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朝起きたら、宇宙征服者の姫になってた!  作者: 七月 夏喜
第5話 璃緒とカレン王妃とザベリン王の真実
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その4


「そう。『あれ』は選ばれし者にしか、従わない」


 シュナイダー艦の隣に着陸したフィリップ艇のアデンたちは、管制塔の屋上から遠く砂埃が舞う彼方を見ていた。


「それは……、リオン姫が覚醒されたと」


 リュークは彼女の一歩後方に位置している。地面の揺れを感じながら男は確認した。遠くから聞こえる地響きにものともせず、腕を組んだアデンは冷静に答える。


「そうだ」


 男もその方向を見つめると、荒々しい轟音が鳴り響いていた。天には薄暗い雲が覆い、その下にいる者たちを包んでいる。突然、辺りを輝かせる光源も放っていた。


「百瀬家に来訪し、姫を預けたあの日から十七年」


 神妙になったリュークは畏まる。


「アデン姫、ルン大佐をご存知ですか」


「知らぬわけなかろう。ザベリン家にとって重要な人物の一人だ」


 振り向いたアデンは少々頬を膨らませていた。


「辺境の惑星『地球』に、カレン王妃を含めた者たちが来訪したことはどうでしょうか?」


「ザベリン家とアルベル家との歴史は熟知している。母上様の行動を見ているはずではないがな。ここで愚直な問答をしている場合ではないぞ、リューク」


 眉間に皺を寄せて、彼女は口を尖らせる。リュークは躊躇いながらも何かを言おうとしていた。


「私がリオン姫に初めてお会いした時には、当然知っておかなければならないことを何一つ持ち合わせておられませんでした。百瀬家からは、我々に関する一切の話を聞かれてはいなかったようです。しかし『オメガ・テン』の一件にて私の艦で静養、お目覚めになった時、はっきりと『カレン王妃』と『ルン大佐』の名前を出されたのです。驚きました」


「赤子の記憶? いや……」


 暫しアテンは考え込んだ。


「リュークの艦にカオスは幽閉されておった」


 彼女が呟くとリュークは頷く。再びアデンは沈黙する。遠くの轟音も耳に入っていないようだ。


「リュークの艦。あれは確か、ルン大佐から譲り受けたもの」


「如何にもその通りです。大佐亡き後、王からの勅命を受け私が引き継ぎました。もう随分と古く旧式艦ではありますが、愛着があります」


 右手を挙げてアデンは解説を制止させる。


「十七年前に三人、いや、赤子のリオンを乗せた四人は地球にその艦で向かった」


 管制塔の屋上から見る雲は益々黒さを増していた。


「その時の行きさつと皆の想いの数々は刻まれ、艦は記憶している」


 顎に手をあて、更に考え込む。


「そして十七年後、リオンはその艦で幽閉されておったカオスと接触した。その時奴の能力に触発され、サベリン家の持つ特異なテレパスの能力を引き出された」

 

 リュークは相槌を打つ。


「姫はカオスに、直接触れてもいます」


「うむ。カオスの能力は対象物の過去の背景や記憶を読み取って思考を奪い、感情もなく、己の破壊のために自在に操ること。それも星丸ごとの大量の思考をだ」


「で、では、姫は奴に操られてしまっていたのですか」


 思わず男の声が上がる。


「莫迦者、逆だ」


「は?」


 リュークにしてはいささか恥ずかしいくらいの、素っ頓狂な声だった。


「カオスの思念を理解、開放して苦脳を悟らせ、生きる糧を与えたのはリオンの能力。だからこそ奴は本能的に、勝てぬ相手には従うしか無かったのだ。だが、カオス自身も気が付いてはいまい。奴の存在意義そのものを包み込み、強大な力なのかもしれん」


「なんと……」


 唖然とするリュークは、驚愕して目を見開く。


「更に奴はリオンに、別な感情も植え付けられている」


「それは一体?」


 顎に当てた細い手を、アデンは胸に移動した。


「愛情だ」


 彼女は頬を染めながら微笑む。


「愛情……」


 リュークはひとりごちした。


「でなければ、やはりわらわたちは、奴を目の前に据えてまともに言葉を交わす事など出来はしないだろう」


 頭部に丸い玉のように左右二つに結ってある紫色の髪が靡く。直立する姿は、風圧にも負けず清楚で力強い。


「更にカイザル星のクルスの放った『オメガ・テン』によって生命的危機まで落とされた際、生き延びるために覚醒をより助長されたのかもや知れん。そんなリオンがこの艦で、読み取ったものは」


 思慮する表情からある結論を出したように頷いた。


「『残留思念』。リュークの艦に残っていた王妃や大佐たちの想いが、テレパスを強化されたリオンに伝わったかも知れん。だから出来事の始終を感じ取った部分もあったのだろう」


「……残留思念。皆の想い」


 リュークは暫し沈黙する。


「しかしリオンの覚醒の全ての鍵は、貴様だったのだ」


 男をアデンは凝視する。


「誘爆するカイザル星から戻らなければ、誰もリオンの居所は知り得なかった。リオンは永遠に宇宙の孤児となっていたであろう。そして大佐の艦を譲り受け、カオスを幽閉していなければリオンは覚醒しなかった。母上様や大佐が死しても、貴様を脱出させた訳には合点がいく」


「だからこそ王妃は、私に姫を導けと……」


 過去の行動の意味に男は言葉に詰まる。


 リユークの背後に突然、凄まじい風が吹き荒れた。遠くの地が沈んだようだった。


「ならば、あの有様は……」


「王位継承者に必要な、伝承に伝えられる宿命」


 彼女は左手の指を一本ずつ折り曲げて見つめる。


「リオンが何故、地球という辺境の地に秘匿されたのか」


****



「アデン姫、参りましょう。このままではカラトバ殿がきっとお困りです」


 メイラムが話しに割り込むと、我に返ったように頭を音の鳴る方に向けた。彼女に促されるままにアデンは足を進ませる。


「リューク、まだリオン姫には全ての準備が出来てはいまい。介添えをしなければならんぞ。それが貴様の誠の役目だ」


 メイラムは走り際に言葉を放った。


「わかっている」


 リュークは長い二つの塔を見つめる。その下に璃緒はいるはずだった。


「俺が守り、導く人は……」


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