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顔だけ男は眠り姫の呪いをかけられる  作者: 里和ささみ


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12/90

王子様の婚約者、恩を着せる

今度はニールが荒ぶります。

よろしくお願いします。

「さて、じゃあ、今日のよき日に!お祝いとして!レベッカになら、薬を売ってあげるわ!買うか買わないかはレベッカが決めて。コイツらに忖度(そんたく)なんてしなくていいんだからね。」


項垂れていたニールが勢いよく顔を上げた。


「レベッカさん!レベッカさん!買ってください!お願いします!このままではエリオット様が!」


ニールが前のめりになって近づいてきたので、レベッカは思わず顔を顰めて()け反ってしまった。


「ちょっとオジサン!言ったでしょ、決めるのはレベッカだって。ダメならダメで、アタシを説得してみせなさいよ。商人なんでしょ?」


ニールの顔色が絶望に染まったのを見て、クソダサッ!と魔女は吐き捨てた。


「魔女さん、ひとつお尋ねします。」


「なあに?」


「魔女さんの申し出は、私に薬を買う権利を下さるということで間違いないですか?」


ここでそんな質問が出るとは思っていなかった。魔女自身が言い出したのだから、わざわざ確認するまでもない。


「そうよ。で、どうする?もうレベッカはコイツらと関わりがないんだから、好きに選んでいいのよ。」


レベッカは真っ直ぐに魔女を見つめて、ニコリと微笑んだ。


散々サマンサに教え込まれた、商人の笑みだ。


レベッカは初めてちゃんと笑えた。


「では、私はその権利をグッドマン商会に譲りたいと思います。」


「「「えっ!?」」」


三人の声がユニゾンした。魔女、ニール、ヘンリーだ。


リチャードは愉快そうに笑っている。


リチャードの護衛としての職務を忘れ、思わず声が出たヘンリーは咳払いをすると、視線が彼に集まった。しかし、ニールだけはレベッカを見ている。


「横から申し訳ありません。レベッカさんはそれでよろしいのですか?これまでの仕打ちを(ゆる)して、水に流すとおっしゃるので?」


レベッカは商人の笑顔のまま、小さく首を横に振った。


「いいえ、そうではありません。今も私は自分にされたことを赦せないし、赦そうとも思いません。これは手切れ金です。言うなれば、賠償金です。婚約という契約が不履行になったので、遺恨を残さないために、ここで清算する必要があります。私のためにも、家族のためにも。」


「その理論で言うなら、君は今まで散々相手に契約違反をされてきた。むしろ、慰謝料をもらってもいいくらいなのではないかな?」


リチャードがレベッカに問いかける。


レベッカは笑みを深めて答えた。


「そうすると、きっと(わだかま)りが残ります。私はもうここで全てを終わらせたいんです。私はグッドマン商会の中で異質でした。宝石の中で、ひとりだけ河原の小石みたいに。彼らは意外と彼らの世界のことしか知りません。私は商人になり切れませんでしたが、譲歩してでも彼らの常識に合わせることで利を得たいのです。今後、一切私に干渉しないという利を。嫌なことばかりだったけど、学べたこともたくさんありました。やり方はともかく、教育してくださったことは感謝しています。だから、ここでけじめをつけて、終わりにしたいんです。」


レベッカは振り返ってニールを見た。


婚約を最初に提案したニール。レベッカにとって、その恨みは深かった。


今まで誤魔化し続けてきたが、もう気持ちに蓋をしない。


彼は朗報と悲報を両手に、商会へ戻らなければならない。


レベッカの両親が今回の顛末を知って、専売契約を打ち切ることになれば、ニールは立場を悪くする可能性もある。


レベッカの、精一杯の復讐だった。


ニールは言葉が出なかった。


「そういうわけで、魔女さん。ニールさんに薬を売ってあげてください。」


魔女は呆気に取られていたが、話を振られてハッとした。


「いやいやいやいや!いいの!?ほんっとーにいいの!?アリなのそれ!いや、ないでしょ!フツーない!ありえない!ない!ない!ない!」


思ってもなかった展開に、魔女は取り乱す。


リチャードはそれを見て大笑いした。


「ははははは!森の魔女でも読み違えることがあるんだなぁ!」


「ちょっと笑うのやめてよ!もー、こんなはずじゃなかったのよ!?レベッカ!アンタも笑ってないでなんとか言いなさいよ!」


「うふふ、それよりニールさん。いいんですか?薬を購入しなくて。今を逃したらもう二度と買えないかもしれませんよ?」


「そ、そうです!森の魔女、薬を売ってください!」


「だぁー、かぁー、らぁーっ!アタシはレベッカになら売るって!」


「では、お支払いするお金はニールさんからいただいて、まず私が薬を買い取ります。それをニールさんに渡すので、それでいいでしょう?」


「ははっ!リリ、もうあきらめなよ!君の完敗だ!ふふっ、今日は面白いものが見られて、確かにいい日だな!」


「まあ!魔女さんはリリというお名前なのね!とっても可愛らしくてお似合いです!」


リチャードは笑いすぎて出てきた涙を指で拭った。


「レベッカさん、よかったら、リリと友だちになってあげてください。さっきはしたり顔で語ってましたけどね、この子は友だちがひとりもいないんですよ。だから是非、ね?」


リチャードの「ね?」は、リリの「ね?」によく似ていた。


「リチャード様とリリさんはなんだか話し方が似てますね。もしかしてご親戚?」


「はーあー!?似てないわよ、こんな腹黒クソオヤジ!」


リリは暴言を吐くが、そのやりとりすらも親しさを表しているようで、レベッカは微笑ましく思った。


「森の魔女!いや、リリ様、お値段はっ!?いくらお支払いすればよろしいですかっ!?」


「そんなの知らないわよ!いっつもテキトーに値段つけてんだから!!こちとら金に困ってなんかいないのよ!好きな額支払ったら!?てか、オジサンも勝手に名前で呼ぶなっ!」


「えー、じゃあ、レベッカさんならいいの?」


「そうじゃなーい!!」


顔を真っ赤にして怒るリリを見て、レベッカは久しぶりに心の底から大笑いした。


つい十数分前の深刻さが嘘のように、部屋には笑い声と、ニールの必死な声が響いていた。

次回、いよいよエリオットが目覚めます。

どうなることやら。


お読みいただきありがとうございます!

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