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朝起きたら、宇宙征服者の姫になってた!  作者: 七月 夏喜
第4話 双子の姫と様々な過去
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その7

 扉が閉まった後、璃緒はこの静寂な空間で休める気がしなかった。

 ベッドから這いだして、立ち上がると照明が付く。貧血になったように、目の前が見えなくなる。手を翳して薄目をしていると馴れてきた。璃緒は周辺を見渡す。入り口の側に先ほど投げつけたクッションが、テーブルの上に乗っていた。

 彼女は余所を向いたが、その他には物らしき存在はない。


「私がこのままここに、じっとしてるはずないじゃない」


 白い病衣の裾を引き擦りながら歩き始めると、うまく直進出来ず、壁に手を触れるはめになった。


「私の服、どこにいったのよ。スマホも無くなってるし」


 璃緒は独り言を言いながら進んでいく。よく見るとテーブルのクッションの下に、青い服らしき物が置いてあった。


「これを着ろってことか」


 璃緒はいそいそと、病衣から青い服に着替える。


「アデンが着ていた服かな。サイズがぴったり」


 その後扉まで達すると、自動ドアが開いた。頭だけ部屋から外を伺うと誰もいない。


「そうだよ。別に悪いことして捕まってる訳じゃないんだし」


 それでも璃緒は警戒しながら歩き始めた。長い廊下は人の気配を関知して、淡く照明が点る。辺りは人気を、全く感じさせなかった。


「誰もいないの? それとも、今は勤務時間外、夜かな?」


 言った後、璃緒は苦笑する。


「宇宙だから、いつも夜みたいなものか」


 艦内を璃緒は歩き回った。やがて光がにわかに集まるドーム型の部屋に出る。そこはリュークに初めて転送させられて、地球を宇宙から見た展望台だった。吸い込まれるように中に入る。


「いつ見ても綺麗……」


 璃緒は自然と言葉を失う。


「こんな星の何処か片隅で、今でも戦争や未知の災害が起こっているなんて、嘘みたい」


 視線を逸らした。地球の周囲には幾もの星が煌めき、そして輝いている。


「みんな、何かやってるのかしら」


 璃緒は自問自答する。


「そう。地球だけが、私たちだけが、この宇宙に存在してるんじゃない。この星も所詮、大宇宙から見ればちっぽけな世界なんだ」


 彼女はそこに暫く佇む。


「宇宙って、広い、広すぎるよ……」


 半球体の展望台から見上げた宇宙は余りにも大きく、星たちはさんざめきあっていた。


「ザベリンが征服者だったら、あれも支配、こっちも支配、あそこも支配?」


 璃緒は上下左右に、指を差す。


「この宇宙にザベリンだけが征服者なんて、絶対あり得ない。でもザベリンだけが悪者?」


 璃緒は二つ記憶を思い戻す。

 一つは、クルスが職員室で見せたザベリンの画像。そして二つ目は、先ほどベッドで見た記憶の断片、カレン王妃とルン大佐そして若きリュークの面々。


「ザベリンはこの世の者と思えないくらい恐ろしい顔をしていた。王妃は、凄く優しそうな人」


 考えている璃緒は唇を引き締めた。


「私は、ザベリンとカレン王妃の娘……」


 言った後、璃緒の頭の中に光太郎と君子の顔が浮かぶ。


「いえ、もしそうだとしても、私の両親は百瀬家。早く帰らなくちゃ。二人が心配してる、きっと」


 彼女は拳を作り、堅く握りしめた。そして展望台を出ていく。


「転送装置さえあれば帰れるのに。いったい何処よ?」




「アデン、アデン! そこにいたのかい」


 璃緒が振り向くと男が走ってくる。今まで誰とも遭遇しなかった彼女は、緊張して肩を吊り上げた。


「アデン?」


「随分、探したよ。君から言われて来たけど、この艦内は広すぎて」


「え、えーと……?」


 息を切らす男は、リュークと同じような軍服を着ている。全体的にはビビリアン色だが生地の質が違い、また色合いの中に金色が混じっていた。胸に幾つかの刺繍による模様も入っている。戦闘用でない事は、璃緒にも想像出来た。


「アデン、イメチェンでもしたの? 紫色の巻髪もいいけど、そのストレートな茶髪も君に似合ってるよ」


「……チャラい」


 屈託なく話す男はリュークと違って明るい。身なりがきっちりしているだけに、その差が面白いほどギャップを生んでいた。ただ身に付けている腰の銃だけは、只ならぬ違和感を出している。


「私は、アデンじゃないよ」


 男は青い服を指差した。


「それは?」


「アデンの服。多分。双子だから、サイズがピッタリ」


 指を更に顔に向ける。


「その顔は?」


「アデンと同じ。双子だから」


「さ、行くよ」


 彼は璃緒の腕を取って引っ張った。


「ちょっと! だから私はアデンじゃないって!」


「何言ってるんだ。従兄弟の僕が、君を間違えるはずがないじゃないか。幼い頃から知っている」


 勢いよく腕を取られ、廊下を引き摺られる。彼の力は強く直進していった。


「ちょっと、待ってよ! 何するの!」


「何って、約束したじゃないか。一緒に行くって」


 腕を振っても、手は一向に離れない。


「一緒?」


「そうさ、君は幼い頃からその話はしてたけどね。忘れたのかい?」


「忘れるも忘れないも、最初からそんなこと知らないし。だから止まってよ。あなた、一体誰なの?」


 と言った途端、彼の背中にぶつかった。璃緒は鼻を潰して顔を赤くする。男は立ち止まったまま、腕に付けた時計のような物に向かって何かしゃべっていた。


「もう、急に、止まって……」


「誰って、アルメン・ラル・カラトバだよ。君の従兄弟。確かに暫く逢ってなかったけど、この間は連絡くれたじゃないか。本当に忘れたのかい?」


 目をパチクリとして璃緒は呟く。


「カラトバ? 従兄弟?」


「そう。あの星に行くことに決めたからって」


「あの星? 何処よ」


 男は答えず、彼女の腰に手を掛け引き寄せた。慌てて璃緒は肘を伸ばし、カラトバの顔を突っ張って抵抗する。


「シュナイダー、転送装置作動!」


 二人を囲むように、足元に淡いイエローの光円が浮かび上がる。


「ちょ、ちょっと! これって、まさか、転送するの!?」


 璃緒の声を残して、廊下から二人は消えた。


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