第一章 沈まぬ太陽 第十一話
常に“天使の梯子”を視界に入れながら移動すること数分。まだ“天使の梯子”が照らす先には辿り着いていないものの、歩真は一度足を止めざるを得なかった。
「あぁもう、面倒臭いな……」
目の前には姿も大きさも様々な魔物が五体。鳥型が二体と狼型が三体だ。
空を飛ぶことができる鳥型を一人で二体相手するのは厄介だし、狼型はたとえ本体ではないとしても凶暴で、歩真たち返魔剣士もかなり苦戦を強いられた過去がある。そんな魔物がわらわらと湧いて出てきたということは、核に近付いていると思ってもいいのだろうか。
考えながら、歩真は腰に提げている剣を抜く。魔物を斬るためのこの剣は、歩真の魔力を込めた玉鋼を素材にしている。核の浄化だけは専用の札でないとできないが、ただの使い魔なら再度魔力を込め直す必要もなく倒すことができる。
「まぁでもこんだけわらわらと湧いてきたってことは、よっぽどこの先に行かせたくないってことだよな」
核に近付けば、浄化されまいと使い魔が邪魔をしに現れる。けれどそれなら、使い魔が現れた場所の付近に核がある、ということになるので今回の核だってもっと早くに見つかっていたはずだ。
そうならないのは、使い魔が核付近か否かに関わらず割と町中のどこにでもちらほらと現れるからだ。だから使い魔が現れたからといって近くに核があるとは限らないし、歩真たちも毎日の見回りを欠かすわけにはいかない。
普段の見回りではせいぜい一、二体の魔物が現れる程度だが、今、歩真の目の前には一人で相手するには厄介な五体の魔物。これだけの数の使い魔が現れたということは、どうしても歩真を通したくない理由があるはずだ。
「まだ核も探さなきゃいけねぇし、さっさと通してもらうぞ」
先に使っていた、速さを意味する『ᛖ』の護符の効果はまだ継続している。一度使ったら使用者の魔力が切れるか、意図的に術の展開を切り上げない限り効果は続く。勿論その間は魔力が消耗されているわけだが護符のお陰で必要最小限で済んでいるし、歩真は元々の魔力保有量が累水や透路に比べて多いのでこのくらいなら大した負担にもならない。
使い魔五体を相手にするのなら、護符の効果はこのままにしておく方がいいだろう。
空中には鳥型の魔物が二体。茶色の鳥は普通の鳥よりは当然大きいが、魔物の中では中くらい。小回りも利き、その鋭い爪で攻撃してくる。もう一体は茶色の鳥よりも大きく、その羽は炎のように赤い。こちらは炎を吐くなどが主な攻撃手段だ。
狼型は大中小がそれぞれ一体ずつ。どれも鋭い牙と爪を持っている。大きいものはスピードこそ劣るが力が強く、一度噛みついたら骨を噛み砕く勢いで噛み続けて引き離すのに苦労する。小さいものはこの中では一番力が弱いもののスピードで翻弄して攻撃を仕掛けてくる。中くらいのものはパワーもスピードも兼ね備えているが、どちらも他の二体には劣る。
「お前らの相手は後だ。大人しくしてろ」
右手に剣。空いていた左手で懐から護符を取り出す。地を意味する特殊文字『ᚠ』と水を意味する特殊文字『ᛚ』を、補助文字『ᚹ』を二文字の間に使って組み合わせた護符だ。
魔力を込めたそれを三体の狼の足元に投げる。バラバラに動き出されてしまったら厄介なので、固まっている今のうちに動きを封じる作戦だ。
足元の地面は固いコンクリート。だが歩真が護符を投げつけた場所だけはコンクリートを流し込んだばかりのように柔らかくなり、狼たちの足場を不安定なものにする。抜け出されるのは時間の問題だろうが、時間稼ぎくらいはできる。
同時にもう一枚、取り出していた『ᚾ』……捕縛を意味する特殊文字が書かれた護符にも魔力を流し込む。そこから生み出された青く輝く光が歩真の意思に従って、茶色の鳥へと絡み付く。全てが予定通りに進んだことを横目に確認した歩真は持ち前の脚力で飛び上がり、赤い鳥へと剣を振り上げた。




