番外コラボ話 余所者、霊斗 ①
余所者、霊斗……
異世界旅行と称した異様な奇行。しかし、この奇行は想刃を再び"あの頃"に引き戻す!
あの"頃"とは? そして、霊斗と想刃はどうなるのか?
ある日の事、想刃は物思いに耽っていた。きっと今頃は、自分の元居た世界は変わらず退屈で嫌な世界のままで、有名芸能人は自身の思ってもない事を堂々とひけらかし、テレビに映る一般人もそれに合わせるように嘘を吐く。
そして政治家は変える変えると言いながら、結局余り変わりもせず、ふてぶてしく居座るのみ。そんな世界に居たら虫酸が走って反吐が出る、ならば幻想郷に居た方がどれだけ負担が軽いのか。
言うまでもない、至極当然、ココが良いに決まっている。目の前の事実を直視する精神力が無い奴のよくやる行動、『現実逃避』と幻想郷は似ている。
「俗世現世は地獄なり……俺もそのクソの住人だったってのが腹立たしい限りだな」
思考を働かせるだけで苛立ちが湧き上がり、憎しみが溢れ出す。しかし思ったほど溢れはしなかった、いつもは敵に向けている為、それ以外には大した憎しみも苛立ちも湧き上がりはしない模様。
「喜んで良いのか悲しんで良いのか、俺はきっとストレスが溜まりに溜まっているに違い無い。でなければ、こうも苛々したり憎しみが溢れる事も──」
溢れる事も無いだろう、そう口にしようとした時、言葉は口を噤んだ。直感が語り掛ける、向こう側から奴が来たと……。奴とは誰だ? 知りもしない奴か? だとしても想刃は何所か記憶の片隅の"ある者"の気配を想起した。
寝転がっていた想刃は勢いをつけて両手で地面を突き、後方宙返りを行って立ち上がる。そして想刃はこちらに向かって歩いてくる"その気配"に全身全霊の殺気を飛ばした。
「あれ〜? 迷ったかなぁ……確かここであって──んッ!?」
想刃の思う"ある者"は想刃の飛ばした殺気を感じ取り、素早く身構える素振りを見せる。想刃の放つ殺気は妖怪の『ソレ』を上回る為、向けられた相手は体が動かなくなるか、何かヤバい奴に睨まれていると思わせる。
この地は疎らに生えた木々と茂みに囲まれた場所。時間は黄昏時を過ぎ、日は既に没しているが、まだ西の空は僅かに明るい──故にでは無いが、暗峠が視界を悪くし始めてる。
想刃には"ある者"の正体がわかっていたが、"ある者"には想刃を視認出来ない為に正体がわかっていない。そして"ある者"とは、以前、幻想郷では無い幻想郷で想刃と相対し、想刃に屈辱を与えた者──
「まさか、あんたが俺の居る幻想郷に来るなんてな。博麗 霊斗、何の真似だ?」
「その声、聞き覚えがある……まさか、霧裂 想刃か!?」
漸く"ある者"の正体が判明、彼は博麗 霊斗。今からホンの一昨日くらいか、突如として想刃は見覚えの無い地に、気が付いたら立っていたのだ。
其処が何処かはわからなかったが、幻想郷と似たような感覚はあった。では其処は幻想郷か? 否、違う、『幻実郷』とか言っていた、幻想と現実の狭間だから。
其処で彼と想刃は闘った、だが相手の方が格上であり尚且つ、経験の差があった為、ほぼ一瞬で決着が着いた。想刃は負けた、あろう事か、気絶までして起き上がれずに終わった。
「あの時振りだな、想刃」
「それを覚えてるなら話が早い、今俺はあんたを半殺しにしたい気分だ。あの"犬"ほどじゃないが、殺したい気分だ」
ここで会ったが百年目が如く、想刃は佇むが、その姿は霊斗が以前見た狂犬のような暴れ様とは違い、無表情で、酷く穏やかにも見えるほどの格があった。それからなのだが、突然二人の居る世界が昼間のように白く染まったような気がした。
「ははっ、やっぱそうなるのね……。良いよ、相手になるが、殺されるのは勘弁だな。何せ俺はもう父親だ、家内残して死ねないのでね」
しかし霊斗のそんな事情など想刃には御構い無し、無視するように『幻実郷』で使えなかった右眼の虹彩を緑色に変色させた。右眼が緑色に変わった瞬間、右眼の視界が緑色に一変し、全ての景色に白い"点と線"が走る。
無論、それは右眼に映る霊斗も例外では無く、この"点と線"は物や人に存在する"壊れ易い"部分を"点と線"に変えて認識と言う形を持って弱点を表面化させる。その"点と線"は斬撃を以って沿わせる事で如何なるモノをも真っ二つに断てるのだ。
「ならバラバラになってもらうぞ」
「それ結局変わらないじゃないか! 下手すれば、いやしなくても殺すより酷い事になるってそれ!」
しかし、霊斗の言葉など聞く耳持たずに『だからなんだ、つべこべ言わず構えろ』と想刃は霊斗に向ける言葉を少し荒くした。霊斗は溜め息一つを大きく吐いて、表情を真剣そのものに変えた。
「じゃあやるよ、先手はそっちで良い」
「──そうか。なら、遠慮無く……」
遠慮無く──その言葉が開幕であったのだが、不意なのか、霊斗には想刃が動いた事が認知出来なかった。それは以前霊斗が見た速さでは無く、確実に、これこそが本領域と言わんばかりの速度だった。
「ッ──!?」
突然自身の目の前に"黒い風"が駆けて来た、この速さ、幻実郷と違う!? 霊斗は先ず驚いた、次に冷静になって思考を巡らせ、次の行動を予測した。
「二度も同じように躱せるか?」
想刃は以前霊斗に放った、天崩『蛇翔葬天牙』を繰り出しに掛かる。霊斗の予測通り、なら、以前同様にあしらってやるだけ──しかし、そう一筋縄でいける程、想刃自体、甘くは無い。
『あんた、ここが何処か知ってるか?』
この問い掛けの後の瞬間、躱そうとした霊斗の顔面を下から上へなぞるように突風が吹き込む。直後、霊斗は空高く打ち上げられ、空中で吐血、激しい脳震盪を起こしながら地面まで真っ逆さまに落下、そして頭から激突した。
「ゴファッ!!?」
霊斗の頭の中はこうだ、何だ? 今何が起こった? 確かに想刃の動きは捉えて、動きも予測出来てた筈だ、なのに何故俺は……。簡単な話だ、霊斗の予測を想刃が上回ったに過ぎない。
霊斗の顔面に突風がなぞったのは、想刃の蹴りが既に顎を直撃していたからだ。空中で吐血したのも、脳震盪を起こしたのもそれが原因であり、何よりも要因。
「もう一度訊く、あんたここが何処か知ってるか?」
「……ここは、幻想郷だろ? でなければ、何だって言うんだ……?」
「それだよ。ここは幻想郷だ、それも"俺の居る"な。正直驚いていたよ、『幻実郷』だのふざけた名前の場所に居た時は。本来の感覚が出せなかった。
だが、今は違う、ここは俺の居る幻想郷だ、言わばホームグラウンドだ。あんたは敵地に居るんだよ、つまり俺は本来の感覚で闘えるって事だ」
そう、つまりは慣れた空気、足場、気分であるからこそ、想刃は本領を発揮出来る。幾ら接近に用いる縮地が彼自身の限界で距離が少なかろうと、その"一瞬"だけあれば他の者の追随は許さない。
加えて縮地とは神速以上は確実に出す歩法だ、ただの神速なら真似はされるし追いつかれもする。今の想刃の感覚は本領域へと至った、これから繰り出される挙動は全て神速を超越し得ているだろう。
「さぁ立て、先ずは素手だ。あんたをバラバラにするにはそれからだ」
「とんでもないプライドの持ち主だったか……要らん事で怒らせてしまうとはね」
若干の目眩と立ちくらみでフラつきながらも霊斗は立ち上がり、格闘の構えを執る。すると想刃は何かを思い出したかのように霊斗と同じ構えを執った。
「ん? 何の真似だ想刃……?」
「あんたの真似だ、あんたが如何なる奴か、確かめてやる」
言葉を言い終えた直後、想刃は霊斗との"間の距離"と言う過程をすっ飛ばすかのように一瞬で詰めてきた。それから接近した速度の勢いを左足一本で踏ん張り、体を左に捻って自身に回転を発生させる。
発生した回転を活かして右脚を横に伸ばし、回し蹴りで霊斗の眼前の空を切る。しかし、切れたのは空気だけで無く、縮地から派生した回し蹴りは霊斗の頬諸共切り削いで行った。
思わず霊斗は仰け反り、一歩退いた瞬間から想刃の次の攻撃、回し蹴りで振り切った右脚を畳んでから狙い澄ました槍の如き一閃で右足の蹴りを霊斗に突き出す。身長191cmの体格が成す蹴りの一閃は霊斗の顔に届く以上の長さを誇る。
だが霊斗は咄嗟に想刃の槍の如き一閃の蹴りを両腕で防御する。しかし両腕の防御が無意味に思えるほど重くのし掛かるような一撃が、想刃本人の体重以上の重量が霊斗の両腕に降りかかる。
「ぐゥッ!!」
堪らず両腕を解く霊斗は、それにより更に後退する。その隙を見て想刃は足を離し、霊斗から数歩距離を取ると、縮地では無い唯の走りで霊斗に接近し、足がギリギリ届くところで背中を正面にして右足で踵を振り上げる。
霊斗の顔面スレスレで足を止めると、霊斗の顔を上げて回避しようとしていた焦りの表情を見て、目を見開いて口元を釣り上げる。瞬間、右足を下ろし、代わりに左足を上げると、右足は地面を蹴り、再び上へと昇る。
上へと昇る右足は素早い動きで霊斗の顎を捉え、見事に打ち上げた。鈍い音で蹴り上げられた霊斗は先ほどくらった、天崩『蛇翔葬天牙』と似た脳震盪を起こしたが、今度は直ぐに意識を取り戻し、仰け反った顔と体を無理矢理引き戻す。
霊斗が顔を引き戻した直後に見た光景は、右足の振り上げの勢いで一回転した想刃で、背面のまま着地直後に左足で地面を蹴って霊斗に向かって突進する。ただの突進だった為に目で簡単に追え、左足を霊斗の顔面の位置まで振り上げる想刃を捉えた。
動きを完全に見切った霊斗は左足を数m飛び退いて避けた。だが、想刃はその霊斗の行動に嗤い、振り上げていた左足を即座に引き戻し、地面に左足の底を接しさせてから思い切り地面を蹴る。
蹴った後の速さは先ほどの縮地同様に視認出来る領域では無く、またその接近に際して想刃は右脚の膝を霊斗に突き出していた。霊斗は理解した、さっきの振り上げた左足は相手に敢えて後退させる為に執った行動で、自分は想刃にまんまと踊らされていたのだと。
そしてその行動は、後に繰り出す一撃に掛けた意味なのだと……。しかし、今更理解ったところで既に想刃の膝蹴りは霊斗の胸の中心、壇中を穿とうとしていた。反射的に霊斗は腕を胸の前で交差させ、想刃の膝蹴りを回避。
「くッ!? まずいッ!!!」
しかし先ほども味わった蹴りの重さ、想刃の体重以上の重量と加速による"加重"が掛かり、霊斗の腕は軋み出した。これ以上"深く入れば"、確実に霊斗の両の腕は折れる。
「肉体改造発動! 倍数100!」
辛うじて霊斗は能力を発動して自身の肉体を改造レベルで100倍に強化し、想刃の膝蹴りを跳ね除けた。ところが、跳ね除けた筈の想刃は数m後ろに跳ね返された勢いを利用して着地直後、地面を蹴る弾みを更に強く、更に速くして飛び出す。
跳躍では無く、最早『飛翔』の域にある想刃の縮地は最高速である超神速に達し、それから正面を向いてた体を右に捻って反転、後ろ向きになる。そこから右足を目一杯引き込み、バネを解放する要領で右足の後ろ蹴りを霊斗に放った。
気が付けば自身が想刃を跳ね返してから1秒も経っていない事に霊斗は気が付く。つまり防御姿勢は依然崩れないままで、そこへ想刃が追い打ちのように超重量と超神速の加重による後ろ蹴りを放った。
これにより、霊斗の腕は軋み、折角の肉体改造も意味を余り成す事無く、小枝が折れたような音を立てて両の腕の骨に亀裂が入った。想刃は最初からこれを狙っていたのだ、相手の腕を使えなくする為に。
何とか肉体改造を更に強化して蹴りを跳ね除けるが、霊斗はやはり亀裂が入った両腕の骨が気になる様子だ。一方想刃は一方的に攻め込めた上に目論見を果たした事で鋭い目つきとは裏腹に口が笑っていた。
「さぁ、第2ラウンドと行こうぜ、博麗 霊斗」
続く
二話構成の今回の番外話、パインアリスさん……遅れて申し訳無い、ついでにまだ続く事と霊斗が傷付く事を許して……!




