その6
野球部のマウンド上に立っていた関口は、口を開けたまま力が抜けて尻を土につけた。
あの瞬間、確かに隕石は衝突した。灼熱に燃える玉は、全てを吹き飛ばすことだったろう。自分の存在すら蒸発させて。
風圧を感じて一坦目を閉じて、再び開けた時、それはまだそこにいたのだ。飛び上がったら届くのではないかと思うくらい、間近にそれを認識した。実際は校舎より少し高い位置で停止していたのだ。
男の目の前を小鳥たちが飛び去っていく。慌てて関口はカオスの方を振り向いた。気を失った早紀を抱いたままの男も、同じ顔をしている。クルスは大の字になって失神しているようだ。
「……はは、あいつが、やったんだよな」
カオスは停止している隕石に目を凝らす。時が止まっている訳ではなかった。男は何かを探すように左右に視線を這わす。正面からではわからないが、物体の両側に青白い線状の物が突き出し放電している。
「あれは……、剣」
その線を目で伝いながら、もっと遠くを見つめた。周囲のうっすらした蒸気の向こう側に、隕石よりも大きな黒い物体が聳え立っている。
「……『ゼブラ』が」
カオスは再び停止している隕石を見上げた。
「忠誠を誓いし者が、主君よりも先に諦めてはしまうとは……」
一瞬であれ、死を覚悟したことを男は恥じる。
「姫が諦めるはずがない。結果はこれしかない。そうですよね、関口君」
尻餅を付いている男は笑っていた。
隕石をカオスは凝視する。少しずつであるがその玉は下がってきている。
「関口君、まだ終わっていないですよ」
「え?」
「ほら、少しずつ落ちてきている」
カオスは指差す。きょとんとした顔で関口は目と細めて隕石を見つめた。認識出来たようで仰天する。
「ど、どうするんだよ!」
「衝突による広範囲の消滅は無くなりました。しかし、あれが落ちるとその直下は危険です」
「つまり、ここから急いで離れて、下敷きになるなって事だな」
カオスは思わず吹き出し、大笑いする。関口は男のその屈託のない表情に怪訝な顔をした。
「何だよ」
「本当に君って人は、姫を信頼しているのですね」
カオスは先程よりも柔和だ。終末を迎えるための講釈はない。前を向くための瞳を見せた。
「その通りですよ。早くこの場から離れましよう」
カオスは早紀を抱き起こす。関口はクルスを揺り動かしていた。
「きっと、姫がこの隕石を排除してくれるでしょう」
見上げたそれは落ちてきているが、『ゼブラ』の次のアクションを待っているとすら思えてくる。そう考えると死という言葉は無いに等しかった。
「これが、星を救うと言うことなんですね、リオン姫」




