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夜に消える  作者: 昏片逢瀬


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第一章 沈まぬ太陽 第八話


 累水と透路が歩真の作戦を理解するのに、そんなに時間は必要なかった。

 次いで思考を回すのは、どんな方法で、そして誰がどの役割を担ってその作戦を遂行するのかということ。


「太陽が照らしてる光の筋を分かりやすくするなら、やっぱり“天使の梯子”じゃない?」

「あぁ、なるほどね。じゃあ必要なのは分厚い雲か」

「天使の梯子?」


 まるで共通語のようにさらっと流れていったが、分からないものをそのままにしておくと後が危ない。これは三人の共通認識であり、今回に限らずいつだって各々に足りない部分を補い合いながら作戦を共有、遂行している。

 だから“天使の梯子”を歩真が知らなくても、二人はからかったり馬鹿にしたりすることなく当たり前のように説明を付け足した。


「“天使の梯子”は、太陽が雲に隠れて光が遮断されることで、その雲の切れ目や端から光の筋が漏れる現象のことだよ」

「実際の現象だと光の筋は一本ではないんだけど、今回の太陽は歩真が言ったように何かを照らす意思がありそうだから、たぶん一筋で見えるんじゃないかなって予想してる」

「それで分厚い雲が必要って話をしてたわけか。自然に湧いてくるのを待つにも時間が掛かるし、やっぱ術?」

「それが手っ取り早いと思う。次に考えなきゃいけないのは、誰が術で雲を呼ぶかだね」


 透路が示した次の議題に、他の二人も考え込む。といっても実質二択であることは三人とも同じだろう。

 普段の役割分担からしても歩真は前線向きで、術の細かい調整などはそんなに得意ではない。勿論魔物と対峙する上で使えないと困ることもあるので必要とあらば使うが、どうしても大味になってしまう。返魔(そうま)剣士としては別にそれでも困らないが、今回はそうはいかない。

 それにこの作戦で沈まぬ太陽の核となっているものの場所が分かれば、そこに真っ先に駆け付けるべきなのはやはり前線を担う歩真だろう。累水も後方支援で現場に出てなし崩し的に前線として対応を迫られた経験はあるが、核に近付くほどに累水には“残念(想い)”が流れ込んで咳が出る。加えて核の近くでは浄化されないために使い魔のような魔物が必死の抵抗をしてくる。そんな場所に累水を一人で行かせるのも、そもそも前線慣れしていない透路を行かせるのもリスクが高い。

 となれば、雲を呼ぶ術を使うのは累水か透路の役割だ。


「透路に雲を呼んでもらって、僕と歩真で現場に行くでもいいけど……どう思う?」

「俺はそれでもいいけど、透路は?」

「僕としては、雲を呼ぶ術は累水くんに任せたいなって思ってる」


 術で分厚い雲を呼び、太陽の光を遮ることで“天使の梯子”を出現させる。沈まぬ太陽は何かを照らそうという意思があるはずだから、雲の隙間から漏れ出る光の筋は一直線となって照らしたい場所……つまり核の場所を指し示すだろう。

 この作戦が上手くいけば、“天使の梯子”が降り注ぐ場所に歩真が駆け付けて核を浄化する。けれどどれだけ歩真が優秀でも、核の場所に辿り着くまでには時間が必要だ。核に近付けば近付くほど魔物のほうも浄化されまいと抵抗するので、尚更。そして透路はその抵抗が歩真の側だけでは終わらないだろうと予想していた。

 核を探し出すために術を使っている人物の存在に、魔物だって勘付く。勘付いたなら止めようとして、術者の元にも使い魔を寄越すだろう。歩真と累水が揃って前線に向かった場合、透路は雲を呼ぶ術を展開したまま邪魔をしてくる魔物に対応しなければならない。正直に言ってそれは、前線慣れしていない透路には厳しい。

 歩真一人を最前線に向かわせることに躊躇いがないわけではないが、歩真なら大丈夫だろうとの信頼もある。だから歩真にはいつも通りに前線へ向かってもらって、残った累水と透路のどちらかが雲を呼び、術を展開している間の護衛をする。それが透路の考えた作戦だった。

 雲を呼ぶ術は累水も透路も使える。術の精度という面でも大きな差はないだろう。邪魔をしてくる使い魔的な魔物に対応するのであれば透路が術者、累水が護衛の役割が最適なのかもしれない。

 けれど本体ではないにしても、魔物が群れれば累水の胸には“残念(想い)”が溜まり、咳が出る。そんな状態で透路を守りながら魔物と対峙させるのは、本人は「大丈夫」と言うだろうと予想できても心配だった。

 それに、本体ではない魔物を必ずしも退治する必要はない。一般人に被害が出るならばそれは対応しなければならないが、今回に限っては人気のない場所で術を展開させれば一般人を巻き込む心配はないので術の邪魔さえされないようにすれば何の問題もない。

 ならばあらかじめ結界を張っておいて、術者に近付けさせないようにすればいい。そして安全地帯を作るために結界を張るということに関しては、透路は累水よりも長けている自信があった。

 だから歩真は前線に、雲を呼ぶ術は累水に任せて、透路が結界を張っておく。そういう作戦を提案した。


「分かったよ。その作戦でいこう」

「よし、じゃあ早速やるか」

「ありがとう二人とも。あ、そうだ。歩真くんには僕が作った護符、多めに渡しておくね。一人で核のところに行かせちゃうし、また作るからいっぱい使っていいからね」

「あぁ。ありがとな」


 三人の意見はあっさりと纏まった。基本的に作戦を考えるのは透路の役割。歩真と累水も話し合いの場となれば意見は出すが、透路の提案した作戦に反対することはない。今回もそれは同じで、作戦を共有した三人は善は急げとばかりに立ち上がり、食堂を後にした。


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