その2
「アイリス星」
アデンは呟く。
ワームホールから抜け出た大型戦艦は、アイリス星の軌道上に停泊していた。メインブリッジから眼下に見降ろす星に、彼女は訝しい顔をしている。リュークはそれを黙認していた。
アイリス星は灰色と赤色が入り混じり、緑色が点在した様子をしている。褐色化した乾いた不毛の大地と、緑地化した僅かな生存地区、そして灰色の海が広がっていた。
その昔、ここは超高度文明を発展させた種族が繁栄していたという。
「アデン姫、フィリップ艇の転送装置の準備が整いました」
頭を垂れたメイラムが声を掛ける。アデンは頷き、リュークの方を振り返った。
「リュークよ、おまえはどうする。アイリス星に降り立つかどうかは、無理には申さぬ。心配せずともリオンは連れて帰ってきてやる」
瞬間、アイリス星に視線を向けて振り返り、胸に拳を当て頭を下げる。
「如何様にも、アデン姫のご指示に従います」
「ならば、ついて来るが良い」
アデンは少しだけ微笑み、踵を返して歩き始めた。メイラムもその後に続き、三人はブリッジから出ていく。
メイラムは何度も振り返っては、リュークの顔色を伺っていた。
「メイラム。なんだその顔は」
「心配などしていないぞ。貴様の不甲斐ない顔を見るのは御免だからな」
相変わらず強気の発言に、リュークはほくそ笑む。淡い照明の中、アデンは素知らぬ顔で前を歩いていた。
「情けない、か」
男の悟る言葉にメイラムは押し黙る。足早に複数の靴音が響くフロアーに少しの間が空いた後、リュークは呟いた。
「俺にとってのアイリス星は、昔と変わらない」
「さっきから、言っている。貴様のそんな顔は……」
「わかった、わかった」
彼は話を中断して笑う。メイラムはアデンに付き添うように小走りをし、先を進んだ。
目を細くして見つめるリュークは、腰に重くのし掛かる鞘に手を掛ける。
「あのお方は、地球で生涯を送る方が、幸せなのではないか」
男は細くなった瞳を鋭くして、更に鋭敏になった。
「王妃は……」
腰の鞘を握り直す。
「あの日王妃は、俺に託された」
彼は転送装置の場所に辿り着いた。すでにアデンとメイラムは行った後だ。緑色に淡い円が、ゆっくり点滅している。リュークはその円の中央に直立した。
「導くようにと。それがどんな道なのか、未だ俺には解らぬ」
淡い点滅がやがて光り始め、リュークの姿が消えかかる。その刹那、男は鞘をもう一度握り締めた。




