その7
部活で賑わう体育館では、教師と男子生徒二人が何やら変な機械の前に鎮座していた。三人とも真剣な眼差しで、それを見つめている光景がある。すぐ側で、バスケ部のクラブ活動が始まった。ボールの音と走り込む足音など気にもしていない。ただ三人は談笑する訳でもなく、地蔵のように固まったままだった。
「何だよ、あれ」
部員の一人がゴールにシュートした後に呟く。
「あんなところに、いられちゃあ、邪魔なんだけれど」
「一年、誰か、追い払って来いよ」
一個のボールがゴールを逃して、三人の方へ向かった。
「おい! 避けろ、当たるぞ!」
大きく跳ねたボールは、丁度カオスの頭上に迫る。視線はそのままに、右手に拳を作って挙げた。ボールはその拳に当たった瞬間、それまでの方向を逆に変える。それはバウンドもせずして、ゴールポケットに吸い込まれていった。
「な、ナイス、シュート……」
そのモニタには地球モデルと隕石モデル、そして三つ目の点がモニタリングされていた。二つの間に現れた小さな点は隕石モデルと重なり、しばらく動かない。
「そんな、ありえん……、いったいこの点は何だ?」
クルスは目を丸くして、呆然となっていた。
「アイリス星で姫が、ザベリン国の真の後継者としての証『ゼブラ』でこちらに向かった、と連絡を受けています」
「『ゼブラ』だと! あの破壊要塞か!」
カオスの発言に一層目を丸くするクルスだ。今一度モニタに顔を近づけて凝視する。
「本当に『ゼブラ』を従えているのか」
「そのように、リュークから聞いています」
クルスは腕を組みんだ。
「『ゼブラ』は、主人の命令のもとで破壊を司る。一度標的にされたら草木の生える隙間もないほど、落雷『怒れる雷』を放たれ、最後は星さえも二つに割って、消滅させる。その能力の発揮は、主人の強い精神と肉体を結びつけるテレパスリンクが物を言うと聞く。それを……」
「動かせているようです」
冷静にカオスは答える。その顔は半ば誇らしげにも見えた。
「ありえん」
そう一言発するのがクルスの精一杯だった。
「その破壊要塞であれば、この危機を救えることが出来るかも知れん。だが……」
モニタの点は重なったまま動かない。もし破壊できれば、ここで消滅させることが出来るだろう。光の漏れる希望を持つことも可能だ。
「……しかし、その真価を発揮できるかどうかは、お姫様で決まる。が」
微妙な変化が、重なったオレンジ色の点に現れた。
「あの姫では、『ゼブラ』の力を出せない。そしてあまりにも無力だ」
「どうなったんだよ、百瀬は」
関口の心配をよそに、重なった二つはやがて分かれていく。隕石モデルだけが動き始めたのだ。
「姫!」
カオスは思わず叫ぶ。
モニタリングされる隕石との距離は次第に離れていった。
「やはり、無理だったか……」
「無理だと! ここにまだ、存在しているじゃないか。百瀬は終わってなんかいない!」
クルスに喰って掛かる関口の顔は引きつる。
「しかし、無理だ」
「無理なことくらい、姫は承知の上です」
今までにないほどの焦燥を隠すかのように、カオスは冷静に呟く。小さな点は空間を漂っていた。
「承知で、向かっているのです」
男の信念のような形相にクルスは黙り込む。
「お願いです。動いて下さい、姫。どうか……、姫……」
カオスは懇願するように、指でその小さな点を撫でた。




