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番外編2 もしあの人と結ばれていたら? 外デート編

 大学の正門前。螢一は通り過ぎる女子学生たちからの視線をいつものように涼しい顔で受け流していた。


 しかし、その指先はコートのポケットの中で、さっきから何度もスマホの画面を付けては消している。


「あ、螢一くん!」


 聞き慣れた、けれど世界で一番自分の鼓動を跳ね上げる声。振り返った瞬間、花沢の思考回路はショートした。


 そこにいたのは、いつもより少し大人びたシルエットの黒いワンピースに、華やかなゴールドのピアスを揺らした香苗だった。


「……え」



 香苗が不安そうに首をかしげる。彼は返事をしなかった。というより、できなかった。


(……なんだ、あれ。反則だろ)


 香苗の白すぎる肌に黒が映え、揺れるゴールドが彼女の華奢なラインを強調している。いつもより少しだけ引かれたアイラインが、甘い瞳に艶を与えていた。


「……螢一くんってば」


「……あ、ああ。……うん、普通だ。普通に、変じゃない」


 彼は、耳の先まで真っ赤になっている自覚があった。視線をどこに置いていいか分からず、とっさに反対方向へ歩き出す。


「ちょっと! 変じゃないって、それだけ?」


「うるさい。……直視できるわけないだろ。……バカ」


 早歩きになる花沢だが、足元がおぼつかない。普段なら絶対に見落とさないような歩道の段差に、思いきりつま先をぶつけた。


「あ、危ない!」


 香苗が反射的に彼の腕を掴む。


「ひっ……!」


「えっ、何その声」


 触れられた場所に電気が走ったような顔をして、花沢は飛び退いた。


「……香苗、離れろ。頼むから」


「えっ、私、何か嫌なことした……?」


「……逆だ。その格好で、そんな顔で近くに来るな。可愛すぎるんだよお前」


 絞り出すような本音に、今度は香苗が顔を赤くする。


 カフェに入っても、彼の「バグ」は続いた。「ご注文は?」と聞かれ、メニューも見ずに「一番甘いやつを、一番大きいサイズで」と答えてしまう。


 運ばれてきたのは、たっぷりのホイップクリームとキャラメルソースが乗ったフラッペ。普段、ブラックコーヒー以外口にしない彼を知っている香苗は、目を丸くした。


「それ、甘いよ……?」


「……分かってる。糖分を摂らないと、脳が正常に働かないんだ」


 真顔で(ただし顔は赤いまま)、彼はフラッペをストローで一気に吸い込み、あまりの冷たさと甘さにこっそり眉間にシワを寄せた。


 ふと、隣の席の男子学生たちが香苗の方をチラチラと見ていることに気づく。


 その瞬間、彼の瞳から「パニック」が消え、いつもの鋭い冷徹さが戻った。彼は無言で自分のカーディガンを脱ぐと、香苗の肩にバサリとかける。


「え、ちょっと、暑くないよ?」


「俺が暑いんだ、いや嘘。……やっぱりその格好、誰にも見せたくない」


 彼は香苗を自分の方へ引き寄せると、周囲を威嚇するような冷ややかな視線を向けた後、すぐにか細い声で付け加えた。


「……今日が終わったら、二度とその服着るな。……いや、俺の家で、俺の前だけで着て。……もう、本当におかしい。お前のせいで、全部めちゃくちゃだ」


 クールな仮面は、香苗という熱を前にして、今日もあっけなく溶けてしまうのだった。

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