その12
「それがしが、『ゼブラ』か」
スクリーンに映っていた地球が、ザベリン王に変化していた。
天井を見上げるような大きな体格、白い髭が印象だ。王は璃緒と一緒に起立している男を凝視する。
臆しない男は、起立のままだ。一歩前に出る。
「ザベリン王」
スクリーンの男は大きな手を胸にあて、無言で瞳を閉じた。
「今しがた、前主のデータは消失した。王妃の目的は達せられた」
「そうか……。世話になった」
『ゼブラ』の表情から察したその瞳は、優しい。
「やはり人型であると、話し易いのう」
「主が構成したのだ。我はまだ馴染めぬが」
手を開閉しながら言う男に肘鉄を喰らわして、璃緒はスクリーンに向き直った。
*****
「我が娘、リオンよ」
口を真一文字にし、目を吊り上げて璃緒はスクリーンを睨む。
「この一件を含め『ゼブラ』とともに、母星『エクスティーヌ』に還ってくるのだ。色々とそなたに話さねばならん」
璃緒は『ゼブラ』の方を見た。相変わらずの仏頂面で佇んでいる。
「どうしても行かなきゃ、ダメなの?」
「この騒ぎで、高老院の高官たちがうるさく騒いでいてな。理由を話す言葉には、そなたが必要だ」
「ゼブラが欲しいならあげる。持って帰って」
彼女は頭を掻き、息を吐いて言った。隣の男の眉が瞬間少し動く。
「無茶を申すな。そなたしか動かせないことは、誰もが知っている」
ザベリン王は顎髭を摩って呻いた。
「冗談よ」
乾いた空気の中、璃緒は笑う。
「『宇宙の征服王』といつまでも茶番めいたことをしても、時間の無駄なことはわかっている。その高老院って人たちと会って、きっちり話すわ」
「そうしてくれぬか」
少し安堵の声色となった。
「でも伝えておいて。『ゼブラ』を自由にした。ザベリン家とはもう関係しない。彼は破壊する道具じゃないし、そんなことにはもう協力もしない」
「何と」
スクリーンの王は目を見開いて驚いた顔をする。
「相談すべきだった?」
それはすぐに大きな笑いに変わり、頷いた。
「天晴れ。それでこそザベリン家の継承者よ。皆『ゼブラ』を恐れ、欲していた。手に入れた者は大いなる力という武力と法的権力を持つ。この宇宙を我が物顔で通ることができるのだ。それが幸か不幸か。その主が死に絶えるまで、これは付き纏う。しかし運命とまで決定づけられたその力を手放すことなど、誰も考えはしなかった」
「でも、セブラは私についてくるんだって。ちょっと迷惑だけど」
戯ける璃緒のそばで、未だ表情を変えない男が見守っている。
「『ゼブラ』にそのように言わせたことは、そなたを信頼しているからだ。それも見事。『ゼブラ』はそなたしか起動させる事ができない代物。それ自身が決めたことであるならば、それで良い」
スクリーンに映る王の目は強面の顔だが優しかった。
その瞳に安堵する自分を璃緒は感じる。彼女は拳を作って言葉を発した。
「一つだけ言わせて」
「何だ」
「地球にいる私を育ててくれた、百瀬家の両親は、一緒にいて楽しかった。優しくしてくれた、怒ってくれた、慰めてくれた。応援してくれた。今でもずっと、両親だと思っている。今、目の前にいる人が実の父親なんて、やっぱり考えられない」
スクリーン越しに璃緒は一歩前に出る。
「本当に私は、あなたの娘なのね」
「嘘なぞない」
「じゃあ、証拠を見せて」
眉を潜めるザベリン王は少々困惑した表情を見せた。隣に並ぶ『ゼブラ』はそのやりとりに、微動だにしない。
「と言いたいけど、でもそれが現実なんだよね。実際のところ」
「証拠とは、何が言いたいのだ」
王は璃緒の話の展開に付いていけなかった。
「カレン王妃が居なくなって、寂しい?」
彼女は腰に手を当てる。王を前にして怯まない真摯な瞳は、誠の答えを待っていた。王は腰掛けた姿勢から両手を膝に置き、やや前屈みになる。猛々しくも険しい顔が僅かに柔和になった。
「ああ、寂しい。全宇宙において、最愛の女性を亡くしたのだからな。そして愛する娘、そなたとも離れてしまった。カレンと二人で、いつまでもアデンとそなたと四人で暮らしていたかった」
「どうして、王妃をカイザル星へ行かせたの。何故、止めなかったの」
目尻を下げ、王は息を静かに吐く。
「それは、リオン。そなたはもう理解しておろう」
璃緒は瞳を閉じて、頷いた。
「ザベリンのお父さん、よろしくね」
眉間の皺が拡がり、口角が上がる。
「嗚呼、愛い娘よ。待っておるぞ」
エピローグに続く




