↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朝起きたら、宇宙征服者の姫になってた!  作者: 七月 夏喜
最終話 新たなる旅立ち
PR
81/87

その9

 

 隕石を投げ飛ばした『ゼブラ』は、その巨体を静かに地上を離れて行く。その後街のシルードが解放された。


「ゼブラ、リュークに知らせて。あの隕石を破壊して欲しい」


 床に座り込んでいる璃緒の前で人型に戻った『ゼブラ』は仁王立ちしている。アデンは力尽きて意識を失い、床に臥せていた。

 勢いで放り投げた物体は、目の前のスクリーンには見えない。


「何者かの強い念波が、この街に起こった出来事の抹消を図っている。この地球の支配者か」


「カオスね。ゼブラの存在を消しているのね。こんなの生で見たら、皆んな大騒ぎよ」


 ほっと表情を崩す璃緒は微笑んだ。


「攻撃するか」


 未だ無表情に近い顔の男は朴訥に言う。


「やめて。彼は私の友達よ。そんなことしたら、ただじゃおかないから」


「トモダチ」


 『ゼブラ」が初めて不可解な顔をする。宇宙に一千年もの間漂う征服要塞とて、知らぬものもあるのだ。


「それは、服従者ということか」


「何故そうなるのよ。もうさっきも思ったけど、何故、宇宙にいる人たちって、強い上下関係を付けたがるのかしら」


 少々睨み付ける『ゼブラ』は璃緒から目を外さなかった。


「理解し合えれば、上も下もないはずよ」


「主たちは、いつの時も、好む好まざるとも、その渦中の中心にいた。それが善か悪か、運命か。我には判断つかぬ」


 『ゼブラ』は璃緒を睨む。その眼は嘘偽りのない真摯なものだった。


「……善悪、強弱、大人、子供。男と女。星間には時には傷つけ合わないと、理解も解決しない事もある」


 ぐったりとしているアデンの髪を、璃緒は撫でる。


「その為の我である」


 ため息をついて声の方を振り返った。


「私もそれくらい、わかってるよ」


 立ち上がって璃緒は『ゼブラ』に向う。


「怖いの……。今になって、怖くなってきた」


 押さえられない両手の痙攣に似た震えを、男の目の前に差し出した。


「あなたみたいな凄いものを、何も訳のわからない私が扱えるのかな。これから先も、何が起こるかわからないのに」


 『ゼブラ』は無言で璃緒を見つめている。


「こんな私に、アデンみたいに覚悟を持って生きていけるのか。いったい何が出来るのか、不安でいっぱい」


 戦慄く声に静止して、微動だもしない『ゼブラ』は無言だった。


「我は結果しか理解できぬ。それだけを見届けてきた」


 これまでいったいどのくらいの人々を、『ゼブラ』は眼前に据えたことだろうか。

 璃緒は検討つかない途方もない時間の流れを感じた。


「だが、主の運命は、主の考えたことで良い」


「……ゼブラ」


「我は主の使命に、絶対的に応じるのみ」



 凝視するその瞳に少しだけ変化があった。


「主、時の番人に逢ったのだな」


「時の番人?」


 震える両手の、その手掌の中心にキラキラと輝くものがある。確かにアデンとの融合の際に、遠く彼方に見えた人影。

 そしてそこで告げられた言葉『宇宙の根源』、『ビッグバン』……。


「主は、宇宙を継ぐものだ」


「宇宙を継ぐねえ。何か壮大過ぎてわからないよ」


 『ゼブラ』は小さく口角を上げる。


「無愛想な笑顔ね。でも、今度その訳を教えてよ」



*****


 地球外苑にて待機しているリュークは、『ゼブラ』からの通信を受けた。地球から飛んでくる隕石の破壊である。飛んでくる物体は隕石と思えないほど、ゴムマリの様に軽い感じだ。みるみるうちに大気圏を飛び出す。リューク艦の一砲が閃光を放ち、隕石は融解して宇宙から、完全に消滅した。


 地球の大気圏外に到達した『ゼブラ』は、璃緒とアデンの二人をリューク艦に転送する。最初に璃緒が登場し、続いてアデン抱えた者が楕円に現れた。

 ブリッジ内は戦き、騒めく。慌ててその者からアデンを引き取った璃緒は、医務室への手配をメイラムに告げた。実はアデンのメタルアームはまたしても、損傷を受けていたのだ。急いで医務室に担ぎ込まれるアデンを見ながら、璃緒は不安げな顔を作る。


「リューク。もう一度、お姉ちゃんをお願い」


「大丈夫です。今回も必ず治療してみせます」


 隣に立つリュークは力強く言った。


「姫、ご無事で。よくぞ大役を果たされました。誠に敬服致します」


「ありがとう。でも、みんなのおかげだよ。ここまで来てくれて」


 男は凛々しいその姿と反対のあどけない表情に、口が半開きになる。伝説の『ゼブラ』を率いて、一惑星を守りきった少女を神々しくさえ感じたのだ。


「あの日、お逢いした時より、ここまで成長されたのか。何とも凄いお方だ」


 そしてその背後に控え、黒づくめの着衣を白いコートで覆うものを見据える。


「貴様が、破壊要塞『ゼブラ』か」


 背の高い二人の間に璃緒がいて、顔を見合わせた。


「今はそのような名に、値しない」


 『ゼブラ』は璃緒に肘鉄砲を喰らう。


「何か飲み物ない? 喉がカラカラ」


 そのまま彼女は前を歩いて、ブリッジを出ていく。



「『セブラ』、お前は人の形をした機械なのか」


「この姿は主が作り出した、単なる偶像。我は何も姿は持たぬ。だがこの方が、主は気持ちが落ち着くようだ」


「最もだ。姫は対話の中から、人の心を掴むことが御上手だ。そしてその温もりで、荒んだ冷たい心も溶かしていく。敵でさえも」


 恍惚となるリュークは一旦目を閉じて、そして佇む白いコートの男を凝視した。


「『ゼブラ』、姫に何かあったら、貴様とてただでは済まさんぞ」


 振り向き様に眼孔を見開き、その奥にある無数の更なる光彩を広げて、『ゼブラ』はリュークの瞳を睨む。


「貴殿と感情を通らせることはないが、目的は同じ。我も主を守る」



「宇宙を征しないのか」


「主が望まぬことは、我の使命ではない」


 瞳を伏せ、リュークは口角を上げた。


「面白い。貴様がそうも言ってくれないと、母星に帰ってからの姫の立場もない。感謝するぞ」


 鋭い瞳のまま、『ゼブラ』は無言となる。


「ちょっとー! ここにコーラとかないのー?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。