その14
『ゼブラ』の「怒れる雷」は止み、漆黒の甲板は静まり返っていた。あれだけの攻撃をしながら、傷一つない『ゼブラ』にリュークは目を見張っている。
逆に男の眼下に広がるアイリス星の地表は、崩落した地下都市を含め、おびただしい数の大きな穴が開いていた。荒ましかった地表は更に拡大している。
「何という、威力だ」
カラトバは慌てるようにリュークから離れた。彼は戦慄きながら外郭が半分削ぎ落とされ、その捲り上がった物体に近づく。内部部品が剥き出しとなったシュナイダーは悲しげに残骸化して横たわっていた。
「酷いじゃないか。僕のシュナイダーが、こんな目に」
それを横目にリュークは背中のアデンの方を振り向く。
「アデン姫、リオン姫は……」
左腕を下垂したまま、疲労感を隠して彼女は微笑んだ。
「案ずるなリューク。見ての通り、落雷は終わった」
駆け寄ったメイラムは剥がすようにアデンを抱き締めて、男の背中から解放する。足元よろめく彼女の体をメイラムは優しく支えた。
「では、『ゼブラ』は」
先にある細長い塔を男は見つめる。
「如何にも。『ゼブラ』は、リオンを認めた。リオンは奴の新しい主になったのだ」
アデンは今度は満足気に頷いて微笑んだ。
「主に……」
静かな、よく見ると半ば透き通っている甲板をリュークは歩き出す。
「王妃の命により、私はあなたを見守ってきました。あなたを私は知っている。あなたの幸せも、悲しみも」
彼の足取りは、いつもにないほどゆっくりで重かった。
「あの時私はあなたに酷く辛いことを言った。仕方がなかった。私の使命だった。あなたが地球で幸福だったにも関わらず」
握る拳が震えている。
「安心しろ、リューク。リオンが……」
そう振り向いたアデンはその横顔を見て、声を掛けることに躊躇した。感情を露わにしている、情けなくも悲しげな表情を目にしたからだ。
「姫、あなたの本当の心はどうなのですか。このような出来事に巻き込まれていくあなたの運命を、どう感じていますか。あなたの幸福を私は背負うことが出来ない……」
リュークの前に目映い光が煌めき、その空間を割いて人影が現れた。青い装束を身に纏った栗色髪の女性。その華奢な体は、まるで羽根の生えた天使のように宙を浮き、しなやかに甲板へ舞い降りてくる。
「嗚呼、姫……」
現れた璃緒の体をリュークは優しく抱き止めた。
「私は、あなたを誰よりも知っている。破天荒な性格や他人を想いやる気持ち。そして、地球を愛していることを」
「……リューク」
「姫、ご無事で」
男の包容に璃緒は涙し、安堵した。顔をその広い胸に押し当てる。
「うん」




