その8
『ゼブラ』は、秩序無く荒れ狂っている。
四方八方に広がる触手のような『怒れる雷』は、地表を赤く焼けただれさせていた。
発着場に降り立っていたシュナイダーは四人を乗せて辛うじて飛び立っている。管制塔周辺とフィリップ艇は、陥没の渦に飲み込まれてしまった。
「まともに喰らったら、これもひとたまりもない」
必死の形相のカラトバが操る席の後ろで、爛れた地表を見ながらリュークは呟く。
「そうね、みんな一緒に燃え落ちるわ」
その横でメイラムが冷静に相槌ちを打った。
その直後、広範囲の地下都市の地表が、陥没では無く一斉に押し上げられる。先程呑み込まれたフイリップ艇が瓦礫に押しつぶされたまま、地表に押し戻された。
見渡す限りの地表に亀裂が入っていく。地震に似た音が響き渡った。果てない漆黒の土地が迫り上がっていく。
「なんと、凄まじい」
『ゼブラ』はその巨艦を物ともせず、ゆっくりと上昇した。やがて伝説上、最も宇宙に恐れられる破壊神としての全体が、姿を現す。
「これが『ゼブラ』……。まるで、一つの都市そのものの大きさだ。姫とのシンクロは、この全体をコントロールすると言うのか」
圧倒的なスケールと巨艦にリュークは額を汗で滲ませる。
「あいつが、こんなにも大きいなんて、聞いてないよ、アデン!!」
「大きさなど知らぬわ。早く行け、カラトバ。あれが宇宙に飛び出したら厄介だ。時間がないぞ!!」
動じない表情のアデンはシートを叩き、青くなっていく男に発破を掛けた。
「もう、どうにでもなれ!!」
定員オーバーの操縦室でカラトバは、半ばヤケを起こして叫ぶ。エンジンが唸り、直ちにシュナイダーは急加速した。
「翔んで行けぇ!!!」
一人だけ悲鳴だ。
「カラトバ、バリア全開だ。こいつは壊れても、わらわ達が『ゼブラ』に着陸すれば良い。それまで落とされるな」
「当たり前だ! まだ死にたくないからな!」
と豪語した途端に鈍い音が鳴り、シュナイダーは傾いた。
「カラトバ殿、左翼に『雷』が直撃しましたぞ」
「わ、わかってるよ!! 大体、こいつを手動操縦なんかしたことないから!」
シュナイダーは左右に船体を揺さぶりながら、破壊要塞『ゼブラ』に向かう。
落雷は激しさを増し、この間隔も短い。何者も近づけさせない攻撃が容赦無く、雨のように降り注がれている。
カラトバの操縦幹を保つ手が震えた。船体が悲鳴を上げながら振動している。
「カラトバ殿、しかりと!」
後ろの席から堪らずリュークは手を貸す。その振動が幾分収まるが船体の安定は不十分だった。
「もうダメだ、みんなバラバラになる!」
「あれに乗るだけでいい。カラトバ、男を見せるのだ。行けい!!」
アデンは腕を組んで叱咤する。雷が艇先に直撃し火を吹いた。破損した破片が、操縦席の窓に当たる。
「ぎゃあ!!」
カラトバは大声を上げ、操縦幹から思わず手を放した。シュナイダーは方向を失い機首が下がっていく。
「莫迦者! 手を放す奴があるか!」
彼女は操縦幹を奪い、墜落する船体を引き上げようとした。
「『ゼブラ』に、ぶ、ぶつかる!」
白目を向いたカラトバは口から泡を吹いて失神し、席から滑り落ちる。
「アデン姫!」
構わずリュークはカラトバを押し退け席に座った。
「リューク、頼む。わらわのテレパスも奴の上に乗れば、少しくらいならリオンに届くことが出来るかもや知れん」
「姫のお考えはわかっています。しかしご無理はしないで下さい」
操縦幹が接合部から取れてしまうくらい、リュークは渾身込めて引っ張った。傾いた機体はバランスを取り戻そうとする。だが後方エンジン出力口に『雷』は直撃した。ガクンと速度が落ち再び下降する。目の前に『ゼブラ』の巨大な腹部が迫って来た。
「シュナイダー、すまぬ」
舵を横に切って側面を『ゼブラ』に向け、飛行翼を削りながら斜めに上昇する。
「リューク、そのまま這い上がるのだ」
「御意」
だが、機首が思わぬ『ゼブラ』の突起物に衝突し、再び九十度転回した。
「このまま行かぬか!」
黒光りする要塞の下部表面と直角に接触し、火花を散らせながら勢いで上昇する。鳴り響いていた計器破損の警告音が静まった。
「バリアが消えた」
機首の半分は削げ落ち、構成部品が飛び出して窓を殴打する。
「ぬん」
男が息んで、もう一廈操縦桿を引いた。なおも首をもぎ取ろうとする黒い壁はその動作を拒否する。甲高い悲鳴を上げながら機首は無くなったが、今度は胴体から白煙が上がる。
その舵が固く動かなくなり、コントロールを失った直後、眼前の視界が開ける。
放電する目映い光が幾つもの帯状に広がっていた。思わずリュークは呟く。
「美しい。まさに『怒れる雷』だ」
飛び込んできた金属の塊に無数の『雷』は排除に向かった。半分形を失っているシュナイダーは眩い発火を起こす。激しく揺れ傾き、もはや墜落寸前だ。
「船尾にも被弾。エンジン出力低下、制御不能、墜落します。このまま不時着陸を試みます」
失神して転がっていたカラトバをメイラムは抱き起こす。
「カラトバ殿、参りますよ。体を構えてください」
「え、もう着いたの?」
機体が傾き、大きな衝撃が四人を襲った。




