その3
「『ゼブラ』の起動、確認しました!!」
リュークはじっとスクリーンを見つめている。
「『ゼブラ』が動く。アデン姫は、やり遂げられた」
男は胸を撫で下ろした声を発した。
「いや、まだだ。リンクが不可能なアデン姫を『ゼブラ』がどう受けとめるのか」
不安気な表情を抱くメイラムは、スクリーンを凝視したままだ。
「そもそも『ゼブラ』は唯一の継承者一人が動かせる代物。それが二人もいると言う不自然な状態をどうするかだ」
女の瞳は『ゼブラ』から離れない。隣でリュークは腕を組んだ。
「リオン姫で完全同期している『ゼブラ』が、アデン姫の左腕を含めた存在を排除対象にする恐れがあると言うことか」
「そうあって欲しくないが……。リンク出来ていれば、今頃はアデン姫が全うに奴を操っているはず」
メイラムの手が震えていた。その細い手をリュークは掴む。その力強さに彼女は驚いて振り向いた。
「大丈夫だ。『ゼブラ』はリオン姫の意志のもとに働く。そうでなかったら、姫が従わせるのみだ」
リュークもその全てなどはわからなかった。しかし問答している時間はない。今は二人と『ゼブラ』に託すしかない。
「『ゼブラ』に落下地点を発信せよ!!」
*****
ゆらりと白いフロアに黒いコートに身を包んで『ゼブラ』は現れた。先程まで戦闘を行っていたと言えないほど、落ち着いた表情だった。立ち竦む男は何かを感じる。
「これは……」
「セブラ!! 早く私の街に行って!! 隕石が落ちてるの!!」
璃緒はゼブラに必死の形相で訴える。しかし男は焦る様子もなく指差した。
「『サベリン・ミリディア・ア・アデン』」
見開いた目でアデンは驚いた顔をする。
「お前は、わらわを知っておるのか」
「前主からDNA情報をインプットされている。我を起動するのは『アデン』か『リオン』のどちらか。そのどちらかを我が選択すべきとも」
左腕を擦りながら、『ゼブラ』をアデンは睨んだ。
「わらわがこの体でなかったら、お前はどちらを選んでいたのだ」
「我と同期出来なければ、死を招く。支配者はひとりだけだ」
『ゼブラ』は両手を拡げる。白いフロアが青白い放電を放つ。
「早く起動しろリオン。わらわなら大丈夫だ」
「主、よろしいか」
璃緒はアデンを見た。口元を引き締めて、彼女は頷く。その頬が緊張感を持っていた。璃緒は向き直って、大きく息を吸う。
「そんなこと、ダメに決まってるじゃない!」
予想した答えと違うことにアデンは慌てた。
「リオン!! もう時間がないんだぞ。わらわだけの犠牲で皆を救えるならば、それは覚悟の上。そちはそちの行動をとるのだ!!」
璃緒の肩をアデンは揺さぶる。だがその瞳は『ゼブラ』を直視したままだ。
「ゼブラ、あなたの凄さはわかってる。けど、女の子ひとり増えただけで扱えないなんて、最低の征服要塞ね。そんなだから、変なことばかりに使われちゃうんだわ。何が良いことか悪いことか、少しは自分で判断しなさいよ!」
「リ、リオン」
「それに勘違いしないように言っておきますけど、私は支配者にならない。宇宙のどこも破壊や征服する気なんて、全くない。私があなたの主なら、あなたをそんなことに使わない」
璃緒はアデンの身体を頬が付くほど引き寄せ、抱き上げる。そのままメタルアームの手を握った。
「それでもアデンを傷つけるんだったら、征服なんてするんだったら、私をやってみなさいよ!!」
『ゼブラ』の眉間に皺が寄る。拡げた両手から放電が少しだけ弱まった。だが直ぐにそれは強さを取り戻し、白い空間を黒に変えていく。そして『ゼブラ』は璃緒と対峙した。
「主と『アデン』は、もとは一卵性のもの。同期は完全ではないが七割可能。情報分析と共に書き換え、記憶領域内の別枠に格納した」
「どうゆうこと?」
きょとんとする璃緒の顔を見て、『ゼブラ』は応える。
「我に使命を与える事は出来ぬが、存在することは可能とした」
「じゃあ、アデンはここにいても良いってことね」
ゼブラは応え無い。璃緒はアデンの顔を見て微笑んだ。
「『アデン』姫、我が主の能力に備えよ」
アデンは狼狽えたまま、身構えて頷く。
「主よ、我に使命を与えよ」
右手を大きく広げて、璃緒は叫んだ。
「ゼブラ!! 私の街に落ちてくる隕石を振り払え!!」
「承知」
猛々しい駆動音が唸り、フロアに凄まじい放電が貫いていく。璃緒はその雷に手を差し伸べた。身体に取り巻く光の渦は彼女に鎧を着せる。やがて目の前に『ゼブラ』が仁王立ちした。璃緒がその男に跳び乗ると更に形態を変え、眩い輝きを増す。フロアは激しく振動して波打った。璃緒の両方の瞳が赤褐色に染まり、身に纏った『ゼブラ』の衣は翼を拡げて羽ばたく。
その間アデンは何かに掴まっているしかなかった。幸いメタルアームのパワーを最大にすれば、この場から吹き飛ばされることはない。玉座のアームレストにしがみついた。
「しかし、何という光景だ。これが破壊要塞『ゼブラ』か」
目を開けているのも辛々の吹き荒む風が舞い上がる。
「いや、違う、リオンの能力だ。これがリオンの真の力なのだ」
大きな衝撃と共に重力の差をアデンは感じた。再び身体が揺さぶられ、尻餅をつく。そのまま天井に向かって足が張り着けられた。
「『セブラ』が急降下している!!」
大気圏に突入する『ゼブラ』は、青白い雷を放ちながら、璃緒の街に向けて真っ直ぐに向かっている。目前のスクリーンに地表が迫って来た。その手前に今まさに襲いかかろうとする燃える火の玉が見える。
「ゼブラ、あれ!!」
「地表到達まで、地球時間であと十分」
耳側で『ゼブラ』の声が聞こえてきた。
「どうする。このまま隕石を崩したら街に破片が降っちゃうし、狭い街並みにゼブラが降りる場所も無い!!」
戸惑う璃緒の目が泳ぐ。ゼブラは隕石の落下軌道を横切り地表に向かっていた。
「ど、どうしたら……」
そこへ『ゼブラ』からの声が追い討ちをかける。
「隕石落下地点へ三分前に到着する」
「そんな、三分前に出来る事って……、何なの」




