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朝起きたら、宇宙征服者の姫になってた!  作者: 七月 夏喜
第3話 双子姫、アデン登場!
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その2


 璃緒はとても柔らかく味わったことない、蕩けるような甘い感触を唇に感じた。


 朝、目を開けると、淡い桃色の愛らしい唇が浮かんでいる。

 状況確認をしようとした璃緒は思わず体を仰け反り、ベッドのフレームに頭をぶつけた。


「朝の目覚めはどうだ?」


 痛みを堪え、頭を振りながら前を見ると自分の顔がある。璃緒が上体を起こすと、目の前の自分もついてくる。ただ少し違うのは、笑っていないはずなのに口角が上がっていることだ。

 半開きの目を何度も擦り、必死で確認しようとした。しかし口が空いたまま静止している。


「そちは寝ぼすけだな。一国の主としては、もう少ししっかりせねばいかんぞ」


 女の言葉を聞き流しつつ、璃緒は指を差した。


「こ、今度は……、誰?」


 璃緒はもはや宇宙人などには驚かない。しかし自分そっくりの顔の登場には、幾分か引き気味だ。


「誰って、ザベリン・ミリディア・ア・アデンだ」


「あ、あで、アデン?……」


 璃緒はオウムのように繰り返した。


「そう、アデンだ。そちの姉だ」


 目の前のアデンは、満面の笑顔を見せる。


「しかし、そちはわらわに似て、愛いのう。まあ双子だからな」


 ひとりごちしながら、アデンは少しはにかんだ。


「姉? 双子?」


 今一つ理解出来ない彼女だが、それでも目前の瓜二つの顔は納得せざるを得ない。璃緒は落ち着こうと深呼吸した。


「そ、そのアデンが、何の用?」


「莫迦者。一向に連絡がないゆえ、こちらからそちに逢いに来たのだ」

 

 アデンは腕を組む。気丈な態度は同じだ。


「愛しい妹が、困っていないかと心配したのだ。このような辺境の地の果てに降り立って、とても苦労しているのではないかと思ってな」


 彼女に悪気はない。心底、心配してるらしい。


「はあぁ?」


 先ほどから指している右手をアデンが掴む。


「リオン、何でも頼るがよい。そちの征服ためなら、存分に加勢をしよう。勝手がわからんのは仕方がない。我々二人とリュークの艦隊がおれば、この地を一掃出来よう」


 璃緒は右手を振って、彼女の手を払った。


「よく分からないけど、そんなものここでは要らないから」


「結構、わがままな妹だな、そちは。これ以上の用意をせよとのことか。ならばメイラムにこの辺境区域の艦隊を集結させるよう指令を命ずるか」


 アデンは眉間に皺寄せつつも、それでも微笑んでいる。


「あのねえ、あなた。アデンとか征服とか艦隊とか、何訳わかんないこと言ってんのよ。ここは、平和な日本よ! 地球よ!」


 璃緒は目の前の分身を突き飛ばした。


「わらわは、そちの姉で……」


「私はこの百瀬家の一人っ子だから、姉妹なんていないの!」


 璃緒はベッドから立ち上がって言い切った。アデンは少し表情を曇らせ、困った顔になる。


「そちもリュークから聞いておろう。我々の生い立ちのことは。このような大事なことを、冗談では言わんぞ」


 アデンはベッドに乗り上がって、璃緒の顔を両手で挟んだ。その頬を凹ませながらも、彼女の顔は真剣だった。


「後数十日で、そちもわらわも、十七の誕生日を迎える。それまでの記憶の中に埋もれていたザベリン家の血族として記憶が目覚めるはず。そちの考え次第では、この星がどうにでもなるのだ。もっと慎重に考えい」


 否定する璃緒の顔が次第に青ざめていった。


「この星の主として、自覚をもつのだリオン」


「やっぱり、本当に征服してしまうの」


「そちに嘘など言ってどうなる。ましてや、わらわたちは双子よ。そちの心境くらい分かっておるつもりだ」


 アデンの声は力強い。だが璃緒には真実への不安と不審、恐れ、怒りが入り混じった感情が沸き起こっていた。


「受け入れないと、いけないことなの」


 璃緒の言葉に反って、アデンは困惑する。


「そちが仮に受け入れなくとも、ザベリンの血の覚醒は止められん」


「自分が自分でなくなるなんて、絶対いや」


 アデンは次の言葉が見つからず、口が少し開いたままだ。


「わらわはずっと、そうなるものだと思ってきた。それが運命であり、ザベリンの血族の証拠であると」


「覚醒なんてしたら、これまでの記憶が無くなるかも知れない。両親や友達、お世話になった人たちのことを忘れてしまうなんて、私には出来ない」


「しかしそれが、ザベリン家の生き方かも知れん」


「みんな忘れるから惑星を征服したり、滅亡させたりできるんだね、多分」


 開いた口を閉じて、アデンは押し黙る。


「アデン、あなたの事何も知らないけど、あなたはそれで本当にいいの?」



 階下で君子が叫ぶ声がした。起床時間は過ぎている。



 未だアデンは、両手で璃緒の頬を押さえていた。顔を歪ませた璃緒が睨む。


「ところで、アデン。あなた、さっき私に何した」


「何か?」


 きょとんとした顔でアデンは璃緒を見つめた。


「ええと、ここに何かした?」


 彼女は人差し指で唇を触れる。


「おお、姉妹の親愛なる挨拶だ」


「こ、ここでは、そんな急に変なことしないでね。勘違いする人いるから」


 顔を引き吊らせながら、念押した。


「何と、勘違いするのだ?」



 二階に向けて大きな音を鳴り響く。ノックも無しにドアが勢いよく開いた。


「璃緒、早く起きなさい。学校に遅れるわよ」


 部屋に入った君子はベッド上の二人を見た。しばらく見比べた後、彼女は頷く。


「分裂でもしたのかしら?」


 璃緒とアデンは似ている。そう、双子だから。


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