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朝起きたら、宇宙征服者の姫になってた!  作者: 七月 夏喜
第5話 璃緒とカレン王妃とザベリン王の真実
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その1


 瓦礫の道なき道は続いている。大小の岩場を乗り越えながら、二人は細長い塔に向かっていた。


「本当はアデンとここに来るつもりだった」 


「知ってるけど、何ために?」 


「僕はアデンとここである賭けをしたんだ。僕が勝ったら、彼女と結婚しても良いと」 


「ええ?」 


 璃緒は目を丸くして声を上げたが、カラトバは同じ口調で話し続ける。 


「まあ、小さい頃の話だけれどね」 


 前を進む彼は顎に手を当てて苦笑した。


「僕とアデンは幼い頃、この地で育ったんだ。勉強と食事以外ではいつも一緒に遊んでてね。彼女の口癖は、『しょうがないから、おまえと結婚してやる』だったよ。僕より三歳も年下なのにね」 


「アデンらしい」 


 少しずつ彼女の性格と振る舞いを理解し始めている璃緒も、思わず吹き出す。 


「しかしどうしてこの星で? アデンは毋星で英才教育を受けてたんじゃなかったの?」 


 頷いてカラトバは振り返った。

 

「彼女が十五歳になるまでだけどね。古くから伝わっている、習わしさ』 


「習わしって言っても、こんな何も無い所で……」 


 璃緒は改めて、瓦礫の山を見回す。 


「違うよ。僕らは皇族だぞ。この壊れた瓦礫の上で暮らしていたわけじゃないよ。地上で緑地が広がっていただろう。その中に宮殿が建てられていたんだ。もっとも、その建物は母星から運んで来たんだけれどもね」


 カラトバは璃緒の想像を打ち消すように説明するが、彼女はきょとんとしていた。 


「かなり遠くにいたけど、君も辺境の惑星『地球』とか言う処で、面倒を見て貰っていただろう」 


「地球の百瀬家に……。あの朝リュークが来なかったら、普通の生活してたのに。本当に迷惑」


 悪気はないが、彼女は口を尖らせ悪態をついた。


「ところで、いったいどんな賭けをしたのよ」

 

 少し考え込んで頷き、男は言い続ける。


「単純なことさ。その塔の下にある聖櫃の前で、ある呪文を唱える。何か起こったらアデンの勝ち、何も起こらなかったら僕の勝ちだ」


「聖櫃?」


 遠くにそびえる二本の塔の下部を、カラトバは指差した。その指に沿って璃緒の視線が動いていく。


「その呪文で、どうなるの?」


「わからない。アデンがある年齢に達しなければ、その答えは解けないんだ」


 何かを察したように璃緒は呟いた。


「ある年齢って、十七歳だよね」


「そうだよ」


 覚醒の年齢が十七歳ということを璃緒は聞いている。

 ただどのように覚醒し、自分が自分で無くなるようなことに本当になってしまうのか。

 全く見当もつかないことに彼女は沈黙した。


「残念だったね、アデンじゃなくて」


 少しだけ微笑むカラトバは、璃緒の顔を見つめる。


「まあ、仕方がない。これも運命だよ。アデンに瓜二つの女性がいるなんて知らなかった」


「やけに素直な反応ね」


 仁王立ちする璃緒は、少々鼻息を荒くした。


「そうでもないさ」

 

 目前のカラトバは再び璃緒を嘗め回すように見つめる。


「しかし幾らなんでもあんな処に居たなんて。誰からも忘れさられてしまいそうだよ」


 そう言った直後、カラトバは再び顎に手を当て考え込む。


「いや、出生や存在そのものを、僕ら皇族やその他の連中から『隠していた』とも言えなくもない」


 神妙な顔付きで男は呟いた。 


「真の継承者は、ひとりだけだ……」

 

 璃緒はじっとカラトバを見据えていた。カラトバは考えていたことを打ち消すかのように、頭を振る。


「い、いや、何でもない。そうだ、少し休憩しよう」 


 二人は建物の一角に腰を降ろした。古びた水道管らしきものから、ぽつんぽつんと滴が垂れている。璃緒がそれに触ろうとした時、暗闇に地響きが鳴った。


「僕がいた頃よりも、思った以上に脆くなっているな。ここもやばそうだ」


 カラトバは立ち上がり歩き始める。璃緒も続いて腰を上げた時だった。

  



「……音」


 手元の近くで何かの音がする。彼女は注意深く辺りを探った。壊れた壁の下から微かな音楽が、途切れ途切れに鳴っている。 

 それは半分、土の中に埋もれていた。璃緒は手で掻いて掘り起こす。先ほど見たものと同じように、手鏡の形の中に液晶画面の様なものが収まっていた。途切れの映像と雑音と混じった音楽が、そこに流れている。 


「これって」 


 映像には華やかに着飾った男女が、ゆっくりと歩いていた。その周囲を住人が取り巻き、祝杯を上げている。華やかな結婚パレードだった。


 場面はゆっくりと男女にズームアップしていく。やがてカメラは、次のシーンヘ移った。璃緒は目を見張る。 


「この人、カレン王妃……」


 鏡の中に映る映像はこれまでと違い、『幸福』という文字が似合うほど満面の笑顔だった。 


「夢で見たカレン王妃は、もっと悲しそうだった。隣がザベリン王なの」 


 彼女の持つ手鏡が震える。中の男は、一度も振り向かなかった。やがて映像は形を崩し消える。璃緒は何度かその物を振った。映像が出るどころか、手元から転げ落ちてしまう。慌てた彼女だったが機器を拾うことを諦めた。 


「幸せだったの、かな。征服者と結婚なんて……」 


 もう何も音は鳴らない。


 彼女は腰を上げた。

 

 


「何してるんだ」 


 足元に転がっている映像機器をカラトバは見つめる。


「別に。まだ行くの?」 


 璃緒は手の埃を払い、服を整えた。そしてひと呼吸置く。 


「カラトバ。アデンと間違えたんだったら、また戻ればいいじやないの」


 男は遠くに霞む細長い搭を見上げた。二本対になって佇む姿は、届きそうもない蜃気楼のように揺らめいている。


「ねえってば」


 返事を待てない璃緒は催促した。 


「いや、もう少し歩こう。ここは少々危険だ。それに」


「いい加減、地球にもどりたいんですけど」


 溜息を付いて彼女は歩き始める。その姿を見ながら男はひとりごちした。


「同じ顔の君のために、あの聖櫃で何が起こるか見てみたい」

 

 促(うな)がされて砕ける瓦礫の道を、時折りバランスを崩しながら歩いている。 

 ふらついた拍子に璃緒は男の軍服を掴んだ。上着の間から、腰にぶら下げている銃らしきものが目に入る。彼女は驚いて掴んだ手を咄嗟に放した。 


「何だ、驚いたのかい。これは護身用さ。僕も皇族だし、命を狙われる可能性もあるからね」 


 璃緒はカラトバから少し離れて後を追う。 


「誰から狙われるの?」 


「宇宙の輩たちからさ。これだけの勢力がある支配者が、誰からも恨みを買わないで済むことなんてないさ」


 カラトバは冷ややかで落ちいた声を発する。 


「恨みを買うほど悪いことしてるって、ことね。カオスやクルス先生もそのせいで……」 


 地球でのこれまでの出来事を、璃緒は思い返した。 


「もし誰かが襲ってきたら、それで」 


「反撃するしかないな。僕ら皇族が命乞いなんて出来ない」 


 ぴたりと璃緒の歩が留まる。気配に気付いたカラトバは振り返った。 


「どうしたの」 


「撃ったことあるの? それで」 


 そのトーンの下がった声色に気付いたカラトバは向き合い、腰の武器に触れる。彼女は身構えた。

 

「あるよ」 


 不敵な顔に戦慄く璃緒は、後退りして尻餅を付く。目の前にいる男に警戒する鋭い視線を投げつけた。 


「仕方がないだろ、僕だって命が大切だよ。リュークやメイラムなんか、僕よりもずっと荒っぽい奴等だぞ」 


 これまでの二人の素行を考えれば、璃緒は納得せざるを得ない。 


「征服者の部下だから」


 カラトバは堪らず吹き出した。 


「君はその征服者の娘だぞ。しかも彼等はその君らのためなら、敵と相討ちして死ぬことも厭わない。そう教育されている」 


 口を真一文字にして、璃緒は沈黙する。 


「僕の側にはそんな戦闘に長けた輩はいないからな。丸腰では正直、怖いよ。一旦宇宙へ出たなら、周りは全て敵と思ったほうがいい」 


「アデンもそうしているの」  


「そりゃ、直系血族だから当然だろう。いつ、どのように狙われて死ぬかわからない。その為に彼女は死んでも恥と悔いが残らないように、教育され責任ある行動している」 


 璃緒の中に次々とこれまでのアデンやリューク、メイラムそしてカオス、クルスに至る者の行動が甦る。 


「みんな、意味のある行動をしているんだ」 


 瓦礫の上で佇んだまま、呟く璃緒は身動きが取れなくなった。 


「私は、何も無い。何も考えなんて、無い」




「君はいったい、何者なんだ」 


 カラトバの問いに、璃緒は押し黙る。 


「わ、私は……」 


「そう、知ってるよ。あの惑星の一般高校生とかだろ。でも、よく考えてみろ。全く関係ない星の者をこんなところまで僕が連れてくると思うか」 


「それはあなたが勘違いしたから」


「誰とだよ」 


 カラトバは腰に手を当てた。 


「アデン」 


 璃緒の声が小さくなる。 


「そうだ。僕が幼い頃に一緒に遊んだ彼女に瓜二つだからだ。それでけでも、全く僕らと関係ないことはない」 


 何処からともなく突風が吹き、璃緒の茶髪が荒々しく靡かせた。カラトバは腕で顔を覆う。 


「……わかってる」 


 未だ吹き荒れる中、璃緒は立っていた。 


「いいや、君はわかっていない。自分の事なのに、わかろうとしない」 


「わかってるわよ!」 


 彼は動きを止める。璃緒の目頭の様子が涙を堪えているように見えたからだ。 


「こんなところまで来て、否定はできない。そんなこと、もう……。私が自覚しないと、ダメなことくらい……」 


 カラトバは慌てて咳き込んだ。その場の繕いがわからず、溜息をして背中を見せる。



 「ごめん、言い過ぎた」 


 彼女はハッとして頭を上げる。カラトバは腕を組み、少々困った表情を浮かべて不器用に微笑んでいた。


「辺境の惑星にいた君は、宇宙の状况も何も知らないんだよね。混乱させてすまない」 


 非現実の中の現実、今起こっている状況を掴むだけでも、璃緒には精一杯なのは事実だ。 


「知るべきじやなかったのかもな。あの惑星にじっとしてれば、こんな事に巻き込まれることなど無かった」


 

 と、十メートル先に天井から瓦礫が落ちて粉塵を巻き上げる。 


「さあ、急ごう。この街はもう死んでいるんだ。いつまで保つかわからない」 


 男は手を差し伸ばした。戸惑い歪んだ笑いを浮べて、璃緒は手を差し出す。 


「少し君のことが理解出来てきたよ」 


「カラトバ」


 二人は手を取りあいながら、なおも塔に向かって進み始めた。


「だが、君が背負うものは、余りにも大きい」


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