その1
月夜奥深い森林に、それとは別の一筋の光が降り立った。
王女専用リムジン艇『フリップ』が着陸している。静かな森の声とは違う機械音が聞こえていた。艇の側面からタラップが降りていて、その側に紅の軍服の男は、深く頭を垂れていた。
「もう少し、お時間が掛かるかと」
男の前に濃紺色のスーツに身を包んだ、縁色の短髪の女が直立している。
「このような銀河の果て、辺境の惑星まで王女が自ら出向いてきたというのに、歓迎の用意すら出来ていないとは何たる不始末」
威圧的な態度でスーツの女は男を見下す。
「メイラム、もうよい」
「しかし、下せませぬ。このような地でも、もう一人の王女を衛護しているはず。このような失態は王が許しませぬ」
メイラムがくどくどと小言を言っている内に、王女がタラップを静かに降りて来た。
紫色のカールヘアーを結い、茶褐色の瞳に四肢が白く、細い。王国正装の白いドレスに身を包み、頭部のティアラが月の光りに煌めいていた。
「ごきげんよう、リューク」
リュークは更に地面に躓く。
「アデン姫もご機嫌麗しく、今宵はこの天空の星ぼしたちも、姫の美しさには叶いません」
アデンは薄く笑った。
「リューク、顔をあげい」
立ち上がった男はアデン姫の方を向く。瞬間、顔を強ばらせた。
「なんと言うことだ。リオン姫だ……。髪色さえ除けば瓜二つ。似ている、あまりにも似すぎている」
リュークは驚愕する。
アデンは彼の凝視する姿に頬を赤く染めた。
「わらわに何か付いておるか?」
「い、いえ。アデン姫、ようこそ地球へ。ご滞在の間、ごゆるりと安息出来るよう努めさせていただきます」
アデンは男から視線を外すと、周囲を見渡す。
「はて、リュークよ、我が妹リオンは何処におるのだ」
彼女は尚も辺りを黙認した。
「申し訳ございません。リオン姫は、ただ今ここにはおられません。現在この地の里親の元でご静養中でございます」
不思議な顔をメイラムはする。
「ご自分の艦で過ごされていないのか」
「あの金属の機関音よりも、このように地上の音たち中のほうがよろしいとのご所望だ」
柔和な顔のリュークは意外にも口元を緩めた。
「まあよい、メイラム。早くリオンの元に案内せい」
身を乗り出すようにアデンは森に分け入ろうとする。
「お待ちください。本日はリオン姫はお休みになっておられます」
「リューク、アデン姫が遠路はるばるこの惑星に来られたことを、どう思っているのか。今逢えないとは、不可解な了見だ」
喰ってかかる短髪のメイラムを横目で見ながら、リュークはアデンに向かった。
「今宵は夜も更けかけており、行動には少々面倒です。またリオン姫も日中公務に出られており、然るべき御休息も必要なことである、と申し上げている次第です」
彼女は少し考え込んで頷く。
「あい、わかった。リュークの言っておることはもっともだ。リオンには明日逢うことにする。今晩はそちの艦でもてなしを受けよう」
「御意。早速、案内いたします」
リュークは深く頭を下げた。
本艦と連絡を取り、男はアデンを転送する。
*****
「リューク、ここではうまくやっているのか」
転送後の空き時間にメイラムは訊ねた。先程まで強張っていた表情が、少し緩む。
「心配には及ばん」
「心配などしていない。ただ……」
ーメイラム殿の転送装置、整いましたー
男の耳元のレシーバーに応答が入った。
「さ、メイラムも準備を」
メイラムの足元を囲うオレンジ色の丸い円が発光する。
「リューク教えて欲しい。何故あの時……」
彼女は何かを求めるように、リュークの横顔を見つめた。メイラムはその気丈な態度からは打って変わって、優しい瞳を潤ませる。だが男は目を合わせることはなかった。
「メイラム、本件と関係のない事は申すな。用意しろ」
メイラムは足元をさながら液晶画面のドットが欠けていくかのように消えていく。
「リューク、私は忘れてなどない。是非、貴様とまた話をしたい……」
彼女の差し出そうとする手を遮るように、リュークの前でその転送装置は静かに役割を果たしていく。
「時間が、あればな」
透過していく顔が消える間際、彼女は少しだけ口元を緩ませた。




