表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朝起きたら、宇宙征服者の姫になってた!  作者: 七月 夏喜
第6話 征服者より愛を込めて
64/87

その8


「リオン、……我が娘、リオンよ」


 暗くなったスクリーン、振動すらしなくなった玉座の間は静まり返っている。その前で、倒れている璃緒を揺り動かす者がいた。


「リオン、起きるのだ。そなたがやるべき事は、まだ終わっておらぬ」


 静かな低い男の声がする。


「痛い……、体が凄く、痛い……、助けて」


 璃緒は右手を挙げ、縋るものを探して空中を彷徨った。その手を握りしめる別の大きな手がある。


「大丈夫だ、リオン。そなたは、まだ生きている」


 声のする方へ頭部を動かし、ゆっくり目を開けた。白い髭に覆われ、皺の多い大柄な男が手を支えている。


「あなたは……」


 彫りの深い目尻には優しく慈愛に満ち、掛ける声はいたわりを持っていた。


「そなたの、父だ」


「……ざ、ザベリン、王」


 今まで敵対視していたザベリン王がいることに、驚いて目を見開いた。


「そなたが、これに乗っているということは、主として制したということか」


 少しだけ淡く照明にも似た光だけを残し、何も無く、ただただ広い暗い空間を見渡して頷く。


「しかもこんな所まで、これを従えてくるとはたいしたものだ」


 ザベリン王は笑いだす。璃緒の頬に右手を当てた。震える唇は、その手の感触を感知する。


「……幻じゃない」


 この中で出逢った幻の王妃やゼブラと全く違う存在感に驚愕した。


「地球のことを知ってな。そなたの後を全速力で追いかけて来たのだ。『ゼブラ』は速いからのお」


「いったい、どうやって中に入ったの?」


「全ての動力を停止してくれたおかげで、我が艦より転送してくることが出来た。まだまだそなたと『ゼブラ』のリンクが不十分だということだ」


 『ゼブラ』の横を隕石が通過していた。


「こんなものを追っていたとは。我が娘ながら、いやはやなんとも、呆れる程、天晴れ」


 その笑顔は今の緊迫している状況に合っていない。璃緒は歯痒くなって、王に鋭い目を向けた。


「いい面構えだ。カレンと同じ瞳じゃ。やはりこの『ゼブラ』が、主と認めるはずだ」


 頬に触れている手から、璃緒は顔を背ける。


「アデンと……、同じ顔よ」


 再び王は笑い出した。


「アデンとリオン。そなたたちは双子だが、全てが同じではない。互いに違うものと役割を持っている」


「違うものと、役割」


 璃緒は呟く。


「そなたは『ゼブラ』の主になったのだ。それは、そなたにしか出来ない。『ゼブラ』を動かすには、これの中枢機動装置と同期することが必要だが、アデンにはそれは出来ぬ。アデンが左腕を負傷していることを知っておろう」


 璃緒はまだ手足が痺れて震えていた。体が起こそうとも動かせない。


「しかしアデンには、そなたの姉としての役割がある。そなたをここまで守り、これの主にすることだ」


「姉としての、アデンの役割……」


 アデンの痛々しいほど、破壊されたメタルアームの左腕を思い出した。


「『ゼブラ』を従えること、同時にそれは王国の真の継承者として、認められることだ」


 王の優しい表情が強ばる。


「いいか、リオン。我が行っていることは、見方によっては征することを強にするかもや知れん。だがそれは、何十年、何百年先を将来を見据えてのことじゃ。我はその星の未来全てを奪うことなどと、決して思ってはおらん」


 王は物憂げな顔を浮かべ、痺れている璃緒の手を自分の両手で包みこんだ。


「そなたが望む、地球の行く末とは何ぞや。今後、現在のような出来事が、そなたの望む世界なのか、未来なのか」


「今の地球の行く末……」


 彼女の頭の中に、今の地球の有り様が掛け巡っている。

 終わらない戦争、核兵器、格差社会、貧困と飢餓、不景気、自殺、殺人、環境破壊、自分だけがよければいい、身勝手な世界。こんな地球なんて……。


「だからこそ、変えねばならんではないか」


 その言葉に、璃緒は顔を上げた。


「だけどザベリン王、あなたは今まで、星々の未来を変えることが出来たの」


 眼を閉じて王は首を振る。


「否。一人の力で、その全てを変化させ得ることなど、出来るわけ無かろう。我が征するのは上辺だけの出来事に過ぎん。その星の未来は、その星のものたちだけにしか出来ぬ。例えそれが、崩壊であっても」


 王は璃緒を見据えた。


「守りたいか、未来に続く『地球』を」


 彼女はその直視に耐えられない。


 今の地球にどんな未来が待ってるのか? 人は愚かに地球の何かを破壊し、奪いながら進化を遂げた。そして生態系の頂点に君臨している。

 だが、それは地球にとって良いことなのか?


 先ほどと同じことを繰り返す。その自信のない顔は、王には見透かされる。


「もっと素直に、そなたの地球と向かい合うのだ。いざこざが、多々あろう。どの星でもそれは同じだ。そのようなことに気を揉むな。そなたは、もっと先を見据えねばならん。人類が滅んだ後もだ」


 王は立ち上がった。


「そして大事なことは、リオン。そなたが地球を真に愛しているかということだ」


 これまでの苦難を乗り越えてきた、屈強な躰と精神力だ。母星を守るために犠牲にしてきたものが如何なるものか、璃緒には計り知れない。


「真の心と強い力を持たなければ、これから先の未曾有の危機など到底回避できん」


 静かさが増す室内は、まるで廃墟化した建物の中にいるようだった。時間さえ止まっているかのように無音だ。脱力した璃緒の体に、痛覚が戻ってきた。その痛みは全身に浸透していく。再び恐怖に震え、痙攣した。


「でも、あんなのに勝てない」


 彼女は弱気な声で訴える。


「壊すことなんて、絶対無理」


 ザベリン王は大きな太い手を、璃緒の頭に乗せ撫でた。何故か心地よく、不安感が和らぐことを覚える。

 圧倒的な存在感が、これまで闘ってきた勇気が、何をも揺るぎない信念が、全てにおいて璃緒の心を包み込むんでいたからだった。憎むべき存在ではない。


「リオンよ。そなた自身を信じなくて誰を信じる。そしてこの『ゼブラ』を信じなくて、どう立ち向かうというか。少なくともこれは、今でもそなたを信じて同期しようとしているではないか」


「……ゼブラが、私を信じている」


 今の室内には二人の会話以外、健気な駆動音さえ聞こえない。


「そなたの願いは、この『ゼブラ』の使命でもある。これは全力でその目的を果たす」


「で、でも……」


 璃緒もわかっている。しかし想像を絶する巨大なものに、立ち向かう勇気と覚悟が持てなかった。背中を強く押してくれる道しるべを欲する。


「出来ない理由など、考えるだけ時間の無駄だ。これから何が出来るのか、何が残されているのか考えるのだ。地球上の全ての生物は今、滅亡しか選択肢はない。それが地球にとって良い未来ならばそれもよかろう」


 再び男は頭を撫でた。


「そなたには王妃、アデン、地球の家族が、そして我もついておる」


「ザベリン王……」


 瞳から溢れる涙は頬を伝う。


「そなたへの想いは、百瀬家の恩者同様、寸分も変わりはない」


 太い親指で男は伝う涙を拭う。


「恐れるな。己の信念を貫け。『ゼブラ』を継承し、未来へ導くのがそなたの運命」


 その言葉に後、足元にある転送装置の緑色円が光り出す。


「そなたの決めたことであるならば、我は何も言わん……」


 ザベリン王は消えていった。静けさが包みかけた時、璃緒はゼブラとのリンクが、再び繋がり掛けていることに気づく。


「……ゼブラ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ