その12
突然、照明が消えたように辺りは真っ暗な闇に再び変わる。璃緒は手探りで周囲を求めた。目の前に一筋の赤い炎が立ち昇る。そしてそれは、除々に大きく太くなっていく。細い紐のような炎はついに、人間に実体化していった。璃緒は目を見張る。彼女はその容姿に見覚えがあるようだった。
「クルスに見せてもらったあの時の画像と、同じ顔……」
「我が名は『ゼブラ』。我は主に忠実なり」
反響する漆黒の空間に、律している者から発せられる。
「『ゼブラ』!!」
璃緒は警戒して身構える。
「主よ、我に使命を与え給え。されば我は実行せん。使命無きは、何人も我を止めること出来ず」
「あ、あなたが、征服者なの……」
『ゼブラ』は炎に巻かれる手を差し伸べた。その赤く燃えるものに思わず璃緒はもう一歩下がる。
「全てを破壊尽くす。主よ、我を求めよ。されば全てをこの手中に入れようぞ」
「な、なに馬鹿なこと言ってんのよ!」
更に踏み込む炎のものは、大きな手挙を璃緒に突き出した。戦慄く彼女は尻餅を付く。
「主、我を求めよ」
『ゼブラ』は追い詰めるように近くに寄ってきた。
「ちょ、ちょっと、やめてよ!」
両手を振り、臀部を擦りながら璃緒は逃げ惑う。その行動に無表情のまま『ゼブラ』は彼女を見つめた。
「主でなければ、我が制するのみ」
鋭い爪先を持つ燃える手で『ゼブラ』は璃緒の首を掴む。
「き、きゃあ!!」
その周りが炎に巻かれ、彼女の顔が包まれた。燃え焦げてはいないが、チリチリとしたしびれが顔を覆う。璃緒は息が止まりそうになった。
「じ、実体……」
『ゼブラ』はそのまま軽々と璃緒の体を持ち上げる。つま先が地から離れていった。息が止まったままの彼女は、両手で喉元のものを掴んで剥がそうとするがビクともしない。
「制するには死をもって、応えるがいい」
みるみるうちに璃緒の顔が青ざめていく。
「全ては、我が主のため。幾人も我に躓く」
不気味な程の低い声が反響した。
「我の応えは、至上の絶対。この宇宙を全てを制するためにある」
璃緒の顔が赤く燃え上がる。
「ち、が、う……」
闇をも切り裂く声の中、苦しさを押さえた璃緒が呟く。
「全てを崩壊させようぞ。我が魂、成就のために」
『ゼブラ』は冷ややかな眼を見せた。
「主無き宇宙も、我が制してくれようぞ」
「そん、な……、せ……、か、い……」
もがく璃緒の手足の力が抜け、床に向かって脱力する。
「我が世のために、死せ」
「……、い、ら、な、い……」
彼女の瞳が白目を向きかけた。




