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世界の声が聞こえる

王都を出て二日目。

セレイナは、街道沿いの小さな村へたどり着いた。

「まずは、働き口を探さないと……」

手持ちの金貨は十五枚。

宿代や食費を考えれば、長くはもたない。

彼女は冒険者ギルドを訪れた。

「冒険者登録をお願いします」

受付の女性は、セレイナの上品な服装を見て少し驚いた。

「お嬢さん、冒険者になるのですか? 戦闘経験はありますか?」

「ほとんどありません。でも、支援ならできると思います」

「支援系ですか……。正直に申し上げますと、最初は薬草採取などの簡単な依頼から始めることをおすすめします」

セレイナはうなずいた。

「それで構いません」

最初の依頼は、森で薬草を採取する仕事だった。

翌朝、彼女は籠を背負って森へ向かった。

そして、森に足を踏み入れた瞬間。

――世界が変わった。

【神域補助:自動解析を開始】

【周辺環境の情報を取得】

【薬草反応:北東二十二メートル】

【有毒植物:左方、注意】

【魔物の痕跡:南方三十六メートル】

「え……?」

セレイナは立ち止まった。

目の前に、見たこともない文字が浮かんでいる。

彼女が北東へ進むと、本当に薬草が群生していた。

しかも、根を傷つけずに採取する方法まで、自然と理解できた。

「これが……私のスキル?」

さらに、薬草に触れると別の表示が現れた。

【対象:月光草】

【品質:通常】

【有効成分:魔力回復】

【推奨採取方法:根元より三センチ上を切断】

セレイナは目を丸くした。

まるで、世界そのものが彼女に答えを教えてくれているようだった。

彼女は夢中で薬草を採取した。

わずか二時間で、依頼の必要量を大幅に超える薬草を集めることができた。

「こんな力があったなんて……」

だが、そのとき。

森の奥から、悲鳴が響いた。

「誰か! 助けてくれ!」

セレイナは籠を置き、声のする方へ駆け出した。

そこには、三人の冒険者がいた。

彼らの前に立ちはだかっているのは、体長三メートルを超える黒い牙狼。

本来ならば銀級冒険者でも苦戦する魔物だ。

一人は腕を負傷し、もう一人は魔力を使い果たしている。最後の一人も、息を切らして剣を構えていた。

「くそっ……! このままじゃ全滅だ!」

セレイナは震える手を握りしめた。

自分に攻撃魔法はない。

剣で戦うこともできない。

それでも、見捨てることはできなかった。

「私に、できることは……!」

その瞬間、彼女の視界に新たな文字が浮かんだ。

【対象三名を認識】

【戦闘状況を解析】

【敵性存在:黒牙狼】

【勝利条件:敵の突進を回避し、首元の魔力核を破壊】

【推奨支援:身体能力補助・魔力効率改善・戦術共有】

セレイナは息をのんだ。

敵の弱点だけではない。

三人の冒険者の疲労度、身体の動き、魔力の残量までもが理解できる。

そして、彼らが本来持っている力を、どうすれば最大限に引き出せるかも。

「皆さん! 聞いてください!」

彼女は声を張り上げた。

「剣士の方、次の突進を右にかわしてください! 盾を持っている方は、地面に盾を固定して左側を塞いで!」

「な、何を言って――」

「お願いします! 今しかありません!」

切迫した声に、剣士は賭けに出た。

黒牙狼が地面を蹴る。

「右です!」

剣士が飛び退いた。

牙狼の突進が空を切る。

その巨体がわずかに傾いた瞬間、盾役が地面を踏みしめた。

「今です! 魔法を首元へ!」

魔術師が残された魔力を解き放つ。

炎が牙狼の首元を直撃した。

同時に、剣士の刃が魔力核を貫いた。

黒牙狼は短い咆哮を上げ、その場に崩れ落ちた。

静寂。

「……勝った?」

冒険者たちは、信じられないという顔で互いを見つめた。

「おい、身体が……」

「疲労が軽くなっている?」

「魔力の消費まで減っていたぞ!」

セレイナは、自分の手を見つめた。

彼女は攻撃していない。

魔法も放っていない。

ただ、彼らが本来持っていた力を引き出し、最適な行動へ導いただけだった。

それなのに、格上の魔物を倒せた。

そして、再び視界に文字が浮かぶ。

【戦闘支援を確認】

【神域補助の熟練度が上昇しました】

【新たな解析機能を解放】

【能力最適化】

【連携補正】

【未来予測:初期段階】

「未来……予測?」

セレイナがつぶやくと、冒険者の一人が近づいてきた。

「嬢ちゃん。あんた、いったい何者だ?」

「私は……セレイナです。ただの冒険者です」

剣士は苦笑した。

「ただの冒険者が、あんな指示を出せるわけないだろ」

彼は真剣な顔で頭を下げた。

「助けてくれてありがとう。あんたがいなければ、俺たちは死んでいた」

その言葉に、セレイナの胸が熱くなった。

ありがとう。

たった一言。

けれど、追放されてから初めて、自分の力を認めてもらえた気がした。

「……どういたしまして」

彼女は微笑んだ。

その笑顔は、王都を去ったときよりも、ずっと自然なものだった。

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