その1
形を塵に変えて消滅していく中、『ゼブラ』の決壊を潜り抜け、地球にひと欠片が飛び出した。それは意志を持って落下している。周囲を燃え上がらせながら大気圏に突入していった。
「ありえん! あってはならん!!」
ブリッジでリュークは狂気の沙汰で叫ぶ。スクリーンに被り付く男は表情を乱した。
既に落下地点は計算されている。それは璃緒が育った地方都市だった。例え数百メートルの隕石でも衝突すれば、一都市は消滅して大きなクレーター化する。
「姫の一撃と我々のオルナータ砲の同時攻撃は確実だった。よもやそこからあんなものが!」
握った拳のやり場がない。それを胸に持っていき、無理に感情を押し込んだ。
「ここからでは撃ち落とせない。地上には姫の大事な方々が……」
砲撃するには地球に近すぎるのだ。
「リオンを呼ぶのだ。『ゼブラ』を起こせ」
「しかし!」
振り向いて見たアデンはまだ諦めていない。が、不安と希望の入り混じった顔だった。
「『ゼブラ』応答信号ありません!」
スクリーンには戦闘不能を示すかの様に、少し傾いたまま空間を漂う『ゼブラ』が映っている。まるで中世の騎士のような格好に変化して剣を握って漂う姿は、まだ戦闘体勢を解いておらず、直ぐにでも動きそうな気配だ。
「起こすのだ!!」
アデンの怒号が響く。リュークは戸惑った。
「テレパスを使っている場合では無い。動きを停止している今なら、父上様と同じ様に『ゼブラ』に入る事が出来る。わらわをあの中に転送するのだ。リオンめを直接起こすしかない」
「いけません、アデン姫。まだ体の具合が完全でありません」
涼しげで不敵な笑みをアデンは浮かべる。
「今やらずして、いつこの時を持つことができよう」
仁王立ちするアデンは腕を組んだ。
「リューク、アデン姫を転送して欲しい。『ゼブラ』へ向かうことが出来るのは、サベリンの血を受け継ぐアデン姫しかおらん」
「メイラム、お前は……」
この様な危険な事には、真っ先に反対する彼女の側近が頷く。
「大丈夫だ。アデン姫とて真の後継者のひとり。リンクなくともリオン姫の加勢が出来るはずだ。有事の時は、私もお前とともに自害する」
振り向いたアデンは目尻を上げて、二人を睨んだ。
「莫迦者、その様なことは断じて許さん。案ずるな、失敗なぞせん」
「転送用意完了!」
クルーの声が響くと、アデンとメイラムは頷く。
「急げ、リューク。わらわの友だちも、そこにおるのだ。地球の何人も失う訳にはいかん!!」
振り向いたリュークはスクリーンに映る『ゼブラ』を指差し、クルーに伝えた。
「アデン姫を『ゼブラ』へ転送せよ!!」
アデンの足元に紫色の円が光る。
「アデン姫……」
「わらわはリオンの双子の姉。二人の力がひとつになれば、絶対に負けはせぬ」
「……御意」
リュークは足元より消え行くアデンを見つめ、深く目を伏せた。
*****
「行ったか」
別スクリーンに猛々しい男が映る。
「サベリン王……。お止めすることが出来ませんでした」
メイテムとともに躓づいて、男は表情を曇らせた。
「良い。わしが言うても同じだ。アデンはきっと行ったろう。リオンと地球のために」
王は組んでいた腕を解いて、遠くを見つめる。目は『ゼブラ』を追っているようだった。
「しかし不思議なものだ。ついこの間まで宇宙の果てで、知らぬ者だった同士が、こうして協力し合おうとしておる」
「お二人とも、立派に成長されております」
「我々にとって、そして未来を切り開く次世代の若い二人にとって、これはひとつの試練。星を守ることに、いったい何が必要かが試されているのだ」
王は『ゼブラ』を再度睨む。
「試練……」
危機に対する璃緒たちの未来への躍進と、王の決意を感じたリュークは呟いた。
ここにいることの意義、何をすべきであるのか。あの時、カレン王妃とルン大佐の決意と行動。
男は唇を噛み締め、拳を作った。




