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死んだはずの俺は言われた。『あなたもその事故の原因です』  作者: 神北 緑


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第8話 ただの被害者ではなかった


俺が死んだバス事故。


原因も、経緯も、すでに理解している。


チャラ男の暴走。

あの女性の飛び込み。


そこに巻き込まれた。


――それだけの話だ。



天使は、そんな俺を見て言った。



「愚かしい」と。


……何をどう考えてもおかしい。


俺はただ、バスに乗っていただけだ。

事故に巻き込まれただけの、被害者だろう。


それのどこが、愚かしい?


「……全く自覚が無いのですね」


ため息。

確かに聞こえた気がした。


「あなたは、バスに乗り込む前――何をしていました?」


相変わらず抑揚のない声。


だが、その言葉だけが妙に重く響く。


「何をって……」


考える。

あの日のことを。


「……バス停で、待ってただけだが」


口に出した瞬間。


――何かが引っかかった。



……違う。



そうじゃない。



思い出せ。


あの日。


バスが来る前。


確か――



スマホが鳴った。



「……」



同僚からの電話だった。

特に重要な内容でもない。


どうでもいい雑談。


だが。


話が途切れなかった。


そして、バスが来た。


――間。



俺は。



通話を、切らなかった。



俺の使っている定期は、

スマホ画面にコードを表示するタイプだ。


つまり。 

通話を続けたままでは、表示できない。



「お客さん、早くしてください」


運転手の声。


俺は、後ろの人に先に乗るように手で示した。


それでも、通話は続けたまま。


「乗るの? 乗らないの? 遅れてるから出すよ?」

苛立った声。



――そこで。

俺は、イラついた。


「……ちょっとくらい待てよ」


「こっちは年定期の客だぞ!」



……。



言った。


確かに。



結果的に、バスは遅れた。


およそ、五分か六分。


それくらいの、遅れ。



「…………」


……これが?



ここまでの話に繋がる原因だっていうのか?



「……ふざけてるのか?」


喉の奥から、わずかに言葉が漏れた。


「差がありすぎるだろ」


「俺のやったことと、あいつらのやったこと――」


「同じ扱いになるわけないだろ」


怒り。


ではない。


否定だ。



「あなたは本当に――」


天使の声が、落ちる。


「自分以外の存在を、見ていないのですね」



その一言で。


空間の質が、変わった。



「こう考えたことはありませんか?」



静かに。

逃げ場を与えないように。



「あの日――」


「あなたが、バスを遅らせなければ」


「彼は、あの位置で追い越すことはなかった」


「彼女は、別のタイミングで飛び込んでいたかもしれない」



「あるいは――」



「事故は、起きなかったかもしれない」



――ッ!!



……いや、待て。


そんなのは。


飛躍だ。


偶然だろ。



いくらでもあり得る話じゃないか。



それを。



「俺のせい」?



「おかしいだろ……」



俺は、はっきりと否定した。



「そんなことで、同じにされるのか?」


「俺はただ、少し遅らせただけだぞ」


「それを――」




「ここは」


天使の声が、遮った。


「“罪の軽重”を量る場所ではありません」



……。



「あなたは、この事故の因果を作った」

「ただ、それだけです」



静かな断定。


逃げ道はない。



「たわいもない通話」


「たった数分の遅れ」



「それが分岐を生み」



「事故が成立する条件を満たした」



「――それが、あなたの因果です」



理解はできる。


理屈は。



だが。


納得は、できない。



「……」



胸の奥に、何かが引っかかる。



それは感情なのか、違うのかすら分からない。



ただ。 

今までとは違う、何かだった。



「あなたには」



天使の声が、近づく。



まるで、直接触れてくるかのように。



「決定的に、足りないものがある」




――何だ。



そう思った瞬間。



言葉ではなく。



“理解”が、押し込まれてきた。




何かが。



壊れる前触れのように。




俺は、次の言葉を待つしかなかった。


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