その15
「我の全てのエネルギーをこの剣に集中させよ。主、一気に敵を斬り割け」
玉座の璃緒をまるで守るように、眼前に『ゼブラ』は立っている。璃緒も『ゼブラ』がやろうとしていることは理解出来ていた。隕石を塵になるまで割り刻むこと。でももう時間がない。さっきの一打も相当の体力を使つていた。肩で息をする璃緒は限界が近づいていることを認識していた。
「……吐きそう」
「剣先に意識を集中させるのだ」
『ゼブラ』の声は聞こえているものの、璃緒は少しふらつく。現実とも非現実とも区別など出来ない世界にいる彼女にとって、身体的にも精神的にも疲労はピークに達していた。
朦朧としている彼女は最後の力を振り絞る。幾度と無く激痛が体中に走り抜け、筋肉は小刻みに痙攣していた。目を開けてるのが不思議なほどだ。
「我と共に剣を振るのみ」
「う……、うん」
『ゼブラ』の黒い巨大な艦体は、まるで生き物のように変化していく。今の状態に追い打ちをかけるように璃緒の体は軋んだ。骨ごと捻り潰されそうな痛みに、悲鳴すら出せない。彼女の意識は遙か彼方に飛んでいきそうになった。
そっと、その体の側に寄り添う気配を感じる。その手は白く細く柔らかく、そして優しい手つきだった。
「リオン……、くじけないで」
璃緒の耳元で囁く人がいる。
「あなたが選んだ道。あなたが守りたいと願う事。それはとても険しく、簡単な事じゃない」
その手は彼女の頬を撫でるような仕草をしていた。
「……カレン王妃」
「覚悟を持って、命がけで向かい合いなさい。あなたが本当に地球を救うと思うのなら、闘うのです」
カレン王妃のホログラフィックの中に入り、璃緒全体が包まれる。赤子を抱く母の手の中にいるように。
「ああ……」
「最後まで諦めないで、私の愛する娘。あなたの力を信じて」
苦痛に満ちていた彼女の顔が、次第に安堵していった。
「私の……、力……」
まるで湖の水面に体が浮いているかのように、体から硬直感が抜けていく。
「大丈夫、リオン、あなたなら出来る。『ゼブラ』を信じ、自分を信じて解放しなさい。あなたの可能性を」
ふわりと体が浮いた。今まで棘のある鎖のようなものが重くのし掛かっていた。それが何もかも軽くなるような感触を璃緒は覚える。
瞬間、玉座の間、コントロールルームが真っ白になった。無地の何も存在しない空間が拡がる。存在しているのは二人だけだ。
「体が、軽い……」
目を見開いた璃緒は椅子から立ち上がり、後ろ姿の『ゼブラ』に飛びついた。『ゼブラ』は振り返る。
「主よ……」
その言葉と共に『ゼブラ』は姿を変化させた。青白い様態は璃緒の体を鎧となって取り巻き、背から白いマントが飛び出し広がる。そして大きく鋭い青白い光り輝く剣が、彼女の前に浮いていた。璃緒が手を伸ばすと、全体から放電するそれは自然と手中に収まる。
『ザベリン・ミリディア・ア・リオン姫。我を従え、我に力を与えよ』
璃緒の白いマントが鳥の翼となり、飛び立つように大きくはためいた。彼女は剣を握り締め、振り回す。
「痛くない」
彼女は目の前に映る巨大な隕石に向かって、それを両手で握って構えた。
「誰も無くさない! 全部守ってみせる! 私の名は『ザベリン・ミリディア・ア・リオン』だ!!」
『ゼブラ』が放つ一直線に延びる青白い雷電炎の剣は、隕石の中心を抉った。
その衝撃は宇宙空間に大きく波紋状に拡大していく。それはこれまでにない、荒ましい勢いだった。
隕石に大きなひびが入って割れ始める。中心を貫き一直線に放電する刃は、硬い岩肌を裂きながら走っていく。
「いっ、けぇぇぇー!!!!」
大きな崩壊が起こり、巨大な隕石は二分した。
『ゼブラ』の剣は、二つに分かれた隕石を更に真横に斬り裂く。
呼応するように分裂した隕石に向かって、四つの赤いエネルギーの塊が筋を作った。雷電炎とエネルギー魂は融合して大きな光となって炸裂する。
その巨大な閃光は月の表面を白く反射させ、隕石を宇宙空間から消滅させた。
爆煙と融解に巻き込まれながら、璃緒の『ゼブラ』は機能を停止する。純白のコントロールルームに倒れるように転がり、大の字になった。
そして彼女は深い安堵の休息を感じる。
「もう、いいかな……」
地球から脅威が無くなったと、皆が思った……。




