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死んだはずの俺は言われた。『あなたもその事故の原因です』  作者: 神北 緑


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第6話 事故を作った男


空間の“密度”が変わった気がした。


何もないはずの場所が、重く沈む。


空気なんて存在しないはずなのに、

息苦しさだけが確かにあった。



それでも――


俺の中に、感情はない。


冷静とかじゃない。


それが“普通”になっている。



隣では、チャラ男が明らかに動揺していた。


目は泳ぎ、口は乾き、さっきまでの余裕は欠片もない。



女性は――


逆だった。



壊れている。



自暴自棄に近い、張りつめた不安定さ。



……なるほど。



これが、“人間らしさ”か。



そう、他人事みたいに考えている自分がいる。



「あなた方の事故を作ったのは――あなたです」


天使が、チャラ男を指し示した。



「そして」


すぐに、その指が移る。



「その事故の“原因”は――あなたです」


女性へ。



……どういうことだ?



あの女性は、バスには乗っていなかった。


じゃあ、チャラ男の車に?


――いや。



それなら、あの男の反応が軽すぎる。




「順を追って説明しましょう」


天使の言葉が、思考を横切る。



「まずは、あなたから」


チャラ男へ。



「あなたは、あの日――非常に急いでいました」



間。



「理由は、ご理解されていますよね?」



……この言い方。


わざとだ。



「そんなの事故と関係ねえだろ!」


チャラ男が、苛立ち混じりに吐き捨てる。



だが天使は、無視した。



「あなたは、自身の親の会社の名を利用し」


「いわゆる“地上げ”に近い行為を行っていた」



チャラ男の顔色が変わる。



「会社が計画していた国道整備の用地に」


「ただ一件――立ち退きを拒む家がありました」



静かな声。


だが、逃げ場がない。




「そこには、高齢の母親と」


「長年、引きこもりを続けている娘が住んでいた」



……。



チャラ男が、うつむく。



「あなたはその母親に接触し」


「“娘の婚約者”を名乗った」



空気が凍る。



「偽のSNSを用い、関係性を捏造し」


「現代の常識を利用して信用を得た」




「やめろ……」



チャラ男の声は弱かった。



「娘が家に籠っていることを逆手に取り」


「接触の機会を完全に断ったまま、関係を構築した」



淡々と。



ただ事実だけを、積み上げていく。



「そして“将来三人で暮らすため”という名目で」


「立ち退きを承諾させた」




……最低だな。



そう評価している自分がいる。


だが、それ以上は何も感じない。



「あなたは、ほぼ無償で権利書を手に入れ」


「父親に成功を報告した」



沈黙。




そこで終わっていれば――


まだ“汚い仕事”で済んでいたのかもしれない。



「しかしあなたは――」



わずかに、間が落ちる。



「その権利書を担保に、闇金融から借入を行った」



……終わってる。



完全に。



「数か月で利息は膨らみ」


「返済不能」


「会社に知らせることもできず」


「利息だけを払い続ける延命状態」




チャラ男の手が震えている。



「そして――」



天使の声が、ほんの少しだけ低くなる。



「返済期限が、あの日だった」



静寂。




「その時間に遅れれば、あなたは“失う”」



「だから、急いでいた」



俺の脳裏に、あの瞬間がよみがえる。



――バスを追い越した車。



「その時、あなたの前にあったのは」



「発車したばかりのバス」



「……遅く見えたでしょうね」




吐き気がするような話だ。


現実に、こんなことがあるのかと。



いや――


あるんだろう。



そうやって、人は壊れる。



だが。



「……」



まだ終わっていない。




これは、まだ“片方”だ。


天使は、ゆっくりと視線を移した。



女性へ。



次に語られるものが。


今までより遥かに重いと――


なぜか、確信していた。


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