第一章 沈まぬ太陽 第十三話
鋭い氷柱に貫かれて動きを止め、狼の身体が次第にボロボロと崩れて消えていく。それを確認して一息つく間もなく、再び上空から羽ばたきの音と風を切る音が聞こえてきて身を捻って横に転がる。次の瞬間にはさっきまで歩真が寝転がっていた場所に、土煙を巻き上げながら茶色い鳥が突っ込んできていた。もしもあのまま留まっていたらあの鋭い爪に引き裂かれるか鷲掴みにされるかして、大怪我どころでは済まなかったかもしれない。
すぐさま立ち上がり、対抗策を考える。
「あぁもう、次から次へと!護符……探すよりこっちのが早いよな」
懐へと伸ばし掛けた手を止めて、掌を真っ直ぐ茶色の鳥に向ける。護符はきちんと種類ごとに分けて仕舞ってあるので探すのにそんなに手間取るなんてことはないが、今の歩真にとっては僅かな手間も面倒だった。
歩真の足元、そして茶色い鳥の頭上にそれぞれ、陰木立朝鮮朝顔の花紋が浮かび上がる。頭上のそれは鳥だけを狙うにしては少し大きめだ。上空を自由に飛び回る鳥型の魔物の相手はスピードが勝負。一気に魔力を練り上げる。
「チッ!流石に二体同時は無理だったか」
鳥の頭上から、大量の雷を落とす。だが流石に一撃で仕留められるとは思っていないので、予め効果範囲は広く指定している。相手も小回りが利くが、物量で押せばそのうちの何発かは当たるはずだ。という歩真の考えの通り、何度目かの雷に貫かれた鳥は体を崩れさせて消えていった。
あわよくば拘束から抜け出してきていた大型狼も同時に倒せないだろうかと考えていたが、そう上手くはいかないらしい。あちらは多少雷を受けはしたがまだ四本の足でしっかりと立っている。
「あー……やべぇ。流石に頭がクラクラしてきた」
歩真も自分の足で地面を踏みしめてはいるが、これまでに負った傷から流れた血のせいで意識には靄が掛かり始めていた。
残るは大型狼が一体のみ。多少無理をすれば何とかなりそうだが、歩真にはこの後まだ核を探すという重要な仕事がある。それに、無理をして後から何かがあった場合は残してきた二人……特に透路をとても心配させてしまう。
そのことを考えるとあまり無茶はできないな、と考えた歩真が取り出した札は『ᛜ』……治療を意味する護符だ。これに補助文字が加わっていれば治療効果は上がるし、護符を使わずに魔力のみで治癒の術を展開すれば今の歩真の怪我なんて一瞬で跡形も無く治すことができる。
けれどそれには膨大な魔力が必要になる。補助文字を加えた護符は、この程度の怪我に使ってしまうのは勿体ない。
そんなことを透路に言えば、「また作るから使ってって言ってるじゃん!」と怒られそうだが、とにかく歩真は今の状態なら普通の護符で充分だと判断した。




