第一章 沈まぬ太陽 第三話
目指す自宅までもう少し。慣れた道に小さな違和感が潜んでいないかに注意を払いながら、三人で共有した情報を再確認する。
「前回こういうことになった時は累水くんもまだ小さかったと思うけど、それでもどんな“残念”だったか覚えてるんだね」
「その頃には自分の体質のことも何となく気付いてたからね。あの時は“変わりたくない”って心から魔物が生まれたみたいだけど、今回は“明日が来なければ良かったのに”って心から生まれたっぽい」
「どっちもある意味、現状維持ってことだな。何か悪いことがあって、そうなる前の状態を維持することを望んだのか、最高に幸せな瞬間があってそれを維持したいと思ったのか……」
前回、沈まない太陽の出現が確認されたのはまだ三人が幼い頃。同い年の歩真と累水は既に物心もついていて、夜が来ない数日間の記憶も残っている。
だが少し年下の透路には流石に当時の記憶はなく、こういうことがあった、と資料で見た情報が全てだ。
その時は確か、どこかの公園に核があったと書かれていた。核の形は竹刀だったらしい。
当時は太陽が沈まなくなった日以前に起きた事件事故などを調べて、その現場や関係者と縁のある場所などを虱潰しにあたって核を探していたと資料には書いてあった。
効率が悪く時間もかかるが、核を探し出す方法はそれしかないのが現状だ。
この異常はこの事件に起因している、などとといったことが分かれば、そこから生まれる想いは何か、核の形はどんなもので何処にある可能性が高いかをより正確に予測することができる。だがいくら調べたところで、はっきりとした原因など分かるはずもない。
だから透路たちの部署は過去の例から、その魔物の由来となっている想いを予測するのだ。
「一応僕たちの部署では、前回と同じで現状維持を望む心から生まれた魔物だろうってことで意見は纏まりつつあるよ。対抗の意見としては、限界を迎えて明日が嫌になったとか諦めたとか、そういう可能性を考えるものもあったけど」
現象が全く同じだからといって、原因も同じとは限らない。
だからこそ毎回毎回透路たちの部署は集まって会議をして、あらゆる可能性を挙げながら見当をつけるのだ。
通常はその推測の正解不正解を知ることなど出来ないが、累水に流れ込む“残念”と一致するということは、その推測が正しいということ。
「これから、太陽が沈まなくなった日の周辺で何かしらの事件事故、イベント事がなかったかを調べることになってるよ」
ここで、三人が住むアパートの前に辿り着く。因みに部屋は三人横並びだ。
職場から与えられた寮というわけではなく、三人で一緒に内見をしてここにしようと決めた。
元々は決して近所とは言えない場所に住んでいたのだが、魔物が大量発生したとかで歩真と累水には緊急の招集がかかることがある。その場合は基本的に本部には寄らずに現場へ直接向かうことになるので、護符の手持ちが心許ないことも少なくはない。だからそんな二人が現場へと赴く前に少しでも多くの護符を持たせるため、こうしてすぐに集まれる場所へと引っ越しをした。
そしてそういう緊急の時に、透路は現場ではなく本部に呼び出される。何が起きているのかを纏めて、対策を練るためだ。
勿論、自分の仕事も大切だとは思っている。それでも二人の無事を祈りながら見送り、待っているしかできないことを悔しく思うこともあった。
「それじゃあ、また明日ね」
けれどそれしかできないのなら、二人が無事に帰ってくるようにより良い護符を作る努力をしよう。
そんな気持ちは表に出さないように意識した透路は、笑って二人に挨拶をする。二人もそれに「また明日」「お疲れ」と返して、それぞれの部屋へ入っていった。




