21話
雲に覆われた夜の街は、月明かりさえも遮られた深い闇に包まれていました。
平民が住むこのエリアは街灯も少なく、カズヤたちが手にするランプの灯りだけが、揺れながら道筋を照らしています。そんな中、取り巻きの一人が足元の「何か」を思い切り蹴飛ばしました。
「あいたっ! ああ、痛い痛い……!」
驚くほど汚れた顔をした、ひどく痩せ細った浮浪者がそこに転がっていました。
「旦那方、金を……金を恵んでください。きっと骨が折れちまった。ねえ、お願いだから……」
浮浪者は泣き言を漏らしながら、縋り付くようにカズヤの足へ手を伸ばしました。
「触るな!」
カズヤは激しく足を振りほどき、怒鳴りつけました。
「汚れちまうだろうボケカスが! 最高級の生地で仕立てたオーダーメイドの服だ! お前みたいなカスの命よりも高いんだぞ!」
「ひえぇーーー!」
浮浪者は悲鳴を上げながら、よたよたとした足取りで闇の中へ逃げていきました。
「まったく、最悪の場所だな、ここは……」
「平民の住むエリアですから、しょうがないですよ」
苛立つカズヤと、それに怯える仲間たちは再び歩き始めます。すると、どこからか甲高い鳥の鳴き声が響きました。
「梟か……?」
「鳥には詳しくないから分かんないけど、そうかも……」
彼らは一瞬だけ疑問を抱きましたが、足を止めることなく進み続けました。そしてケント先生の家まで、あと十数メートルという場所までやって来ます。
「よし、お前ら行ってこい。今度はしくじるなよ」
カズヤの命令に、取り巻きたちは重苦しく頷きながら歩き出しました。そのうちの一人は、大きな荷物を抱えています。
彼らはケントの家の裏手に回り込むと、周囲を警戒しながら荷物を開き、手探りで着火剤とマッチを探し当てました。
そして、いよいよ火をつけようとした――その時でした。
――ザアアアアアアッ!!
頭上から、まるで冬の滝に打たれたかのような、大量の冷たい水が降り注ぎました。
それは三人の呼吸を奪うほどの激しさで、あまりの冷たさと衝撃に、彼らは声も出せず、立ち尽くしたまま水を浴び続けました。
およそ三十秒ほどでしょうか。ようやく水が止まった瞬間、頭上からアイナの凛とした声が響き渡りました。
「待っていたぞ、お前ら! 全員刑務所に送ってやるから覚悟しろ!」
雄叫びのようなその声を合図に、周囲が一斉に眩い光に包まれました。
そこにいたのは、松明やかがり火を手にした、この街の住人たちでした。六人ほどの男たちは角材を手に取り、怒りの形相で叫びます。
「聞いたぞ貴族の悪ガキめ! 本当に俺たちの家に火をかけに来やがったな、この野郎!」
「ただじゃ済ませないぞ! 平民だからって馬鹿にしやがって、目にもの見せてやるぜ!」
密集地ゆえの「連帯感」と、普段から蓄積されていた貴族への鬱憤が、凄まじい怒声となって取り巻きたちに突き刺さりました。
武器を手にした住人たちの迫力に、三人はただ恐れおののくしかありませんでした。
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