その12
目の前に立つ黒髪の長身の男は、その身のこなし華麗に振り被った。玉座に座っている璃緒に訊ねる。
「主よ。隕石を破壊し全てを消滅させるには、相当数のパワーが必要だ」
「何よ。今になってゼブラ様も、怖じ気づいたの」
璃緒は身を乗り出した。皮肉や冗談など通じる相手ではないことは、彼女も知っている。
「はっきり、言いなさいよ。私が頼りないって」
空笑いする璃緒は戯けた。尋常ではない状態に身を置いている彼女の精神を落ち着かせるには、虚勢を張るしかない。そうでなければ、震えて今にも腰から崩れ落ちてしまいそうになる。この場において創造された人型の『ゼブラ』とて、話し合う相手として縋ることの出来る唯一の存在だった。
「やっぱり、違う? 今までの立派な姫君とは」
その彼女の瞳をゼブラは見据える。璃緒の笑いはやがて、一層乾いていった。
「これまでの記憶は保存している。歴代の主に使えてきた我の力は主の力、我が生きる意志は主の意志」
「だから、何よ」
男はゆっくり璃緒に近づく。逃げようもない彼女は、椅子に背中を押し当てた。璃緒にとって、『ゼブラ』と近くで向き合った瞬間である。
「我は、主の意志のままに従う。その玉座に座る者の願いのために」
「ゼブラ……」
ゼブラは肘掛けに両手を付き、静かに璃緒の顔に近づく。その瞳に映る自分の表情を見て取った。この行動もゼブラの意識か璃緒の創造することなのか。混乱する顔を余所に、男は彼女の口元に耳を寄せた。璃緒は唇を噛む。
「私の今の意志と願いは、地球に降り懸かる危機を払うこと。そして全部を守ることよ」
『ゼブラ』は立ち上がった。
「宇宙空間に出たと同時に、敵と再び対峠するであろう。今度避ければ、間違いなく地球に衝突する」
璃緒は頷いて、手を堅く握る。
「ゼブラ、あなたも一緒に守ってみせる」
『ゼブラ』は一瞬、口元を緩ませた。
「では、参ろうぞ」
「今、笑った? ねえ、笑ったよね」
眩しく光った直後、視界に宇宙が広がる。最初に艶やかな月が見え、その後方から輝く美しい青い地球が姿を現わした。
「ああ」
思わず璃緒は懐かしさと安堵の入り混じった、何とも言えないため息を吐いた。
「みんな……、守るよ」
脳裏を早紀や百瀬家の両親、カオス、関口を含めたクラスメイトたちの顔が過ぎていく。
「……そして」
背後に迫る恐怖に振り向きたくない感情を抑え、唇を噛んだ。大きく息を吸う。
「地球全部も」
振り向いた眼前に広がる巨大な隕石が再び襲いかかってきた。
その姿は間近に見ると地上に似て、大きさの把握が麻痺してくる。そんなものが、地球と衝突すること自体が璃緒には未だに理解出来なかった。
「行くよ、ゼブラ!!」
璃緒は隕石に向かって放電する指を差す。
烈しい閃光とともに『怒れる雷』が幾重も炸裂した。宇宙に大きな衝撃波を広げる。直撃した雷に隕石の尖端に亀裂が入り、そして分離した破片が飛び散った。それは逆に『ゼブラ』に集中砲火を浴びせるように押し寄せる。
璃緒の体に強い衝撃が加わり、後方へ吹っ飛んだ。リンクする全身に痙攣が起こって激痛が広がる。気を失いそうになりそうな自分に向け頬を叩いた。玉座にしがみ付いて立ちあがる。『ゼブラ』が振り向いた。
「もっと、力と勇気を、貸して!」




