その11
巨大隕石は『ゼブラ』との一戦交えたものの、幾分かばかりの岩肌を削ったくらいだった。目標は未だ変えずに、着実に向かって来ている。
地球にステルス停泊しているリューク艦隊が、人工衛星を通して地球に情報を流していた。地球では国連を通じて各国の要人たちが、対防衛のため議会へ招集されている。だが最終的な答えは、地球に存在するどの兵器でも太刀打ち出来そうにもないという事だった。地球上の核ミサイルの全てを撃ち込んでみても、軌道を変える程度しか出来ないだろう。それもかなり低い確率でだ。砕けても、天から降り注ぐ隕石によって、世界は壊滅的な状况は免れない。
「それで貴様はどうするつもりだ。間に合ったとしても、あれだけの巨大隕石を地球間近で破壊することは到底困難だ」
まだリュークの側にいるメイラムは、支えられている腕を解いた。
「確かに到着した体制のまま、奴を討つことは、正直言って無理だ」
男も訝しげな表情をする。ブリッジでは、高速で流れる別次元の空間を目標座標に何かって移動していた。
「『ゼブラ』の位置は補足出来るか?」
リュークは改めて考え込む。璃緒と『ゼブラ』は別の次元を航行しているはずだ。
『ゼブラ』が何の目的で、何処で建造され、どれ程の力を持っているかは未だ不明である。それはリンクする者自体の能力と使命によって変化する。伝説には宇宙全体をコントロールする「スペースジェネシス」とも「スペースマダー」とも言われ、宇宙全体を収束し消去することも可能であると聞いた。ましてや星や星雲などを無にすることは、造作も無いことだ。それゆえにカレン王妃はその危険を知り、主としての能力を死を持って封印した。これまでの主たちが間違いを起こさなかっただけ救いだった。しかしこれからの未来に危険な輩が主となってしまった場合、この宇宙は消滅するかも知れない。
璃緒と『ゼブラ』の関係を否が応でも、考えられずにはいられなかった。
「多少地球に影響を出してしまうが、隕石を全て蒸発させる。兵器オルターナ砲を使うしかあるまい」
背後を振り向くと、カラトバの肩を借りてアデンが立っていた。
「アデン姫、お体は!」
「リュークの医者は最高だ。この通り、しかりだ」
メイラムの前でアデンは左腕を振ってみせる。痛みを堪えた歪んだ表情を見せたが、気丈に微笑んだ。
「しかし、姫……」
彼女は駆け寄ろうとする。その動きをアデンは静止させた。
「メイラム。それよりも、隕石をどうするかを論議しろ。地球にはリオンの友人たちもおるのだ。放ってはおけん」
「我が軍のオルナータ砲でも、全てを破壊と蒸発させるには、隕石を今の半分以下の質量にしなければなりません。それでも蒸発させることは困難かもやしれません。いづれにしても、地球へは液状の破片が落ちるでしょう」
スクリーンに簡単な図式を表示して、リュークは説明する。
『オルナータ砲』とは、母星『エクティーヌ』の地下鉱山より抽出した高濃度エネルギー源鉱物に、ザベリン王国の科学技術を注ぎ込んだ、一砲即破の『ターノエネルギー』集約の塊である。
「完全に隕石を溶かして消滅させ得るだけの、莫大なエネルギーが必要という訳か」
睨むアデンはため息を吐いた。
「実行可能にするには、この旧型では出力が足りません。この大型戦闘艦級が少なくとも三隻が必要です」
艦橋クルーの一人が、リュークの後に言葉を付け加える。
「現在、この周辺域に巡航している艦隊は存在しません。一番近郊の艦体で高速巡航しても一日後になります」
眉間に皺を寄せ、苦悶のリュークは唸った。
「案ずるな、リューク」
彼女は平静さを保っている。
「この娘たちの一大事に、『ゼブラ』ほどの速さではないが、特別最速で駆けつけれる者がおる。その戦艦はこれの三倍の出力を持っていよう」
「ま、まさか……」
「父上の艦じゃ」
ニンマリとしてアデンの口元が吊り上げた。
「しかし王を呼ぶには、いささか困難であり、身の危険が及びます」
「心配するな。先程連絡があった。『ゼブラ』が機能停止中に転送して、リオンに逢ったそうだ。そう遠くにいるわけではない。父上の艦隊も総力をもってすれば、何とかならまいか」
「アデン姫……」
その悪戯な口元にリュークは咳払いをする。
*****
ジャンプが終了し宇宙空間へ現れた直後、けたたましい警告音がブリッジに響いた。
「何事だ」
「観測レーダー確認。到達座標に巨大戦艦の反応を補足しました。識別信号発信、確認します」
オペレータは識別のコードの確認をする。
「紛れもない、『ゼブラ』だ。奴は、リオンと共に……」
小さくアデンは呟いた。
「あんなに早く、到達出来るのか」
驚いた顔をしてリュークはスクリーンに被り付く。アデンも真っ直ぐクルーを凝視していた。
「識別不能!」
声が響く。
「『ゼブラ』には識別コードなどない。一千年前の代物だからな。でかしたリオン」
腕を組んだアデンは誇らしげに頷いた。
「姫は、我々よりも、いち早く到着された」
リュークはクルーに向けて指示する。
「その座標点は、リオン姫の『ゼブラ』と認知。我が艦の目標座標を修正。『ゼブラ』から離れて、出現座標の再計算せよ」
「了解、ハイパージャンプ再設定します!」
クルーの動きが騒々しくなった。スクリーンに映るその雄姿を目に焼き付けながら、男は呟く。
「……姫、待っていて下さい。今すぐ、そちらに。今度は逃げません」




