その11
「『ゼブラ』め、拒否するのか。それともリオンを待っているのか」
リュークの背中でアデンは呟く。甲板の落雷は激しさを増していた。地表は大きな穴だらけとなり、所々に火が発ち昇っている。
「もはや、時間の問題」
思わずメイラムは、言葉を漏らした。落雷を起こしながら『ゼブラ』はゆっくり転回し、上昇している。曇天の空は漆黒の巨大要塞を迎え入れるかのように、不気味に黒さを増していた。
「こいつ、空を目指してるよ」
リュークにしがみつくカラ卜バは情けない声を洩らす。
「何を一体しようと言うのだ。宇宙へ、出る気か」
「だから言ったんだよ。空なんかに舞い上がったら、僕らが助かる見込みなんて無いよ」
「うるさいカラトバ! 集中出来んではないか」
リュークの背中にいるアデンは、真上から横にいる男の頭を叩いた。
「……答えろ」
彼女は更に険しい顔で細長い塔を睨む。落雷の頻度も次第に多くなり、甲板の四人もいつ巻き込まれてもおかしくなかった。『ゼブラ』自体には何の損傷もなく、装甲の強さを物語っている。
「わらわの妹、リオンよ……」
アデンがもう一度瞳を閉じた時だった。
「アデン姫、危ない!!」
メイラムが叫んだと同時に、荒れ狂う光がリュークとアデンを直撃した。そのまま蒸発するかのように辺りが真っ白になる。
「が!」
リュークが呻く。肉体が押し潰されて、胃液が飛び出したかと思うくらいの圧力と衝撃を受けた。
止まった息を戻して見上げた時、光輪の鋭い矢は頭上で不自然に屈折した。二人に直撃した『怒れる雷』はその勢いを削がれ、眼前十メートル先に落ちる。
「な、何が起こったのだ」
焦げた黒い煤の広がりがリュークとアデンの周囲だけない。唖然と見つめていた男は、やがて背中で機械のショートする漏電音が聞いた。
「アデン姫!」
リュークはその異常な音に振り被った。アデンは歯を食いしばったまま、無言で左手を挙げている。その腕は真っ黒く焦げていた。
「あなたの腕は……」
彼女の左腕の表皮となる肉が全て吹き飛び、上腕から肘関節に向けて、黒く煤けた殼構造の一部がめくれ上がっている。そこから内部の機械化された部品が露出していた。また前腕から手指に関しては、破損が著しく外装が焦げている。リストは有らぬ方向へ向いていた。
驚く男は介抱のため、歩みを止める。
「狼狽えるなリューク」
それをアデンは制した。
「しかし……」
「案ずるな。この左腕は『ゼブラ』と同じ材質で造られたメタルアーム。わらわの体は大丈夫だ」
呆然とするリュークに、毅然とした表情でアデンは微笑む。眉間に皺を寄せるも、その場の士気を落とさぬように配慮していた。アデンは諦めてはいない。
「リオンは、今をどうにかしないと、奴に取り込まれてしまう……」
力を無くした左腕が下がった。それはリュークの背中にずしりとのし掛かかる。男は冷たい金属を感じながら、やや重心を前傾した。
「このまま進むのだ」
左に傾くアデンをメイラムは支えている。
「アデン姫、あなたはやはり、お強い……」




