第14話 覚醒の代償、砂漠の道標
轟音が、少しずつ遠ざかっていった。
ドォォォ……という低い響きに、ゴゴゴゴゴ……という地鳴りが重なる。まるで神殿そのものが、長い眠りから無理やり叩き起こされ、呻き声を上げているようだった。
「……まずい」
白石が顔を上げる。
天井から、細かなものがぱらぱらと降ってきていた。
最初は砂に見えた。
だが違う。石だ。
何千年、あるいは何万年ものあいだ凍結していた岩盤が、水蒸気と熱による急激な温度変化で膨張し、内部から崩れ始めている。
「全員、アルゴー号へ!」
白石の声が響いた。
レオが創の身体を抱え上げる。
「創、聞こえるか!」
「……」
返事はない。
創の身体からは完全に力が抜けていた。呼吸は残っているものの浅く、右腕だけが異常なほど熱を帯び、全身からは大量の汗が噴き出している。
レオが歯を食いしばった。
「ったく……最後まで世話が焼ける奴だな!」
創を後部座席へ押し込み、続いてエマも車内へ飛び込む。
「レオ、早く!」
「分かってる!」
レオが運転席へ滑り込み、エンジンを始動させた。
アルゴー号が唸りを上げて動き出す。
その直後だった。
ズガァァァンッ!!
天井から巨大な岩塊が落下した。
「うわあああっ!」
レオが反射的にハンドルを切る。
岩塊はアルゴー号のすぐ横へ叩きつけられ、その衝撃だけで車体が大きく跳ね上がった。
落ちてきた岩は、まるで家一軒ほどもある巨大さだった。
しかも、それで終わりではない。
さらに奥から、ゴゴゴゴゴゴゴ……という地鳴りが押し寄せてくる。
「崩れてる……!」
エマが叫んだ。
神殿を支えていた一本の黒い石柱が、ゆっくりと傾き始める。
何千年もの沈黙を破るように巨柱が倒れ、ズドォォォォン!! という轟音とともに床を激しく揺らした。
その衝撃で、周囲の氷壁が一斉に砕ける。
すると、氷壁のあった場所から猛烈な風が吹き上がった。
「なんだ、この風……!」
レオがハンドルを握り直す。
前方では白い霧が渦を巻きながら上昇していた。
大量の氷が一気に気化したことで発生した水蒸気が、地下空間の圧力差によって上方へ押し上げられているのだ。
それは一本の巨大な柱となり、まるで地底から空へ向かって伸びる白い竜巻のように見えた。
「レオ!」
「見えてる!」
アルゴー号は、その上昇気流へ向かって斜面を登り始めた。
クローラーが空転し、エンジンの回転数が一気に跳ね上がる。
「うおおおおおっ!」
レオがアクセルを踏み込んだ。
エンジンが悲鳴を上げ、冷却系の警告ランプが次々と点灯する。
それでも止まるわけにはいかなかった。
背後からは神殿の崩壊が迫り、前方には数百メートルにも及ぶ急斜面が続いている。
アルゴー号は、氷と岩を噛み砕きながら、その斜面を這うように登っていった。
「もっと回せ!」
レオが叫ぶ。
「焼けるぞ!」
白石が怒鳴った。
「焼ける前に外へ出る!」
さらにエンジン音が高くなる。
クローラーが氷と岩を削り、車体が激しく左右へ揺れた。天井からは岩が降り注ぎ、前方からは猛烈な上昇気流が吹きつけてくる。
何度も車体が横転しかける。
それでも、レオはハンドルを離さなかった。
「死ぬのは――」
歯を食いしばる。
「地上に出てからにしろぉぉぉっ!」
アルゴー号が白い竜巻の中へ突っ込んだ。
次の瞬間、視界が真っ白になった。
「うわっ!」
レオの身体がシートから浮き上がる。
クローラーが空転し、車体そのものがふわりと持ち上がった。
強烈な上昇気流が、アルゴー号を斜面から押し上げた。
車体が宙へ飛ぶ。
数メートル。
いや、十メートル近い。
そして落下した。
激突の衝撃で車体が大きく跳ねる。
それでもクローラーは回り続けていた。
そのとき、暗闇の先に白銀の光が見えた。
「出口だ!」
エマが叫ぶ。
レオは残された力のすべてをアクセルへ叩き込んだ。
アルゴー号が加速する。
そして――。
地底から雪原へ飛び出した。
*
外は、嘘のように静かだった。
雪が降っている。
風が吹いている。
その向こうには、どこまでも白い大地が広がっていた。
レオはハンドルに突っ伏した。
「……生きてる?」
誰も答えない。
「俺たち……生きてるよな?」
「……たぶん」
白石が答えた。
「たぶんって何だよ!」
そんな二人のやり取りを遠くに聞きながら、創はゆっくりと目を開けた。
*
最初に意識へ入ってきたのは、音だった。
雪が落ちる音。
サラ……サラ……と、外の雪が車体や窓へ触れている。
創は目を開けた。
「……?」
見慣れたアルゴー号の天井がある。
隣にはエマがいて、白石は何かを話し、レオはエンジンの状態を確認している。
いつもの光景のはずだった。
「……うるさい」
創が呟いた。
エマが振り向く。
「創?」
「うるさい……」
レオが驚いた顔をした。
「え? 俺、何も言ってないぞ」
「違う……」
創は両手で耳を塞いだ。
だが、それでも聞こえる。
エマの心臓。
ドクン。ドクン。ドクン。
レオの心臓は、少し速い。
白石の心臓は、それよりもゆっくりと一定のリズムを刻んでいる。
さらに、その奥からザーッという微かな音まで聞こえてきた。
血液が血管を流れている音だった。
「……何だ、これ」
創は息を呑んだ。
異常が起きているのは、耳だけではなかった。
視界にも、これまでとは明らかに違うものが入り込んでいる。
エマの髪の一本一本。
衣服を構成する細かな繊維。
皮膚の微細な凹凸。
その下にある血管の走行まで、妙にはっきりと認識できる。
「……エマ」
「なに?」
「動かないで」
「え?」
エマの動きが止まる。
創は彼女の顔をじっと見つめた。
頬から首、鎖骨へ。
皮膚の下を走る細い血管や、その奥にある拍動まで分かるような気がした。
まるで身体が透明になったかのようだった。
「……見える」
「何が?」
「血が……」
エマの表情が変わった。
創は周囲へ目を向ける。
空気中を漂う微細な埃まで、一粒ずつはっきりと見えた。
窓の外では、落ちてくる雪の結晶の形まで認識できる。窓ガラスについた微細な傷や、シートの縫い目、金属表面に生じたわずかな酸化まで、望んでもいないのに次々と視界へ飛び込んでくる。
「……多すぎる」
創の呼吸が速くなった。
「情報が……多すぎる……!」
人間の脳は、視界や聴覚から入ってくるすべての刺激を、そのまま意識しているわけではない。
視界には無数の情報が存在し、音も同じだった。
空気の振動。
心臓の鼓動。
衣服が擦れる音。
エンジンの振動。
風。
遠くに降り積もる雪の音。
脳は本来、それらの情報を選別し、必要なものだけを意識へ通している。
いわば、極めて優秀なノイズキャンセリング装置だ。
だが今の創の中では、そのフィルターがうまく働いていなかった。
「……視床を中心とした感覚処理のフィルターが、うまく働いていない」
白石が慎重に言った。
「さっきの力によって脳の処理速度が異常に上がった。その結果、今まで無意識下で捨てていた情報まで、全部拾ってしまっているんだ」
「……全部?」
「ああ」
創の顔が青ざめる。
「じゃあ……これからずっと?」
「分からん」
白石は正直に答えた。
「だが、脳がこの速度に適応すれば、ある程度は制御できる可能性がある」
「可能性……」
創は乾いた笑いを漏らした。
「俺の脳が……この化け物みたいな速度に慣れるってこと?」
誰も答えなかった。
その沈黙が、何よりも怖かった。
創は自分の手を見る。
指も、皮膚も、その下を走る血管も、すべて確かに自分の身体のはずなのに、どこか他人のものを見ているように感じられる。
「俺……」
声が震えた。
「もう、人間じゃなくなってきてるんじゃないか?」
エマは何も言わなかった。
ただ、創の手を取った。
「……エマ?」
ぎゅっと、強く握る。
「冷たくないでしょう?」
「……え?」
「あなたの手」
エマは微笑んだ。
「ちゃんと温かいわ」
創は何も言えなかった。
「血も流れてる」
エマは創の手を両手で包み込む。
「ちゃんと心臓が動いてる。ちゃんと息をしてる」
創の指が微かに震えた。
「だから――」
エマがまっすぐ創を見る。
「今ここにいるあなたは、ちゃんと創よ」
その間にも、周囲の音は絶えず押し寄せてきていた。
血液の流れる音。
雪の音。
エンジンの振動。
風の音。
そして、自分自身の心臓。
ドクン。ドクン。ドクン。
それでも、その膨大な情報の中に、一つだけ迷わず分かるものがあった。
エマの手の温度だった。
創は、その温度を確かめるように、ゆっくりと握り返した。
数時間後。
アルゴー号の簡易医療スペースでは、白石が創の状態を確認していた。モニターに表示された数値を一通り見終えると、小さく息を吐く。
「血圧はまだ高い。脱水もかなり残っているし、脳への負荷も無視できん」
「死ぬ?」
レオが尋ねる。
「今すぐではない」
「それ、安心していいのか?」
「医学ではよくある表現だ」
「怖えよ!」
創はそのやり取りを聞いて、ほんの少しだけ苦笑した。
ついさっきまで、自分が人間ではなくなっていくような恐怖に襲われていた。それでも、こうしてレオと白石のいつもの会話を聞いていると、少しだけ元の自分に戻れたような気がした。
そんな創の様子を確かめたあと、白石は傍らに置いてあった黒い革張りのケースを引き寄せた。
「創」
「……?」
「もう一度、これを見てみるぞ」
ケースが開かれる。
中に収められていたものを見て、創の表情がわずかに強張った。
ゲノム・フィールドノート。
神代宗助が残した、あの黒いノートだった。
初めて見るものではない。
京都で手にしたときから、創たちは何度もそのページを開いてきた。
そこには宗助による遺伝子研究の記録だけでなく、丹後の石板についての情報や、シベリアへ至るための断片的な座標、そして「氷の閉ざす北の果てへ向かえ」という不可解な言葉が残されていた。
その情報を一つずつ拾い集めたからこそ、創たちはここまで来ることができた。
バタガイカへ向かったのも、偶然ではない。
このノートが示した道だった。
ただし、すべてを読むことができたわけではなかった。
ノートの後半には、京都で初めて開いたときから、どうしてもアクセスできない区画が残されていた。数十ページ分が一つの塊のように閉ざされ、縁を覆う薄い金属製のフレームには、小さなバイオセンサーが埋め込まれている。
無理に開こうとしても動かなかった。
創の血を使っても、第一の能力を発現したあとで試しても、反応はなかった。
「これ……まだ開かなかったところですよね」
「ああ」
白石が頷く。
「京都でも、その後も何度か試した。だが、この区画だけは一度も反応しなかった」
創は閉ざされたページを見つめた。
「じゃあ、なんで今?」
「お前が変わったからだ」
「……俺が?」
白石は創の右手に取り付けたセンサーへ視線を落とした。
「第二の能力を発現した。身体だけではない。さっき確認した限りでは、遺伝子発現のパターンにも第一の能力を得たときとは違う変化が出ている」
創の表情が硬くなる。
「それで……開くかもしれない?」
「宗助が何を条件に設定していたのかは分からん。だが、試す価値はある」
創はしばらくノートを見つめた。
京都で初めてこれを開いたときも、自分の血が鍵になった。
その事実だけでも十分に気味が悪かった。
だが、もし今度は「第二の能力を得た自分」でなければ開けないのだとすれば、意味はまるで違ってくる。
父は単に息子本人を認証していたのではない。
息子が、どこまで変化したかを確認していることになる。
創は右手を持ち上げた。
まだ残っている傷口から、赤い血がわずかに滲んでいる。
「……やります」
指先をセンサーへ近づける。
一滴の血が落ちた。
ピッ。
小さな電子音が響いた。
創も、エマも、白石も、そのまま動かなかった。
最初は何も起こらない。
「やっぱり――」
レオが言いかけた、そのときだった。
センサーの表示が変わった。
緑だった光が赤へ、さらに青へ移り、そこから見たことのない複雑な色彩へと変化していく。
「何だ、これ……」
創が呟く。
白石がすぐに端末を覗き込んだ。
そして、表情を変えた。
「……やはりだ」
「先生?」
「認証情報が更新されている」
白石の指が画面を走る。
「京都で記録したお前のデータと違う。第二の能力を発現したことで、新しい発現パターンが追加されている」
エマがノートを見る。
「つまり……このノートは、それを待っていた?」
「その可能性が高い」
創は黙ったまま、青紫色に変化していくセンサーを見つめていた。
第一の力を得た自分では開かなかった。
第二の力へ到達した今、初めて反応している。
もしこれが宗助の意図した仕組みなら、父は創が能力を順番に発現していくことまで予測していたことになる。
カチリ。
小さな金属音がした。
これまで固く閉ざされていたフレームが外れた。
誰も言葉を発しなかった。
創はしばらくそのページを見つめていたが、やがてゆっくりと指をかけた。
開く。
これまで一度も見ることのできなかったページが、初めて姿を現した。
そこには、父の見慣れた筆跡があった。
だが、京都で読んだ記録とは違う。
まるで、この瞬間まで読むことを許されていなかった文章だった。
ページの一番上には、短い一文が記されている。
『第二段階到達を確認した者へ』
創の指が止まった。
「……やっぱり」
声が掠れる。
「親父は知ってたんだ」
エマが創を見る。
「何を?」
「俺がシベリアへ来ることも、その石板に触れることも……そこで次の力を手に入れることも」
創はページから目を離さなかった。
「だから、この先を読めないようにしてた」
白石も否定しなかった。
創はページをめくる。
そこには、いくつもの石板の図や遺伝子配列、古代文字についての記録がびっしりと書き込まれていた。
すでに知っている丹後とシベリアの記録もある。
しかし、その先に、これまで見たことのない場所が追加されていた。
一枚の写真。
赤い岩壁。
巨大な峡谷。
切り立った崖。
そして、砂漠の岩そのものを削って造られた都市。
「……ここは?」
エマが横から覗き込む。
「ヨルダンだ」
白石が答えた。
「ペトラ遺跡」
創はしばらく、その写真を黙って見つめていた。
つい数時間前まで、自分たちを取り囲んでいたのは白一色の世界だった。
雪と氷。
永久凍土。
生命そのものを拒絶するような極寒の大地。
それに対して、写真の中に広がっているのは赤い岩盤と巨大な峡谷、そして焼けつくような太陽だった。
まるでシベリアとは正反対の世界だった。
写真の下には、宗助の文字が続いている。
創はページへ顔を近づけ、ゆっくりと読み上げた。
「……『第三の扉へ進む者へ』」
エマが息を呑んだ。
創はそのまま続きを追った。
「『第一の力は、身体を燃やす』」
その下に、もう一文。
「『第二の力は、世界を速くする』」
創の指が止まる。
第一の力。
自分の細胞を限界まで働かせ、異常な熱を生み出す力。
第二の力。
世界そのものが止まったように見えるほど、神経系の処理速度を引き上げる力。
どちらも、すでに自分が経験したものだった。
もはや偶然とは思えない。
宗助は、それぞれの力が何をもたらすのかを知っていた。
そして創が、その順番で能力を発現することまで想定していた。
さらに下へ視線を移す。
そこには、もう一行だけ記されていた。
『次に試すのは、音より速く迫る死を見切ることだ』
「……音より速く?」
レオが呟く。
創はゆっくりと顔を上げた。
白石も、エマも、その言葉の意味を考えている。
次に待っているものが、文字通り音速を超える何かなのか。それとも速度とは別の意味を持つ表現なのか、今の段階では分からない。
ただ、その下には宗助の手書きで、はっきりと一つの場所が記されていた。
JORDAN――PETRA
創はしばらく、その文字を見つめ続けた。
「……親父は」
やがて低い声が漏れる。
「京都からシベリアへ行く道を残して、その先で第二の力が目覚めたら、今度はペトラへ行けって……最初から全部つなげてたのか?」
白石は答えなかった。
いや、答えられなかった。
京都でノートを手にした時点では、シベリアまでしか見えていなかった。
そしてシベリアで第二の能力へ到達したことで、新しい情報が解放された。
この仕組みが偶然であるはずがない。
宗助は一度にすべてを伝えるのではなく、創の変化に合わせて、一つずつ道を開くようにノートを設計していた。
「……道標か」
創が呟く。
「俺がどこまで来たかを確かめながら、次の場所を教えてる」
その言葉を口にした瞬間、妙な息苦しさを覚えた。
自分は自分の意思でここまで来たつもりだった。
だが、振り返ればその先々には、必ず父が残した何かがある。
創は静かにノートを閉じた。
「だったら」
ゆっくりと立ち上がる。
足元はまだ少しふらついていた。
頭痛も残っている。
身体の奥には、神経を限界まで使ったあとの重い疲労感が沈んでいた。
それでも創は立った。
「親父が俺に何をさせたいのか、この目で確かめる」
自分の右手を見る。
そこには第一の力が残した熱の感覚があり、脳の奥には第二の力が残した異常な速度の残響がある。
エマが創を見た。
「怖くないの?」
創は少し考えてから答えた。
「怖いよ。自分の身体が、自分じゃなくなっていくのが……一番怖い」
熱を使えば身体は壊れる。
神経を加速すれば、世界の見え方そのものが変わる。
この先さらに能力が増えていけば、自分がどこまで変わってしまうのかは分からない。
それでも、創は父のノートを抱えた。
「でも、ここまで全部親父の指示どおりだったからって、この先まで親父に決められる必要はない」
窓の外へ目を向ける。
白銀の世界が広がっている。
その遥か先には、まだ見たことのない赤い砂漠がある。
「親父が道を残したなら、その道を進むかどうかを決めるのは俺だ」
創は右手を握った。
「俺が、自分で選ぶ」
エマが静かに微笑んだ。
「うん」
創はもう一度、窓の外を見る。
神経加速を経験してから、世界は以前とはまるで違って見えるようになっていた。
雪の結晶や風に舞う粉雪、遠くを飛ぶ鳥、空気のわずかな揺らぎまで、かつてなら意識に上ることのなかった情報が次々と見えてくる。
以前なら、ただ「白い雪原」として見ていた景色の中に、今は無数のものが存在していた。
創はやがてアルゴー号を降りた。
冷たい風が頬を撫でる。
一歩、雪の上へ足を踏み出す。
そこに自分の足跡が残った。
さらにもう一歩、前へ進む。
父が残した道標はある。
だが、その道を歩く足は自分のものだった。
京都からシベリアまで導いたのは、宗助の残したノートだったのかもしれない。
それでも、その先にある赤い大地へ向かうかどうかを決めるのは、もう父ではない。
神代創自身だった。




