その14
閃光の後、空間の揺らぎが起き、宇宙が波状の衝撃となって拡張する。そこにワームホールを抜けて戦艦が現われた。直後、その波紋の影響でリュークの艦内は緊急警戒体制を強いられた。ブリッジのスクリーンを始めとしたコントロールセンターが麻痺をして消灯し、メインエンジンが不調となる。一時的にその波に船体が流され、足元をふらつかせた。ブリッジにいる者たちは、掴むことの出来る物に手を延ばす。メイラムはアデンの身体を素早く抱き支えた。エンジンが回復すると、床が安定する。ブリッジのコントロールが再起動した。やがてメインスクリーンに宇宙空間が投影される。
「隕石正面、『ゼブラ』座標位置確認!」
その場の全員が息を飲んだ。隕石を追う前面スクリーンに、その姿が投影される。堅く凹凸を見せる岩肌から、発光物体を見つけられた。
「見よ、『ゼブラ』だ!」
拡大投影された姿を見て、思わずアデンは叫んだ。
『ゼブラ』は、両側舷に三本ある落雷塔から青白い炎『怒れる雷』を縦に奮い立て、巨大な剣を創っている。そしてそれは、まるで隕石を真っ二つに斬ろうとしているようにも見えた。
「姫は既に一戦を交えられたか」
リュークはその艦体のダメージを見て取る。甲板は損傷し、隕石から剥がれた破片らしき物が幾つもこびり付いていた。
「『ゼブラ』とリンクするリオン。あの傷はあやつの体にも、相当の影響を及ぼしているはずだ」
アデンは映るその姿に、少し驚愕し唸る。
「……姫、よくぞご無事でここまで」
アデンは瞬間、リュークの目が優しさといたわりに変わるのを見た。
「リューク……」
再び宇宙空間に閃光が走り、ブリッジ内全体が白くなる。その衝撃的な映像は見ていた全員の目を閉ざした。先程よりも大きく、宇宙を割るかと思われるほどの凄まじいものだった。再び衝撃波が辺りを揺るがす。漆黒の宇宙空間に、波紋が広がっていった。再びメインコントロールの照明が落ちる。
「隕石と『ゼブラ』と衝突したのか!?」
カラトバは叫んだ。唸る音の後、ブリッジの明かりが開ける。雑音と乱れた映像がスクリーンに映った。横波の入る画面には、未だに大きな岩が居座っている。
「お、おい。まさかリオは、吹き飛ばされたのかよ……」
「何を言うカラトバ。リオンと『ゼブラ』がそんなことになるはずない。そんな莫迦なことない!」
即座にアデンはカラトバの言葉を否定した。彼女は画面から、何かを探すように身を乗り出す。
「違う!! リオンは……、わらわの妹は消滅なぞしていない!!」
「アデン姫!」
メイラムが飛び込んで、アデンの体を押さえた。リュークは足元を動揺させ、椅子に片手を掛ける。
「姫……」
「『ゼブラ』の座標点は確認!! 存在しています!!」
「当たり前だ」
クルーの声に反応した男は、普段より幾分鋭かった。
「アデン姫、ご安心下さい。姫と『ゼブラ』が、これごときに屈することなどあり得ません」
「……リューク」
アデンは少し笑みを浮かべる。彼女はメイラムの手から離れ、しっかりと仁王立ちした。
「カラトバ、お前は騒々しいぞ!」
アデンは床に尻餅をついているカラトバを足で蹴り上げる。
「支援艦隊より、緊急連絡!」
「ここに到着する艦隊などいないはず……。繋げ」
前面の巨大スクリーンに、リュークは再び目を向けた。隕石の場面から、映像の乱れが少しあった後、その者は現れる。落ち着いた声が、ブリッジに響いた。
ーリューク。今こそ、オルターナ砲を使うのだ。我と共に、隕石に打ち込めー
「ざ、ザベリン王……」
アデンを除く全員が息を飲む。スクリーンに、凛々しい白髭の男が現れた。荘厳な衣装に身を包み、背が天井に届くかのような椅子に腰掛けている。この危機的な場においても、恐れすら感じさせないその威圧感は、スクリーンを通してでもわかる。その非常に重い空気がリュークにのし掛かった
ーアデンよ。よく無事であった。姉として、リオンを『ゼブラ』へ導く使命を果たしてくれたー
目を伏せたアデンは、はにかむ。
ーアデン、負傷した左腕は痛むかー
「……お父様」
彼女は右手で左腕を握りしめた。
「ご心配無く。大丈夫です。ザベリン国最高の医者に治して頂きました」
ーアデン。勝手のわからぬおまえばかりに、リオンを押しつけて済まなかったなー
アデンは思わず、目頭が熱くなる。
「お父様、私はリオンに逢えて、大変嬉しかったのですよ」
彼女ははにかみながら、気丈に振る舞った。
「あの妹は、笑えるほど皇族貴族らしくなく、頑固で、無鉄砲者過ぎます。しかしリオンは戦いしか知らぬ我々を諭します。それがたとえ、ザベリン国の敵といえる者たちでさえも」
一旦、スクリーンの王は目を閉じ、息を吐く。
ーそれがあれがしの、真の力かー
アデンは頷いた。
「愛すべき妹リオンは、宇宙の冷たい壁さえも越えていきます」
王はアデンの隣で躓いているリュークに向かう。
ーリュークよ、リオンの家臣として、おまえの使命をー
顔を上げ、男はスクリーンを見上げた。
ー我が愛する娘たちに、今一つお前の力を貸してくれぬかー
「御意!」
立ちがってリュークは振り被る。
「前方、巨大隕石に向け、オルナータ砲用意! 姫を援護するのだ! 隕石を消滅させるのだ!」




