その4
見上げた火の玉は直前だった。関口とカオスはグランドに立たずんだままだ。二人は未だ空を見上げている。
当直室から転がり、飛び出してきた早紀は叫んだ。
「一ノ瀬君、関口!!」
その姿を見た。カオスは彼女の形相とは全く違う表情を向ける。寂しくも悟りきった、憐れな顔だった。
いつの間にかクルスが隣に並んでいる。
「彼女のためにも、安らかにしてあげろ」
相変らず関口は空しか見ていない。口元で震わせながら、何か呟いていた。
「カイザルが亡くなる時も、こんな有様だったろう。高官どもが慌てて星を離れて行く中、サベリン王妃と交渉人ルン大佐は最期まで民とともにあの惑星いた」
男の遠い目は遥か彼方に向けられている。
「こんな事、過去を振り返りすらしない者たちの、哀れな所業だ」
「クルス、僕たちは何の為に生きているのでしょうか。宇宙の出来事に抗うことは出来ないのでしょうか」
瞳に映る巨大な絶望の塊は、考えることを無駄にする。足元に縋る早紀をカオスは抱き支えた。
「一ノ瀬君……」
埃と砂のついた頬と髪、見つめるその目は恐怖を隠しきれない。
「姫、もはやこれまで。早紀さん、苦しめはしません」
カオスは右の人差し指を女の額に付けた。
「……一ノ瀬、く、ん」
男の瞳が別の色に輝き出す。辺りに砂塵が舞上った。
「さよならです。早紀さん」
「……一ノ瀬くん……、璃緒は……、璃緒は……、もう来ないの」
その言葉に虹彩が開く。男の眼がいつもの状態に戻った。
「さ、早紀さん……、姫を」
「璃緒は、この地球を、絶対守るんだよね……」
カオスは振り被って関口の方を向く。
「関口……、く、ん」
そこは未だ空を見つめ、赤い玉が視界を全て埋めつくしいても、諦めていない男がいた。
「カオス! 何してる、早くしろ!! もう落ちるぞ!!」
遠くからクルスが悲鳴を上げる。
カオスは唇を噛み締めた。
「終わらない。姫が……、終わるはずが、無い」
旱紀に当てていた指を両手に変え、カオスは目尻を吊り上げて力を放出する。グランドの土が竜巻のようにうねり始めた。
「意識体が無くなろうと、最期まで諦めてはいけなかった。なんて僕は弱いんだ」
「カオス!! そんなこと、もう無駄だ!!」
その放出される感情の渦を読み取ったクルスは叫ぶ。
もう空は見えなかった。
大きな衝撃音が鳴り、地面が揺らぐ。
クルスは足元をよろめかせて腰が抜け、尻もちを付いた。
「終わりだ! 吹き飛ぶ!!!!」




