その5
「ま、待て! 冗談だろ!」
地面を揺らして巨人たちはカラトバのいる場所も含めて、周囲に両腕を振り降ろしている。道だった所にに幾つもの穴と粉砕跡が散らばっていた。
「リ、リオ! いったい君は何処にいるんだ、出てきてくれ!」
彼の声は悲鳴で枯れかかっている。逃げる場所を失い、カラトバは膝を抱えて震えていた。どうしようもない状態に手が出なかった。ただ巨大な石像たちは、男に直接的な危害を加えている訳でもない。一帯を破壊し、何かを取り出す用意をしているような行動だった。
「もう、止めてくれー!!」
カラトバの絶叫とともに、烈しく鳴っていた音も終わりとなる。
準備が整ったかのように巨人たちは動きを止めた。
そして沈黙して待ち続ける。
一瞬、一帯の地面が擦れたかのように揺れを男は臀部に感じた。
「な、なんだ。もっと地面の下から感じる。地震か」
振動は次第に大きくなり、突然、座りこんでいた場所が盛り上がる。カラトバは必死の形相で、動作を停止した巨大な石像の股下へ潜り込んだ。
「昇って行く!?」
地下都市の瓦礫の道路を割って、太い角のようなものが二本そしてもう四本と飛び出し、反り立ち昇っていく。角は二つの長い塔を中心に孔雀の羽根の如く、半円状に広がっていった。更に延びていくそれは、やがて地下都市を抉って突き破る。
「そんな、都市が埋まる!」
同時に天井が崩落した。動かなくなった巨大な石像の股間で男は絶叫する。砕けた天井の隙間が拡大し、鈍色の雲が見えてきた。次々と都市上部だった岩盤が落ちては至る所に砕け散っていく。
塔の下に陽炎のような人影が見えた。それは大きく両手を広げている。
「何をしている、リオ!!」
彼女が手を一度振ると、突き上がっている角もコントロールされているかのように同様の動きをする。
カラトバを巻き込みながら周囲の瓦礫を吹き飛ばした。巨人が破壊した地面が吹き飛び、その下から別のものが出現する。
楕円で鈍く黒光りする金属様の塊。
璃緒はその塊に向かって、静かに歩き始めた。
「理解し、行動しているのでは無い」
しかしカラトバはその始終を眺めておく以外、何も出来ない。
眼前にある黒い楕円体はその一部が流体になり、璃緒の足元から体に纏まりつき融合同化していった。右眼を茶褐色に染めた女の全身が、黒い肌に変っていく。その吊り上げた目元にあの戸惑う表情はもはや在存していなかった。
「お、おい! リオ!!」
女を取り込む黒い物体と呼応して、角は羽根のようには大きく羽ばたく。更に都市の地盤が拡散して割れ落ちた。土埃無う地下都市全体に、覆い隠されていた巨大な黒い金属がゆっくりと姿を現していく。その表面から再び何本も角が流体として突き出し始めた。それらは先に出たものを追うように、天を目指して奇怪な音を奏でながら延びていく。
共鳴する天空が曇天化し、やがて凄まじい落雷を招いた。それは過去の超文明の跡地に突き刺さり、崩壊し瓦礫化した街並みを一掃していく。黒い物体は地下の広大な空間を全て埋め尽くしていた。その空間全体に得体の知れない音が鳴り響く。
「ま、まさか、ここ全部が動いているのか!?」
地面が大きく板状に割れて角が出現し、地上の岩盤に向けて石像ごとカラトバは撥ね飛ばされた。
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管制塔を出て塔まで半分程度の距離で三人は立ち止まる。直ぐの道が盛り上がり、行く手を壊して塞いでいた。リュークは革靴を鳴らして床を蹴る。
「思った以上に地面が脆い」
細い目をして男はその先までを確認する。
「こんなところまで地面が割れて、地上は崩落寸前だ」
と、その先にニ本の巨大な角が飛び出した。そしてまた同じ様なものが突き出てくる。その光景にリュークは目を見張った。
辺りの騒音を消す大きな雷鳴の後、アデンの足元に瓦礫が飛んで来て突き刺さる。
「リオンめ、この星を潰す気か」
更に幾度と轟音を伴い、破片が辺りに散っていった。メイラムは体でアデンを庇いながら、安全な場所に誘導する。だが周辺一帯はリュークの言う通り、陥没しかかっていた。
「このままでは、この一帯が落ちます。姫に近づくどころか、ここもいつまで保つのか」
リュークは見渡しながら眉間に皺を寄せる。
突如、足元が大きく揺れ、その地面が緩やかに隆起していく。思わず男は身構えた。
「いかん。これ以上は無理だ。上空から捜すしかない」
岩盤から角が突き出す。その先にはある物体が引っ掛かっていた。
リュークは思わず仰け反ったまま、鞘に手を掛けて抜いて構える。
「石像?」
その股間から悲痛な声を上げて、男が転がり出てきた。リュークの足元に辿りついた先にいるアデンの顔を見るや叫ぶ。
「アデンじゃないか!」
「おお、なんだカラトバ。無事だったのか」
彼女はこの様相に至っても冷静沈着だ。
「無事だったか、じゃないよアデン! ありゃ、なんなんだ。君のとこのリオって奴は、酷いじゃないか!!」
埃まみれの男は泣きそうな声を上げて、猛々しい巨大な角と石像の方向を指さした。アデンはその方を振り向かず男を見て頷く。
更に次々と角が一帯を崩しながら突き出した。その一角が転がっていた石像を飛ばして、カラトバの足元に近づけさせる。
「ひい!!」
アテンはその石像に近づき、神妙な顔をして手を翳した。
「この石像は……。ようやくリオンは覚醒した。礼を言うぞカラトバ」
と言ってから、彼女は真顔になる。
「あれまでの覚醒は、わらわの想像を越えたものだ」
アデンの冷やかな瞳に思わずカラトバは息を飲んだ。
「おまえ、わらわの時と同じように、リオンに辱めをしたのだな」
アデンは彼を見据えた。取り巻く側近たちも振り向かずにはいられない。
「ば、ばかな! な、何もしてはないさ!」
顔に煤を付けたカラトバは目を丸くして、焦りながら言った。
「精神、肉体の危機的状況が同時に起こらなければ、わらわたちは覚醒などしない。しかし覚醒にはそれしか術はない」
「いや、だから!」
アデンはカラトバの頭を叩く。
「大方何をやったのか、わかっておるわ。ここまでリオンを連れ出し、この有様で何を言い訳する」
「ま、間違えたのは済まない。この通り謝る」
彼は両手を擦り合わせて、アデンに許しをこうた。
「だが、あれが覚醒なのか。君の時と随分違うじゃないか」
「それは、あやつが真の……」
角に弾かれた大きな岩盤が飛んでくる。
メイラムは素早くアデンを抱き、側方へ跳ねた。
カラトバはリュークが支えている。岩は少し後方に落ちた。
四人は息を飲んで前方を見つめる。
地上に突き出ている角は螺旋リながら、地下から天井を破壊し這い上がろうとしていた。時折落雷を放つ。
「アデン、一体、あれは何だよ」
再度カラトバは憤り立つものを指をさした。
「恐らく、あれこそが『ゼブラ』であろう」
「『ゼブラ』!? あの伝説上の超古代兵器か!!」
驚愕する男は目を見開く。
「アイリス星の伝承にある宿命とは、君たちがこの『ゼブラ』を動かす事なのか!」
同じに側近たちも振り返る。
「如何にも。わらわたちの先祖より伝えられし『負の宿命』。一千年前から『ゼブラ』の起動は『この世の終わりの始まり』」
再び足元が揺れた。地下都市の崩落が始まっている。
「しかし一千年経っていても動いてるとは」
カラトバは顎に手を当てて頷いた。
「『ゼブラ』は直系王妃との固有テレパス信号しか扱えないようになっていると聞いたことがある」
「そうだ。今『ゼブラ』は、リオンに刻まれた家系特有の遺伝子情報によって、起動したまでだ。完全には融結合していない」
地面が先程よりも強く揺れだしていた。リュークの側に、アデンとメイラムが腰を低くして寄る。
「その脳神経と組胞の全てと融合合致しなければ、『ゼブラ』は操れない。そしてそれが出来るは、真の王位継承者だけだ」
「リオがあれを動かせると知っていたから、だから彼女を辺境の地に『隠した』のか。でも何故、双子のリオの方なんだ。真の王位継承者だったらアデンでもいいはずじゃないか」
疑問を投げつける顔をして振り向いたカラトバだったが、アデンは視線を反らした。
しばらく沈黙が続いたが、表層の大きな揺れがその場を破る。
「しかし覚醒するにしたって度が超えている。さっきも言ったけど君の時と違いすぎるよ」
「おまえの覚醒の仕方が悪かったのだ、莫迦者。わらわよりもリオンにどんな酷い辱めをしたのだ」
リュークはカラトバを凝視し睨みつける。
「カラトバ殿、ご返答によってはこのリューク、考えを改めさせて頂きたい」
彼は慌てて首を大きく振った。
「待て、リューク。あ、アデン。そんな、変に誤解を招くようなセリフはやめてくれよ!」
先程と違い、アデンは屈託なく笑う。
「全く、世話が焼ける奴だな」




