、ありがとうございます。」
レベッカは頭を下げた。
「なんのなんの。これくらい、お安い御用ですよ。リリの友人になってくださるんですからね。」
「いい加減にしてよ!魔女に友だちなんていらないのよ!」
「えっ!でも私、リリさんとお友だちになりたいです。」
「は、は、はぁ!?」
リリは驚愕した。魔女に〝おともだち〟だなんて言葉、似合わない。
「ダメですか?」
「いいじゃないか!君たちの性格は正反対で、だからこそ刺激し合える。素敵な友人関係が築けると思うよ。お菓子を食べて愚痴を言い合ってお茶を飲むんだよね?」
リチャードは嬉しそうだった。やはりリリにとても近い人なのだなとレベッカは思う。
「じゃ、じゃ、じゃあ!友だちにはならないけど!ぜぇったいにならないけど!愚痴仲間くらいにはなってあげるわ!でも、それだけよ!友だちなんかじゃないんだから!」
吃るリリを見て、なんだか私みたいだ、とレベッカは思った。
慌てふためくリリにすかさずリチャードが突っ込む。
「それ、もう友人では?」
レベッカはクスクスと笑った。だが、泣き腫らした目元がまだ痛々しい。
「それでいいです。これからよろしくお願いしますね。」
「分かったわよ!もうっ、アタシ帰るっ!薬は三日後、同じ時間にここに来るから!使い方説明するから、またオジサンが来てよね!あの男の身内連れてきたらタダじゃおかないから!」
リリはヘンリーを押し退けて、自分で扉を開け、バタン!と乱暴に閉めた。あーっ!もうーっ!という叫び声が遠ざかっていく。
「レベッカさんは薬を受け取る際に同席なさいますか?」
ニールが恐る恐る尋ねた。
「いえ、その日は学校があるので。」
そう答えたレベッカは、もう大人に怯える少女ではなかった。
商会に戻って、まずはマックスに報告した。
眉間は未だかつてないほど距離を縮めたが、そうか、ご苦労だった、とだけ言うと、すぐに渡された書類にサインをした。
メリーとサマンサを呼ぶように言われ退室しようとした時に声をかけられた。
「この契約だと、三日後に魔女が来なかった時のペナルティがないな。そんなことに気付けないとは、お前も歳を取ったものだ。」
そういうと、マックスはため息をついた。
確かに潮時かもしれない。ニールはそう思った。
眠るエリオット以外の者をマックスの執務室に集め、ニールは騎士団であったことをみなに説明した。
「お前たちは、必ずこの書類にサインをしろ。これは命令だ、分かったな。」
そう言ってマックスは腕を組み、椅子に背を預けた。横柄に見えるが、本当はふんぞり返るというよりも、脱力しているのかもしれない。
サマンサは大人しくサインをしたが、メリーは食い下がった。
「なんなの、あの子は偉そうに!今までの恩も忘れて!私は認めないわ!」
「俺だって認めたくないさ、婚約解消なんて。ジェフを、…いや。リンダを説得しなければならないと思うと今から頭が痛い。とりあえず、隠居したじいさんを引っ張り出して来るつもりだが……。とにかく騎士団まで巻き込んだんだ。この契約は絶対だ。」
「魔女も騎士団も部外者じゃない!ニールも!自分に任せろと言って私を置いてったくせに、よくおめおめと帰って来れたわね!」
「やめろ!本来ならニールだって部外者だろう!家族の話にニールを巻き込んだことが悪かったんだ。これを機に、エリオットを後継者から外す。サマンサ、お前かテッドのどちらかを後継者にする。そのつもりでいろ。お前は逃すんじゃないぞ。」
「分かってるわ。」
サマンサは即答した。レベッカを、というより、ジェフとのつながりを失ったのは痛手だが、ようやく商会が自分の手に転がり込んで来たのだ。
頭に座るのは自分でもテッドでもどちらでも構わない。母を黙らせる力があればそれでいい。
「マックス、何を言ってるの!?エリオットは長男なのよ!?長男が跡を継ぐのが当たり前でしょう!?なんでサマンサなのよ!女が会頭なんて世間様から馬鹿にされるわよ!テッドがなったら、それじゃあ乗っ取りじゃない!!ニール、やっぱり、アンタが仕組んだのね!!」
「いい加減にしろ!お前はいつもいつもエリオットエリオットって、少しは現実を見ろ!レベッカがこうなったのも、お前が原因だろうが!レベッカはエリオットのことなぞ何とも思ってなかったそうだぞ!あの子は自分の感情に蓋をするのが上手い子だ!これまで文句など言わなかっただろう!魔女に誘導されたからとはいえ、それでもこんなことになったのは、お前がレベッカをみくびって厳しく当たったからだろうが!」
「エリオットの嫁になるのよ!会頭の妻になるんだから、教育が少しくらい厳しくなったって仕方のないことでしょ!」
メリーは少しも悪びれない。夫婦喧嘩を黙って聞いていたサマンサが嘲るような口調で言い放った。
「少しくらい?あれで?レベッカが来るたび毎回毎回怒鳴って!部屋の外まで丸聞こえの声で!あの子の話なんて全く聞く耳持たず!帳簿の見方を教えたの、誰だと思う?私よ!質問してもアンタが何も教えてくれないからって、私に頼みに来たのよ!」
「あんなの、見ればすぐに分かるでしょう!分からないあの子が悪いのよ!」
「ホラ、そうやって自分がやらなかったことを棚に上げる!私の時だって、ニールやテッド、時には父さんに聞いて覚えたのよ!まあ、エリオットには?懇切丁寧に教えていたようだけど?そんなに息子がかわいい!?私は母さんの子どもじゃないのね!?体裁取り繕わなくていいのなら、今すぐにでも父さんに離婚してもらって、私もアンタとは縁を切りたいのよ!レベッカがうらやましいわ!」
娘にまで縁を切りたいほど恨まれているとは。メリーは、震えるほど怒り上がった。昨日、騎士団で向けられた視線だけでも辛かったのに、自分の娘にまでこんなことを言われるなんて、思ってもみなかった。しかし、そこで悲しんだり反省するのではなく、怒りに転換させるのがメリーだった。
けれども。怒鳴り返そうとする前に、マックスが怒鳴った。
「もうやめろ!いいか、今日付けでメリーは副会頭を下ろす!商会のことには関わるな!サマンサ!これで我慢しろ!家でコイツと顔をつき合わせるのが嫌ならとっととテッドと結婚して出て行け!副会頭はカーティスにする!サマンサとテッドはそれを補佐しろ!分かったな!」
カーティスとはニールの息子でテッドの父である。今は仕入れの責任者をしていて、マックスの信頼する部下のひとりだ。
マックスは立ち上がってレベッカとの契約書をつかみ、呆然とするメリーを引きずり部屋を出て行った。
残された二人は言葉を交わさず目も合わさず、それぞれ静かに部屋を出て行った。
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