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第6話 崩壊からの脱出と舞鶴突破戦

 通路へ入ったところで、背後から低い音が響いた。

 創は足を止めた。石板が沈んだときに聞いた音に似ていたが、今度は床だけでなく、壁に添えた左手にも振動が伝わってくる。

 エマが照明を後ろへ向けた。

 広間の入口で、天井から砂が落ちていた。細い筋になって降り続け、床へ置き忘れた機材の上に溜まっていく。

「止まるな。階段まで出るぞ」

 白石に促され、創は再び足を動かした。

 数歩進んだところで、背後の音が大きくなった。

 何かが折れ、続いて重いものが落ちた。創の足元まで衝撃が届き、壁のケーブルが跳ねる。振り返ると、通路の向こうを白い埃が塞ぎ始めていた。

「照明を前へ!」

 白石の声に、エマが光を戻した。

 創は走ろうとした。しかし、膝がうまく伸びず、前へ出した足が床をこすった。エマに肩を支えられ、辛うじて倒れずに済む。

「ごめん……」

「謝らなくていい。足元を見て」

 創は頷き、身体を起こした。

 力を入れているつもりなのに、脚が応えてくれなかった。数歩進むだけで息が切れ、背中の鞄が肩へ食い込む。その中のノートは小さな一冊のはずなのに、今は機材でも背負っているように重かった。

 レオが戻ってきて、創の鞄を肩から外した。

「これは俺が持つっス」

「でも……」

「落とすよりいいっスよ。旦那は、自分の身体だけ運んでください」

 言いながら、レオは鞄を自分の背へ回した。

 背後で、また石の落ちる音がした。

 創は右手を見た。皮膚の下の光は消えていたが、熱はかすかに残っている。

「俺が、床を……」

 白石が振り向いた。

「それで、壊れたんですか」

「分からん。石板が動いた影響かもしれないし、地震で傷んでいた場所が崩れたのかもしれん」

 白石は創の左側へ回った。

「今ここで確かめることはできない。まず外へ出るぞ」

 通路の先に階段が見えた。

 創は最初の段へ足を載せた。膝に力を込め、手すりを左手で引き寄せるようにして身体を上げる。

 たった一段で、太腿が震えた。

 見上げると、階段は踊り場で向きを変え、その上へ続いている。下りてきたときには、どれほど深くまで行くのかと考えていた。今は、この高さを自分の脚で戻らなければならないことしか考えられなかった。

 レオが二つ先の段へ上がり、照明を持ち上げた。

「博士、俺、先に行くっス」

「一人でか」

「車を入口の近くまで回すっス。旦那を森の中、歩かせるより早い」

 白石は上を見てから頷いた。

「地上に何がいるか分からん。入口から出る前に確かめろ」

「分かってるっス。何かいたら、無理に突っ込まずに回り込む」

 レオは創へ顔を向けた。

「先に車を暖めとくっスよ。ちゃんと上がってきてください」

 創は頷こうとしたが、息を整えるだけで精いっぱいだった。

 レオは返事を待たずに階段を上がった。足場を照らし、踊り場で一度振り返ると、その先へ姿を消した。

 創は次の段へ足を運んだ。

     *

 上るほど、息を吐く音が大きくなった。

 自分の呼吸なのに、すぐ耳元で別の誰かが喘いでいるように聞こえた。喉が渇き、舌が口の中へ貼りつく。水を飲んだばかりなのに、もう一度ボトルへ手を伸ばしたかった。

 エマは一段上から創の左腕を支え、白石がすぐ後ろについていた。

「次の踊り場で止まりましょう」

 エマが言った。

「……止まっていいのか」

「転ぶよりいい」

 創は返事をする代わりに、次の段へ足を載せた。

 踊り場へ着くと、壁に背を預けた。膝を曲げて座りたかったが、一度座れば立てなくなる気がした。

 エマがボトルを差し出す。

「一口だけ」

 水を飲む間、白石は下へ照明を向けていた。通路から上がってきた埃が、縦穴の中を薄く漂っている。下のほうでは、ときどき石が転がるような音がしていた。

「階段は、まだ大丈夫そうだ」

 白石が言った。

「急いで転ぶな。一段ずつ上がれ」

 創は口元を袖で拭った。

 大学の旧棟なら、三階まで続けて上がれた。実習で一日立ち続けても、こんなふうに脚が震えることはなかった。

 さっきまで石を溶かすほどの熱があった身体に、今は階段を上るだけの力も残っていない。

「……割に合わないな」

 呟くと、エマが顔を向けた。

「何が?」

「さっきの、あれ」

 創は右手を少し持ち上げた。

「一回で、これだ」

 エマは手を見てから、創の顔へ視線を戻した。

「その話ができるなら、まだ上れる」

「励ましてるのか、それ」

「ええ。次は、あそこまで」

 彼女は次の踊り場を照らした。

 創はそこだけを見た。地上までの距離を考えるのをやめ、光の当たった壁の染みを目印にした。

 その場所まで着いたら、次を決めればいい。

 左手を手すりへ戻したとき、下から強い衝撃が来た。

 階段が足元で震え、創は壁へ肩をぶつけた。エマが腕をつかみ、白石が腰を支える。中央の昇降機の枠で何かが外れ、暗がりを落ちていった。

 長い金属音が、何度も壁へ反響した。

 創は手すりを握り締めたまま、動けなかった。

「こっちを見て」

 エマが言った。

「下は見なくていい。私の足があるところへ来て」

 創は彼女の靴へ視線を移した。

 濡れた泥が底に残っている。その靴が一段上がり、場所を空けた。

 創も、そこへ足を載せた。

 次の段。

 その次の段。

 足を動かすたび、頭の中にどうでもいいことが浮かんだ。

 母に頼まれていた牛乳。

 机に残してきた顕微鏡。

 明日までに書くつもりだった観察記録。

 戻りたかった。何も起きなかったことにできなくても、せめて自宅の椅子に座り、母が台所で動く音を聞きたかった。

 踊り場を幾つ回ったのか、数えられなくなったころ、頬に冷たい空気が触れた。

 創は顔を上げた。

 雨の音が聞こえた。

     *

 入口の通路へ出ると、エマが足を速めた。

 半開きの扉の向こうから、雨が吹き込んでいる。外は暗く、照明に照らされた地面だけが濡れて光っていた。

 創は最後の段差を越えた。

 泥に靴が沈み、身体が傾く。エマに支えられながら数歩進み、扉から離れたところで膝をついた。

 冷たい雨が首筋へ落ちた。

 創は顔を上げたまま、何度も息を吸った。地下の埃とは違う、濡れた土と草の匂いがした。遠くで波の砕ける音が聞こえる。

 戻ってきた。

 そう思った瞬間、エマの手に力が入った。

「創。動かないで」

 声が変わっていた。

 創は彼女を見た。エマは森のほうを向いたまま、ゆっくり片手を上げている。

 白石も動きを止めていた。

 創の左胸に、小さな赤い点があった。

 最初は石板の光が目に残っているのかと思った。しかし、顔を動かしても消えない。濡れた服の上に止まり、呼吸に合わせてわずかに揺れていた。

 木々の間で、何かが動いた。

 黒い装備を身につけた男が、銃を構えて立っていた。その横にも一人。さらに斜面の上で、照明を覆っていた手が外れ、白い光が創たちを照らした。

「手を見える位置に」

 森から声がした。

 創は膝をついたまま、両手をゆっくり上げた。

 右腕が重かった。肘を伸ばせずにいると、銃口がわずかに動いた。

「右手も上げろ」

「負傷している」

 白石が言った。

「立っているのも難しい状態だ。刺激するな」

 男たちは答えなかった。

 正面の二人の間から、別の男が進み出た。顔の下半分は覆われていたが、目元は見えた。ほかの隊員と違い、銃を創へ向けず、胸の前で保持している。

 男は創を見てから、手元の表示を確かめた。

「神代創」

 呼ばれた名前が、雨音の中ではっきり聞こえた。

「本人を確認。右上肢に熱反応あり。自力歩行は困難」

 誰かへ報告していた。

 創は男を見上げた。

「……大学に来たのも、あんたたちか」

「こちらの指示に従えば、治療を受けられる」

 男は質問に答えなかった。

「白石博士。彼から離れてください」

 白石は動かなかった。

「どこへ連れていくつもりだ」

「当社の施設です」

「アダムか」

 男は否定しなかった。

 創の背中に冷たいものが流れた。大学の窓へ向いていたレンズと、今、自分に向けられている銃口が、ようやく一つにつながった。

 地上監視の警告は、この部隊を示していたのだ。

 創は森へ目を向けかけ、思いとどまった。

 レオがどこにいるのか、分からなかった。

 車まで行けたのか。途中で捕まったのか。

 名前を呼んではいけない気がした。

「本人の同意もなしに連行するのか」

 白石の声が低くなった。

「見てのとおり、緊急の保護が必要です」

 男は創の右手へ視線を移した。

「その症状に対応できる施設は、限られています」

「……俺の症状を、知ってるんですか」

 創が尋ねると、男は初めて、報告ではなく彼へ話しかけた。

「君の経過は把握している」

「経過?」

「幼少期の治療から、その後の検査までだ」

 創は口を開きかけ、何も言えなくなった。

 地下で読んだ記録が浮かんだ。

 父の事故のあとにも続いていた検査結果。自分の知らないところで集められていた身体の情報。

 あの本の中だけにあったのではない。

「……いつから」

 男は創を見た。

「いつから、見てたんですか」

「十年前からだ」

 雨が創の頬を流れた。

 大学の医療システムにも、遺伝子検査の報告書にも、同じ会社の名前があった。見慣れていたから、気にも留めなかった。

 検査を受ければ結果が返ってくる。

 体調を崩せば通知が届く。

 それだけだと思っていた。

「じゃあ、今日も……」

「大学で君を確保する予定だった。博士たちが連れ出さなければ、ここまで来る必要はなかった」

 男が白石へ目を向ける。

 創はその言葉を聞きながら、自分の身体について、自分より多くを知っている人間が何人いるのだろうと思った。

「父のことも、知ってるんですね」

 男は答えなかった。

「父が何をしたのかも。俺が、どうしてこうなるのかも」

「ここで説明することではない」

「俺の身体の話だろ」

 声を強めた途端、咳が出た。

 身体が前へ折れ、エマが支えようとする。すぐに銃口が彼女へ動き、エマは手を止めた。

 創は息を整えながら、男を睨んだ。

「……母は」

 男の目がわずかに動いた。

「母のことも、調べてるんですか」

「質問は移送後に受ける」

「答えろよ」

 右手に力が入った。

 しかし、何も起こらなかった。

 石を溶かした熱は戻らず、指先が震えるだけだった。創はその手を開いた。今ここで何かが起きても、エマと白石がすぐそばにいる。

 男が片手を上げた。

 背後にいた隊員の一人が、銃を下げて前へ出る。その手には、幅の広い拘束具があった。

「神代創。これから君を保護する」

 創は男の顔と、木々の間に並ぶ銃口を見比べた。

「これが、保護なんですか」

「右手を前へ出せ」

 男は同じ調子で言った。

 エマが創のそばから離れずにいた。白石も、上げた手を下ろさないまま隊員との間へ身体を入れた。

 創は右手を見た。

 地下では、自分の意思に逆らって動いた。

 今度は、知らない男の命令で差し出さなければならない。

 拳を握る力さえ残っていないことが、ひどく悔しかった。

 隊員の靴が、目の前の泥を踏んだ。

 拘束具の金具が、小さく鳴った。

 隊員が屈み、創の右手へ拘束具を近づけた。

 創は腕を引こうとしたが、肘をつかまれた。黒い手袋の指が強く食い込み、熱の残った皮膚に痛みが走る。

「待て。腕の状態を確認してからにしろ」

 白石が一歩踏み出した。

 横にいた隊員が銃を上げ、白石の胸元へ向ける。エマも動きかけたが、指揮官が短く制した。

「その場にいろ」

 創は拘束具を見た。

 金具の内側に幅広い帯があり、手首だけでなく前腕まで固定する形になっていた。自分の腕を押さえるために用意してきたのだと分かり、息が詰まった。

 そのとき、森の奥で重い音がした。

 雨音に紛れ、初めははっきりしなかった。地面を伝わってくる不規則な振動が、膝の下でかすかに感じられる。

 創は顔を上げなかった。

 聞き覚えがあった。

 大学を出てから、座席の下でずっと鳴っていた音だった。

「北側、車両が来る」

 斜面の上の隊員が言った。

 指揮官が顔を向けた。入口の脇には、藪に半ば埋もれた古い搬入路が延びている。その先で枝が揺れ、白い光が二つ現れた。

「停車させろ」

 隊員の一人が道へ向き直る。

 直後、その手前へ小さな筒が転がってきた。

 泥の上で一度跳ね、白い煙を噴き出す。続けてもう一本が落ち、入口と隊員たちの間へ煙が広がった。海からの風に押され、低い煙の帯が斜面を横切っていく。

「煙幕!」

 創の腕をつかんでいた隊員が顔を上げた。

 エマがその手首を払い、創の左腕を引いた。

「下がって!」

 創は膝で泥を滑るようにして、入口のコンクリート壁へ寄せられた。白石が前へ出て、二人をかばうように身体を低くする。

 煙の向こうでエンジンが唸った。

 濡れた枝を押し分け、灰色のワゴン車が現れた。左右の側面に枝が当たり、屋根から迷彩の覆いの切れ端がはためいている。

 アルゴー号だった。

 前照灯が隊員たちを照らした。

「止まれ!」

 指揮官の声に、車は応じなかった。

 入口へ向かって進み、隊員たちの数メートル手前で大きく向きを変える。前輪が泥を押しのけ、後部が斜めに振れた。

 創は反射的に顔を伏せた。

 タイヤが石を弾き、身体のすぐそばを泥が飛んだ。車体が入口と隊員の間へ割り込み、後ろの角を低い擁壁へぶつけて止まった。

 金属の潰れる音がした。

「乗ってください!」

 車内からレオの声が響いた。

「入口側のドア! 早く!」

 エマが引き戸の取っ手をつかみ、勢いよく開けた。

 中には、さっきまで座っていた後部座席があった。床の工具箱は隅へ寄せられ、創の鞄がベルトで座席へ固定されている。

 創はそこへ足を上げようとした。

 膝が伸びなかった。

「……無理だ」

 漏れた声に、エマが振り向いた。

「持ち上げる。左手、私の肩へ」

 白石が反対側から腰を支えた。

 創は言われたとおりに腕を回した。二人が息を合わせ、身体を車内へ押し上げる。足先が段差に引っかかり、創は左肘を床へついて身体を引いた。

 背後で銃声がした。

 車体を硬いものが叩き、薄い内張りが跳ねた。

「窓から離れろ!」

 白石が叫んだ。

 エマが創の頭を押し下げ、自分も座席の陰へ身を伏せる。白石が最後に乗り込もうとしたとき、外から誰かがドアへ手をかけた。

 黒い手袋が縁をつかみ、銃の先端が車内へ向いた。

 創は床に落ちていた工具袋を左手で引き寄せた。

 重かったが、持ち上げる必要はなかった。銃口へ押しつけるように滑らせると、袋の中の工具がぶつかり、銃が外へずれた。

 その隙に白石が隊員の腕を押し返した。

「出せ!」

 車が急に動いた。

 ドアをつかんでいた手が離れる。白石が引き戸を引き寄せ、エマが内側から手を添えた。二人がかりで閉めると、すぐ外でまた銃声が響いた。

 創の肩の横で、金属を叩く音がした。

 目の前の内張りが小さく盛り上がった。

「側面の補強があるところへ伏せてください! 窓は駄目っス!」

 レオの声が飛んだ。

 創は床へ身体を寄せた。走行中の振動が頬まで伝わり、工具の油と濡れた服の匂いがした。

 エンジンが唸る。

 しかし、車は思ったほど進まなかった。

 後輪が空転し、車体が横へずれる。レオがアクセルを緩め、ハンドルを細かく切った。

「頼む……ここで掘るなよ」

 彼の呟きが聞こえた。

 銃声が続いた。

 後方で何かが割れ、細かな破片が床へ散った。エマが創の頭を腕で覆い、白石が座席へ手をかけて身体を支える。

 タイヤが何かを噛んだ。

 車体が大きく跳ね、今度は前へ進んだ。創の身体が後ろへ滑り、エマが上着をつかんで止めた。

「抜けたっス!」

 レオが叫ぶ。

 車は搬入路を上り、煙の向こうへ飛び込んだ。側面を枝が擦り、屋根で何かが折れる音がした。

 創は顔を上げかけたが、エマに肩を押さえられた。

「まだ」

 彼女の声が、すぐそばで聞こえた。

 創は頷き、再び身体を伏せた。

     *

 舗装道路へ出たとき、タイヤの音が変わった。

 泥を掘る振動が消え、車体は一定の速さで進み始めた。銃声は聞こえなくなったが、レオは速度を落とさず、カーブのたびに短くブレーキを踏んだ。

「全員、乗ってるっスね」

「ああ」

 白石が答えた。

「怪我は?」

「私は大丈夫。創は……」

 エマが身体を起こし、創の顔を覗き込んだ。

 創は左手を少し上げた。

「生きてる」

「よかったっス。旦那の荷物だけ持って帰ったら、怒られるところだったっス」

 創は笑おうとしたが、咳になった。

 エマに支えられ、座席の低い位置へ背中を預ける。白石が周囲の破片を払い、シートベルトを引き出した。

 創は窓へ目を向けた。

 後部の小窓に穴が開き、その周囲に白いひびが広がっていた。冷たい雨が細かく吹き込み、床を濡らしている。

 ほんの少し場所が違っていれば、自分に当たっていたのかもしれない。

 その考えが浮かぶと、遅れて手が震え始めた。

「……レオ」

「何っスか」

「助かった」

 レオは前を向いたまま、片手をわずかに上げた。

「まだ礼は早いっスよ」

 声の調子が変わった。

 エマが助手席へ移り、前方を見た。

 道路の先の上空に、赤い光が二つあった。木々の陰へ隠れ、次のカーブを曲がると、また見える。

「追ってきてる」

「分かってるっス」

 レオはミラーを確かめた。

「大学じゃ車を絞れてなかった。でも、今は見られた。もう、通信を切ってるだけじゃ逃げられないっスね」

 創は座席の縁を握った。

 森の中で、指揮官が言ったことを思い出した。

 十年前から。

 幼少期の治療も、そのあとの検査も把握していると言った。父が残した記録と、あの男の言葉が、頭の中で重なった。

「母は……」

 白石が顔を向けた。

「あいつら、母のことも知ってる」

「こちらから、見守っている者へ知らせる」

「すぐに、お願いします」

 白石は頷き、端末を取り出した。

 創はその手元から目を離せなかった。母は今ごろ、家にいるのだろうか。自分から届いた、帰りが遅くなるという連絡を読んで、夕食を片づけているのかもしれない。

 そんな場所へ、黒い装備の男たちが入っていく光景を想像し、創は唇を噛んだ。

「創」

 エマが前から声をかけた。

「今は、博士に任せて」

 創は返事をせずに頷いた。

 任せるしかなかった。

 石を溶かすことはできたのに、自分の足で逃げることさえできなかった。母を確かめに戻ることも、今の自分にはできない。

 右手を見下ろした。

 熱は、わずかに残っていた。

 森の中では何も起こらなかったくせに、今になって、手のひらの奥にその存在を感じる。それが腹立たしく、同時に、消えていないことへ安堵している自分にも気づいた。

 この先、また銃を向けられたら。

 次は、この手で何かできるのではないか。

 そこまで考え、創は手を膝の上へ伏せた。

「旦那、具合悪くなったら言ってください」

 レオがミラー越しに声をかけた。

「道、少し変えるっス。揺れるんで」

「今より?」

「たぶん」

 創は目を閉じた。

「……先に言ってくれて、ありがとう」

「どういたしましてっス」

 エマが前方を指した。

「次の分岐。左は木がかぶってる」

「見えたっス」

 レオがハンドルを切った。

 アルゴー号は海沿いの道を離れ、山側の細い道路へ入った。枝葉が頭上を覆い、フロントガラスに映っていた赤い光が見えなくなる。

 それでも、追跡が終わったわけではなかった。

 レオは灯りの届く先を見据え、曲がり角ごとにミラーを確かめていた。

     *

施設の入口では、煙が雨に薄まり始めていた。

 指揮官は、搬入路へ残った深いタイヤの跡を見た。途中に落ちた車体の破片を、隊員の一人が拾い上げる。

「車両の型式は」

「旧式の商用車です。外装と足回りに改造があります。後部窓を破損させましたが、走行への影響は確認できていません」

「追跡を継続。道路の出口を押さえろ」

 指揮官は、入口へ視線を戻した。

 扉の奥から、埃を含んだ空気が流れ出していた。地下で何かが落ちる音がして、隊員が一歩離れる。

「内部へ入りますか」

「先に無人機を送れ。足場が確かめられるまで、人員は入れるな」

 指示を出したあと、指揮官は手元の表示を開いた。

 施設の出口で撮影された創の映像があった。泥に膝をつき、片腕を上げきれずにいる青年。その右腕だけが、熱画像の中で明るく浮いている。

 表示が切り替わった。

 今回の観測結果が、過去の記録と照合されていく。数秒後、画面の下部に判定が出た。

 《覚醒シーケンス:第一段階 完了》

 指揮官はその文字を確認し、通信を開いた。

「対象の変化を確認。回収は未完了。白石らとともに、車両で移動中」

 通信の向こうから短い指示が返った。

 男は一度だけ答え、山へ向かう道路を見た。

 雨雲の下で、待機していたドローンが高度を下げた。二機は海沿いへ、残りは山側へ分かれ、赤い識別灯を木々の向こうへ消していった。


山道へ入ってからも、レオは速度を緩めなかった。

 アルゴー号の前照灯が、濡れた枝と路肩の岩を次々に照らし出していく。後部の割れた窓からは冷たい雨が吹き込み、エマが押し当てたシートを風が膨らませていた。

「次の分岐、右」

 エマが地図を見ながら言った。

「その先で、また大きな道に出る」

「分かってるっス。けど、いつまでも山の中を回ってるわけにもいかないっスよ」

 レオはミラーを確かめた。

 頭上の枝が途切れたとき、赤い光が見えた。すぐに木々の陰へ隠れたが、車が次のカーブを曲がると、少し離れた空にまた現れた。

「ついてきてるのか」

 創が尋ねると、エマは窓へ顔を近づけずに外を見た。

「たぶん。見失っても、この先の道で待たれるかもしれない」

 創は座席の縁を握った。

 右手は熱を残しているだけで、力が入らなかった。自分のために全員が逃げているのに、できることが見つからない。

 白石が端末から顔を上げた。

「レオ。舞鶴へ向かえ」

 ミラーの中で、レオの目が動いた。

「……旧第四ドックっスか」

「ああ。アルゴーⅡを出す」

「整備はしてあるっス。でも、こんな夜に出す予定じゃなかったっスよ」

「道路を追われ続けるよりはいい」

 レオはしばらく前を見つめ、やがて小さく息を吐いた。

「了解っス。エマさん、海沿いへ戻る道を見てください。広い交差点は、できるだけ避けたいっス」

 創は二人の顔を見比べた。

「アルゴーⅡって、もう一台あるのか?」

「あるっスよ」

 レオは分岐の手前で速度を落とした。

「ただ、そっちは道路を走れないっス」

     *

 舞鶴の港へたどり着くまでには、一時間以上かかった。

 大きな道を避けて走るうちに、雨は少し弱まっていた。窓の向こうに倉庫の灯りが増え、暗い海の上には、停泊する船の明かりが点々と浮かんでいる。

 創は途中から、ほとんど会話をしていなかった。

 水を少しずつ飲み、レオに渡された補給食を口にした。それでも身体の重さは抜けず、車が曲がるたびに右腕の奥が痛んだ。

 白石は、母を見守っている知り合いと短く連絡を取ったあと、端末の通信を切った。

「今のところ、お母さんに変わった様子はないそうだ」

 創は頷いた。

 それを聞けたことだけが、この道中で唯一ほっとできた瞬間だった。

 アルゴー号は明るい埠頭から外れ、古い倉庫の間へ入った。路面の穴を避けながら進むと、海に面した大きな建物が見えてきた。

 外壁の塗装は剥がれ、入口の上に『第四』という文字が残っている。

 レオは照明を落とし、建物の脇へ車を寄せた。

「ここっス」

 白石が先に降り、入口の鍵を開けた。エマも続き、二人で重い引き戸を動かす。車が通れる幅ができると、レオはゆっくり中へ進んだ。

 前照灯の光が、広い屋内を横切った。

 最初に見えたのは、船のような丸い機首だった。

 その左右から短く厚い翼が伸び、上部には二つの大きなエンジンが載っている。胴体の側面には貨物用の扉があり、窓は小さかった。

 機体は建物の奥にある水路へ浮かんでいた。水路はそのまま湾へ続いているらしく、海側の出口を大きな鋼鉄製の扉が塞いでいる。

 創は窓越しに見上げた。

「……これ、飛行機?」

「エクラノプラン。水面のすぐ上を飛ぶ機体っス」

 レオが答えた。

「翼と水面の間にできる空気の流れを使うんで、普通の飛行機みたいに高く上がる必要がない。こいつがアルゴーⅡっスよ」

「これも、自分で直したのか」

「一人じゃないっスけどね。動くところまでは、俺が面倒見てるっス」

 レオは車を機体の後ろへ回した。

 岸と貨物室の間には、車を載せるための渡り板が架かっていた。白石が先に機内へ入り、エマが外から誘導する。タイヤが金属板へ乗ると、創の足元で低い音が響いた。

 車が、機体の中へ入っていく。

 貨物室には固定用の金具が並び、壁際には座席と機材棚があった。アルゴー号を所定の位置へ停めると、レオはエンジンを切って飛び降りた。

「車輪止めとベルト、お願いします。俺は起動するっス」

「創は?」

 エマが尋ねた。

「車から降ろして、前の座席へ。発進すると揺れる」

 白石に支えられ、創は車外へ出た。

 足元の床がわずかに揺れていた。陸上の建物にいるように見えても、この機体は水に浮いている。そのことが、靴の裏から伝わってきた。

 創が座席へ腰を下ろすころ、前方で機器が動き始めた。

 送風の音に続き、エンジンの回転音が少しずつ高くなる。機内の灯りが点き、貨物室の床にも振動が広がった。

 エマが固定ベルトを引き締め、白石が渡り板を外しに戻った。

 創は座席の縁をつかんだ。

 あと少しで出られる。

 そう思ったとき、操縦席からレオの声がした。

「博士、海側の扉、開けてもらえますか」

 白石が壁の操作盤へ向かった。

 スイッチを入れると、屋内の奥でモーターが唸った。水路を塞いでいた鋼鉄の扉が、左右へゆっくり開き始める。

 黒い海が、隙間から見えた。

 ところが、扉は途中で止まった。

 モーターの音だけが続き、金属を擦るような響きがした。

 白石が一度スイッチを戻し、再び押した。扉は少し揺れただけで、動かなかった。

「レオ、右側が動かん」

「……この前は開いたんスけど」

 レオが操縦席から戻ってきた。

 彼は扉の横へ走り、下部を照らした。レールに落ちた破片を蹴り出し、手動の開放レバーを引く。それでも扉は動かなかった。

 エマが入口のほうを振り返った。

 屋根の隙間を、白い光が横切った。

「レオ」

「分かってるっス」

 彼は力を込め、もう一度レバーを引いた。

 建物の外で、回転翼の音が聞こえた。

     *

 入口の高い窓に、白い光が差し込んだ。

 ゆっくり動きながら、壁と床を照らしている。続いて拡声器を通した声が響いた。

「機関を停止しろ。建物の出口を封鎖する」

 エマが創の前へ戻ってきた。

「座っていて。ここからは出ないで」

 創は頷いたが、目は海側の扉へ向いていた。

 片側は開いている。もう片側が残っているせいで、機体の幅が通らない。

 白石とレオが扉の脇で作業していた。

「何が引っかかってるんだ」

「下の固定金具っス。レバーとつながってる部分が曲がって、抜けなくなってる」

 レオは工具を当てた。

「切れれば開くんスけど……」

 金属音が響いた。

 その直後、入口の外で短い銃声がした。

 高い窓のガラスが砕け、破片が床へ落ちる。エマが身体を伏せ、白石とレオも扉の陰へ入った。

「次は機体を狙うぞ」

 拡声器の声が、エンジン音の上から聞こえた。

 創は右手を見た。

 地下では、望んでもいないのに熱が生まれた。

 石を溶かしたのも、身体の中に溜まったものを外へ逃がそうとした結果だった。出そうと思って出せたわけではない。あのときと同じことができる保証など、どこにもなかった。

 けれど、目の前には金属の留め具がある。

 それが切れれば、扉が開く。

 自分が試すべきことが、初めてはっきりした形で見えていた。

 創は座席から立ち上がった。

「創」

 エマが腕をつかんだ。

「何をするつもり?」

「レオに、確かめたいことがある」

「ここで聞いて」

 創は海側へ声をかけた。

「その金具だけ、切ればいいのか?」

 レオが顔を上げた。

 創の右手を見て、表情が変わる。

「旦那、それは——」

「どこを切れば開く?」

 白石が近づいてきた。

「今のお前には無理だ」

「分かりません。まだ、試してない」

「地下でどうなったか、忘れたのか」

「忘れてないです」

 創は答えた。

 怖かった。

 腕の内側を走った痛みも、自分の声が勝手に言葉を作ったことも、身体から力が抜けていった感覚も、忘れられるはずがなかった。

「でも、ここで待ってたら、あいつらが来る」

 白石は入口を見た。

 外の光が窓の破れたところを横切り、機体の側面を照らしている。

 創はエマへ顔を向けた。

「俺がやる。今度は、自分で」

 エマの手に力が入った。

 引き止めたいのだと分かった。それでも彼女は創の顔を見てから、レオへ声をかけた。

「切る場所を、はっきり教えて」

 レオは一度だけ目を閉じ、すぐに工具を置いた。

「こっちっス。足元、気をつけて」

     *

 創はエマに支えられ、扉の脇へ降りた。

 冷たい風が開いた隙間から吹き込んでいた。すぐ下には黒い水があり、機体の灯りを小さく揺らしている。

 レオが照明を向けた。

 扉の下部から突き出した固定金具が、床側の受けに食い込んでいた。厚い鋼板が曲がり、引き抜けなくなっている。

「ここっス。扉全部じゃなくて、この部分が外れれば動く」

 創は頷いた。

 手を近づける前から、右腕が震えていた。

 寒さだけではなかった。これから何をしようとしているのか、身体が先に覚えているようだった。

 創は息を吸った。

 地下で口にした音を思い出す。

 最初の音は喉の奥から出た。次に舌が動き、短く息が抜けた。

「……イグニ」

 声は小さかった。

 何も起こらなかった。

 レオは黙って照明を向け、エマも急かさずに待っていた。自分だけがここで立ち止まっているように感じ、創は唇を噛みかけた。

 そのとき、指の付け根に熱が生まれた。

 ごく弱い熱だった。だが、さっきまで腕全体に残っていた鈍い熱とは違う。

 創は右手を開いた。

 皮膚の下で、細い赤い線が浮いた。

 できる。

 そう思った瞬間、怖さが増した。

 何も起きなければ、諦められたかもしれない。けれど今は、続ければ何が始まるかを知ったうえで、次の言葉を選ばなければならなかった。

 入口のほうで、またガラスが落ちた。

 創は息を吐き、続きを口にした。

「……フェル・ウル」

 右手の赤い線が明るくなった。

 痛みが手首へ走り、創は顔をしかめた。指を閉じかけて、途中で止める。地下では、開いたときに熱が外へ逃げた。

 創は手のひらを金具へ向けた。

「近づかないで」

 エマが半歩下がった。

 創は左手を壁について身体を支え、右手を鋼板へ押し当てた。

 最初は冷たかった。

 次の瞬間、掌の奥から熱が流れ出した。金属の表面に残っていた水が弾け、塗装が焦げる匂いがした。

 創は歯を食いしばった。

 拳を振るう力などなかった。ただ、手を離さずに押しつける。

 鋼板の表面が赤くなり、指の下がわずかに沈んだ。手首から肘へ痛みが広がる一方で、触れている場所は少しずつ形を変えていった。

「もう少しっス……そのまま」

 レオの声が聞こえた。

 創の膝が震えた。左手で支えきれなくなり、肩が壁へ当たる。

 離したかった。

 それでも金具は、まだつながっていた。

「……切れろ」

 創は息を絞り出した。

 掌を少し下へ動かすと、柔らかくなった金属が押し分けられた。赤い滴が落ち、床の濡れた部分で鋭い音を立てた。

「離して!」

 レオが叫んだ。

 創は反射的に手を引いた。

 同時にレオが長い工具を金具へ差し込み、体重をかけた。熱で薄くなった部分が曲がり、重い音とともに裂けた。

 扉がわずかに動いた。

「開くっス! 博士!」

 白石が操作盤へ走った。

 モーターが唸り、止まっていた扉がゆっくり引かれていく。隙間が広がり、湾の黒い水面が機体の前へ開けた。

 創はそれを見届けようとした。

 しかし、視界が急に狭くなった。

 壁を押していた左手から力が抜け、身体が傾く。エマが脇へ腕を差し込み、レオも反対側を支えた。

「旦那、戻るっス」

「……開いた?」

「開いた。だから、もう終わりっス」

 創は頷いたつもりだった。

 右腕の熱は、まだ止まっていなかった。

     *

 機内へ戻ると、白石とエマが創を床へ横たえた。

 レオは操縦席へ駆け上がり、計器を確かめた。係留索が外され、渡り板が引き込まれる。後部の扉が閉じた直後、建物の入口から白い光が差し込んだ。

「止まれ!」

 声は、エンジンの音にかき消された。

 機体が前へ動き始めた。

 創は床に敷かれた毛布の上で、頭を少し上げた。貨物室の壁が揺れ、固定されたアルゴー号のタイヤが軋む。

 乾いた音が、側面で続けて響いた。

 エマが創の頭をかばい、白石も身を低くした。

「そのまま伏せていてください!」

 操縦席からレオの声がした。

 機体は開いた扉を抜け、屋外へ出た。

 雨が窓を打ち、海の揺れが床へ伝わってきた。レオはすぐには加速せず、岸壁と停泊物を避けながら船首を湾の外へ向けた。

 エマが小窓から後ろを確かめた。

「二機、来てる!」

「見えてるっス」

 エンジン音が高くなった。

 機体が波へ乗り上げ、落ちる。床が背中を打ち、創は息を詰めた。白石が肩を支え、エマが腰のベルトを締める。

 もう一度、大きく跳ねた。

 窓一面を水が覆い、外が見えなくなった。

 創は左手で毛布をつかんだ。自分たちは本当に海へ出たのだと、今になって分かった。

 機体の加速は続いていた。

 波を打つ間隔が短くなり、振動が細かく変わる。耳を塞ぎたくなるほどの音の中で、レオが何かを確かめながらレバーを動かしていた。

 やがて、床を叩いていた衝撃が途切れた。

 浮いた。

 創は顔を横へ向けた。

 小さな窓の向こうで、海面が下を流れていた。遠くは見えない。ただ、灯りに照らされた波の頭が、機体の下を次々と過ぎていく。

「……上がったっス」

 レオの声がした。

 叫び声ではなかった。計器を確かめるような、低く慎重な声だった。

「このまま湾を出る。まだ動かないでください」

 エマが息を吐いた。

 白石も一度だけ目を閉じたが、すぐに創へ向き直った。

「創。聞こえるか」

 創は口を開いた。

 喉が乾き、声が出なかった。

 右腕が痛かった。地下で熱を放ったときよりも、痛む場所がはっきりしていた。手首から肘へ筋を引き裂かれるような感覚が走り、指を動かそうとすると、さらに強くなった。

「……水」

 ようやく声が出た。

 エマがボトルを取り、創の顔を覗き込んだ。

「少しずつね。飲み込める?」

 創は頷いた。

 唇へ水が触れた。欲しくてたまらなかったが、一度に飲むとむせることは覚えていた。少量を口に含み、ゆっくり飲み込む。

 白石が創の右袖を切り開いた。

 赤い筋が前腕に浮かび、その周囲が腫れ始めていた。さっきまで金属を押し分けていた手は、今は指を伸ばすだけでも震えている。

「無茶をしたな」

 白石の声がした。

 創は目を閉じた。

 分かっていた、と言う力もなかった。

「でも……開いた」

「ああ。開いた」

 白石はそう答え、鞄を引き寄せた。

「今度はこちらの番だ。腕を動かすな」

 エマが創の左手を握った。

 創はその手へ弱く指をかけた。

 怖かった。

 自分で言葉を選び、自分で熱を呼び戻した。その結果、腕は動かなくなり、身体はまた水と休息を求めて震えている。

 それでも、あの扉は開いた。

 エマも、白石も、レオも、機内にいる。

 創はそのことだけを確かめるように、目を開いた。

 操縦席の向こうは暗く、海の上に道は見えなかった。計器の明かりを頼りに、レオが機体を進めている。

 舞鶴の灯りは、もう窓から見えなくなっていた。

 アルゴーⅡは波のすぐ上を飛び、夜の日本海を北へ向かっていた。

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