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死んだはずの俺は言われた。『あなたもその事故の原因です』  作者: 神北 緑


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第3話 三人の違和感


ただの事故ではない。


天使の言葉を聞いた瞬間、

それを否定する気は、もうどこかに消えていた。


あのチャラい男。

そして、あの妙に静かな女性。


おかしい。


そう思ったとき、もう一つの違和感に気づく。


――俺は、覚えている。


死んだことも、事故の瞬間も、

自分がバスに乗っていたことも。


なのに。


……なのに。


「……名前」


自分の名前が、出てこない。


思い出そうとすればするほど、空白だけが広がる。


存在はあるのに、輪郭が抜け落ちているような感覚。


その事実に気づいた瞬間、

疑問が一気に溢れ出した。


なぜ、あの女性は何も言わない?


なぜ、チャラ男はこんなにも感情を出せる?


そして――


なぜ、俺たちはここにいる?



「おい! 今のはどういうことだ!?」


思考を遮るように、チャラ男が天使へ詰め寄った。


さっきまでの軽さは消え、

顔には明確な“焦り”が浮かんでいる。


天使は、少しも動じない。


「おや。忘れているはずはないですよね」


その声には、わずかな嘲りが含まれていた。


「……あなたは、この二人を巻き込んで事故を起こしましたよね」



――――ッ


空気が、凍りつく。


「な……なにを――」


言葉を絞るよりも早く、チャラ男が取り乱した。


だが天使は、淡々と続ける。


「そもそもあなたは、この場所で“感情を維持しすぎている”」


「それだけ、生前での環境に恵まれていた証拠です」


わずかな間。


「……改めて、お察し申し上げます」



「てめぇ……ッ!!」


怒気を露わにするチャラ男。


その反応とは対照的に――


女性は、やはり動かない。


何も言わず、

何も変えず、

ただ、そこに立っている。



ふと脳裏に、事故の光景が蘇る。


――あの高級外車。


バスの前に割り込んできた、あの車。



……あれを運転していたのが、こいつ?



不思議なことに。


怒りも、憎しみも湧いてこなかった。


「こいつのせいで死んだ」


そんな単純な感情にはならない。


ただ。


加害者と被害者。


その構図が、静かに整理されただけだった。


まるで、他人事のように。



「あなた方は、生ある器を失ったエネルギー体」


天使の声が、再び響く。


「あなた方の言葉で言うならば――魂、という表現が適切でしょう」



魂。


その言葉が、奇妙なほどすんなりと受け入れられる。



「名前とは“器”に付与されるラベルに過ぎません」


「この場所では、無効な概念です」



だから、思い出せないのか。



「ここは“魂の再生”のための定義場」


天使は、少しもこちらを気にする様子もなく続ける。



──待て。


今の。


俺が考えていたことに対する答えじゃないか?



「……俺の考えてること、聞こえてるのか?」


思わず口に出す。



だが、天使はそれに直接は答えない。



「この場では、魂の因果律の均衡によって」


「次の行き先が決定されます」



……偶然か?


それとも。



「おや。この話は、お気に召しませんか?」



ぴたり、と天使の言葉が止まる。



そして。


ゆっくりと、こちらへ意識を向けた気がした。



「それでは」



「事故の経緯と――因果を」



「お話いたしましょうか?」




その瞬間。


背筋に、冷たいものが走った。


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