王都を震わせる無名の支援者
それから一か月。
セレイナたちのパーティーは、驚異的な速度で実績を積み重ねていた。
薬草採取では高品質の素材を安定して確保し、護衛依頼では一度も護衛対象を負傷させず、討伐依頼では格上の魔物を次々と撃破した。
その結果、彼らは銀級から金級への昇格候補として推薦された。
しかし、ギルドが最も注目したのは、ガレスたちの強さではなかった。
「このパーティー、戦闘中の連携が異常に優れている」
「魔力の無駄がほとんどない。負傷者も極端に少ない」
「まるで、敵の行動を事前に知っているみたいだ」
そして、すべての報告書に共通して記されている名前があった。
セレイナ。
無名の支援者。
彼女が参加した依頼では、通常なら全滅しかねない状況でも、必ずと言っていいほど生還者が出た。
しかも、戦闘後には仲間の疲労が軽減し、魔力の回復も早くなっていた。
ギルドマスターは報告書を読み終えると、深く息を吐いた。
「……これは、ただの支援スキルではないな」
彼は王都へ使者を送ることを決めた。
一方、セレイナは仲間たちと食卓を囲んでいた。
「セレイナ、これ食べてみろよ。今日の報酬で買った肉だ」
ガレスが大皿を差し出す。
「ありがとうございます。でも、皆さんの分が少なくなってしまいます」
「いいんだよ。俺たちが無事に帰ってこられるのは、お前のおかげでもあるんだからな」
「そうそう。もっと自分を大切にしなさい」
ミリアが笑う。
セレイナは、胸の奥が温かくなるのを感じた。
かつての屋敷では、食卓に座っていても、誰かの役に立てているかどうかばかりを考えていた。
けれど今は違う。
仲間たちは、彼女が何を成し遂げたかだけではなく、彼女がここにいることを喜んでくれている。
「……私、ここに来られてよかったです」
その言葉に、ガレスは少し照れくさそうに笑った。
「何言ってんだ。これからもっと楽しくなるぞ」
セレイナはうなずいた。
その瞬間、視界に新たな表示が浮かび上がった。
【神域補助:熟練度上昇】
【信頼関係による支援効率の上昇を確認】
【新規機能:共有領域】
【効果:対象者間で一部の能力・感覚・魔力効率を共有する】
彼女は目を見開いた。
共有領域。
これまでの支援は、仲間一人ひとりの能力を補助するものだった。
しかし、これは違う。
ガレスの剣技をミリアが理解し、ミリアの魔力制御をドランが活用できるようになる。
仲間たちの長所を互いに共有させ、弱点を補い合う。
つまり、パーティー全体を一つの生き物のように連携させる能力だった。
「……こんなことまで、できるの?」
セレイナは驚きながらも、笑みを浮かべた。
まだまだ、知らないことばかりだ。
ならば、一つずつ学んでいけばいい。
仲間たちと一緒に。
だが、彼女の知らないところで、別の動きも始まっていた。
王都の王宮。
国王の前に、王国騎士団長がひざまずいていた。
「陛下。北部国境にて、異常な魔物の群れが確認されました」
「異常な魔物?」
「はい。通常の魔物よりも攻撃性が高く、連携行動まで見せております。現地の騎士団だけでは対応が困難です」
国王は険しい顔をした。
「対処できる者は?」
「金級冒険者を中心に討伐隊を編成する予定です。しかし……」
騎士団長は、一枚の報告書を差し出した。
「近頃、各地で驚異的な戦果を上げている支援者がいると聞きました。彼女を討伐隊へ加えるべきかと」
国王は報告書に目を落とした。
そこには、銀髪の少女の名があった。
セレイナ・フォン・アルヴェリア。
「アルヴェリア公爵の娘か……」
国王はしばらく考え込んだ。
やがて、静かに命じた。
「その少女に、正式な協力要請を出せ」
こうして、追放された令嬢のもとへ、王国から初めての使者が向かうことになった。
それは、彼女の運命を大きく変える知らせだった。
そして同時に――。
彼女を追放した家族が、自らの過ちと向き合う日が、少しずつ近づいていることを意味していた。
セレイナの物語は、まだ始まったばかりだった。




