第一章 沈まぬ太陽 第十二話
三体の狼が柔らかく変質した地面から抜け出そうと、茶色の鳥は青い光の拘束から抜け出そうと藻掻いている。残された赤い鳥には剣を携えた歩真が迫るが、当然あちらだって黙って斬られるのを待つわけがない。大きく口を開けた喉の奥から、真っ赤な炎が吐き出されようとしていた。このままあれを真正面から喰らったらひとたまりもないだろう。
だが歩真も無策で突っ込んだわけではない。透路から預かった『ᚦ』の護符で結界を張り、炎を防ぐ。続けて魔力で足元の空気を固めて足場を作り、炎と結界を避けるように素早く移動する。
せっかく護符を使っているのだから結界で足場を作った方が魔力の消耗は少ないのだが、どうしても機敏さや小回りに不利が生じることを考慮して、歩真は多少魔力を消耗しても素早く動ける方法を選択した。
「まずは、一体目!」
結界の向こう側にいるはずの歩真の声が頭上から聞こえることに気付いた赤い鳥は炎を吐くことを一旦止めて、声の方へ顔を向ける。そうして歩真の姿を視認すると再び炎を吐くために口を開く。
けれどその口から灼熱の炎が吐き出されるよりも前に、歩真の剣が赤い鳥を両断した。
さて次は……と考え始めた瞬間、背後から羽ばたきの音が聞こえた。
「あっぶねぇな。もう抜け出したのかよ」
その音の正体は青い光で拘束していたはずの茶色い鳥だと直感した歩真は咄嗟に身を捻って、予想される爪の攻撃を躱そうと試みる。が、避け切ることはできずに鋭い爪が左腕を掠めていった。
鋭い痛みと流れ出る血は無視して、地上に目を向ける。狼たちは未だぬかるんだ地面に足を取られているが、こちらも抜け出すのは時間の問題。ならば既に拘束が解けてしまっている茶色の鳥を相手するよりも、まだ動きに制限のある狼たちを先に片付けた方がいいだろう。
即座に次の行動を判断し、歩真の横を飛び去って行った茶色い鳥を追うことはせずに狼たちの頭上へ移動する。そこで魔力で作っていた足場を解いて、勢いのまま狼たちの上へ落下する。
理想としてはこのまま三体とも切り捨ててしまいたかったが、そうそう上手くはいかない。抜け出されるのは時間の問題だとは思っていたが、タイミング悪く小型の狼が、少し差があってから中型の狼がぬかるみから飛び出してきた。
咄嗟に剣を振るが、向こうの攻撃を防ぎきることは難しかった。小型狼の爪は肩を掠め、中型狼が小型狼を切り伏せた剣を握る右腕に噛みついてくる。そのまま地面に押し倒される形となったが、視界の端で小型狼が消えていくのが確認できたのでひとまずは中型狼に集中できそうだ。
護符を取り出すのも面倒だったので、歩真は自分の右腕を噛み千切らんばかりに力一杯噛みついている中型狼に左の掌を向け、術を展開するための魔術を練った。
「これで三体」
青く輝く陰木立朝鮮朝顔の花紋が歩真の足元と、魔力を練った掌に現れる。歩真の右腕を噛んでいた狼もその光に気付いて口を離し、今度は向けられた掌に牙を剥く。
「遅ぇよ」
だが狼の牙が届くよりも、歩真の術が発動する方が早かった。
花紋から牙と同じくらい鋭い氷の棒が何本も出現する。それらが一斉に中型狼に向かっていき、掌に噛みつこうとしていたところを貫いた。




