支援者という名の怪物
セレイナはギルドの受付へ、採取した薬草を納品した。
「えっ……この量を、一人で?」
受付嬢が目を見開いた。
依頼の必要量は十束。
しかし、セレイナが持ち込んだ薬草は三十束以上。そのほとんどが高品質で、通常よりも高い報酬がついた。
「採取場所がよかったのでしょうか……?」
「いえ、これは採取の技術も相当なものですよ。失礼ですが、本当に初心者ですか?」
セレイナは曖昧に笑った。
自分でも、まだ何が起きているのか理解できていなかった。
そこへ、昨日助けた冒険者たちがやってきた。
「おう、セレイナ!」
剣士のガレスが手を振る。
「昨日は本当に助かった。おかげで全員無事だった」
彼の隣には、赤茶色の髪をした魔術師ミリアと、盾役のドランがいた。
「ねえ、セレイナ。ひとつ聞いてもいい?」
ミリアが不思議そうに尋ねる。
「昨日、私の魔法がいつもより強くなっていたの。魔力を使い切ったはずなのに、最後の一撃を放てた。あれ、あなたの力なの?」
「おそらく……そうだと思います」
「おそらくって……」
ミリアは苦笑した。
「あなた、自分のスキルを理解していないの?」
「はい。授かったばかりなので」
三人は顔を見合わせた。
そしてガレスが、真剣な表情で告げた。
「セレイナ。俺たちのパーティーに入らないか?」
「私が、ですか?」
「ああ。俺たちは今まで、個人の力を伸ばすことばかり考えていた。でも昨日、気づいたんだ」
ガレスは自分の剣に目を落とした。
「どれだけ強くても、連携が悪ければ勝てない。自分の弱点を理解していなければ、いつか死ぬ。俺たちには、それを補ってくれる仲間が必要だ」
「私に、その役目が務まるでしょうか……」
「務まるかどうかじゃない。俺たちは、あんたと一緒に戦いたいんだ」
セレイナは目を伏せた。
アルヴェリア家では、彼女の力を誰も必要としてくれなかった。
けれど、目の前の三人は違う。
彼女の力を知ろうとし、彼女自身を仲間として迎えようとしてくれている。
「……よろしくお願いします」
セレイナは深々と頭を下げた。
こうして、彼女は初めての仲間を得た。
しかし、彼らはまだ知らなかった。
セレイナの支援が、単なる能力強化ではないことを。
彼女が仲間の能力を解析すればするほど、支援の精度は上昇する。
戦闘経験を積めば、敵の行動を先読みできるようになる。
そして、信頼関係が深まるほど、支援の効果は強くなっていく。
数日後、四人は近隣の村を脅かしていた魔物の討伐依頼を受けた。
依頼の対象は、通常なら金級冒険者が数人がかりで討伐する大型の岩甲獣。
「さすがに、今回は厳しいかもしれないな」
ガレスが険しい顔をする。
セレイナは静かにうなずいた。
「大丈夫です。皆さんの動きを、私が支えます」
戦闘が始まる。
岩甲獣の硬い外殻が剣を弾き、ミリアの魔法も決定打にならない。
しかし、セレイナは慌てなかった。
【敵性存在:岩甲獣】
【外殻防御:極めて高い】
【弱点:右前脚の関節部】
【推奨戦術:連携攻撃による姿勢崩し】
「ガレスさん、正面から三歩下がってください!」
「了解!」
「ドランさん、次の一撃を盾で受け止めてください! 衝撃は左に流します!」
「わかった!」
「ミリアさん、炎ではなく風魔法を! 足元を狙ってください!」
三人が動く。
まるで、最初からすべてを理解していたかのように。
岩甲獣の体勢が崩れた瞬間、ガレスが関節部へ剣を叩き込む。
巨体が膝をつく。
そこへミリアの風刃が集中し、硬い外殻の隙間を切り裂いた。
最後はドランが盾で巨体を押さえ込み、ガレスがとどめを刺した。
戦闘時間、わずか数分。
金級冒険者でも苦戦する魔物を、銀級冒険者三人が圧倒したのだ。
「……あり得ない」
ガレスが呆然とつぶやく。
「俺たち、こんなに強かったか?」
セレイナは小さく笑った。
「皆さんが強いんです。私は、その力を少しだけ引き出しただけですから」
しかし、彼女の視界には別の表示が浮かんでいた。
【戦闘データ蓄積:完了】
【支援効率:上昇】
【対象三名の潜在能力を検出】
【追加支援の解放条件を満たしました】
そして、最後に。
【固有スキル『神域補助』】
【隠匿機能の一部を解除します】
【真の分類:世界法則干渉型・支援系固有スキル】
セレイナは息を止めた。
「世界法則……干渉型?」
文字は、淡々と続いた。
【本スキルは、対象の能力を解析し、最適化する】
【一定条件下において、対象の潜在能力を限界以上に解放する】
【熟練度の上昇により、周辺環境・魔力の流れ・確率的事象への干渉が可能】
【最終到達可能領域:神域】
彼女はしばらく、その文字を見つめていた。
神域。
神々の領域。
人間が決して到達できないとされる場所。
「……私のスキルは、いったい……」
その問いに答える者はいなかった。
ただ、セレイナの胸の奥で、今まで感じたことのない小さな確信が生まれていた。
自分の力は、決して無価値ではない。
誰かを支えることは、誰かより劣っていることではない。
そして、自分にはまだ、知らない可能性が残されている。
セレイナは空を見上げた。
「私……もっと、この力を知りたいです」
その言葉を聞いたガレスが、笑顔でうなずいた。
「なら、俺たちが付き合うさ」
ミリアも、ドランも、同じように笑った。
セレイナは初めて、自分の未来を楽しみに思った。
だが、その頃。
王都のアルヴェリア公爵邸では、一通の報告書が父の机に置かれていた。
『銀級冒険者パーティーが、金級相当の魔物を連続討伐。支援役の少女が戦果に大きく貢献した模様』
報告書には、少女の名前が記されていた。
セレイナ・フォン・アルヴェリア。
父は、その名を見て眉をひそめた。
「……あの役立たずが?」
彼は報告書を閉じた。
「偶然だ。支援系の小娘に何ができる」
その判断が、どれほど大きな過ちだったのか。
彼が知ることになるのは、そう遠くない未来のことだった。




