番外編1 重なりあうわたしたちのその後
えーっと、まずはずっと長い間読んでくれた皆さん、ありがとうございます!私と先生ですが、お互いに幸せを噛み締めて仲良く隣にいます。詳しくは、また後日ってことで!
まずは、安定して相変わらずの山下くんとさやかについてですが、、
あの2人は大学卒業をしたらすぐ結婚したいってことで、なんと婚約してしまったのです。あんなに山下くんの方がさやかのことが好きだったのに今となってはさやかの方が山下くんが好きで仕方ないみたいです。
そして、少しだけ大人な事情を感じさせるのが、直哉先生と花沢くんのお母さんこと七香さん。
やっぱり結婚するってことはできないみたいだけど、今の二人を見ていると、そこには他人が踏み込めない、静かで深い絆があるのだと感じる。
若い頃からの因縁なのか、それとも新しく始まった形なのか。直哉先生があんなに安らかになれるのは恐らく彼女の隣にいる時だけみたいだ。
何より一番意外だったのは、花沢くんと直哉先生の関係だ。あんなにクールな花沢くんが、直哉先生と二人で旅行に行くくらい仲が良いなんて!
「……別に、無理やり連れて行かれただけだ」
花沢くんはそう不機嫌そうに言うけれど、お土産を選んでいる時の彼は、どこか楽しそうだったらしい。複雑な家族の形を超えて、男同士、通じ合うものがあるのかもしれない。直哉先生のあのおおらかさが、花沢くんの頑なな心を少しずつ溶かしているのかと思うと、なんだか私まで嬉しい気持ちになる。
そして学部が違くても花沢くんは航平とずっと一緒にいるみたいだ。クールな花沢くんと、彼を上手にあしらえる航平くん。あの二人の絶妙な距離感は、大学生になった今でも健在のようで、なんだかホッとする。
そんな花沢くんのことたが、少し前、たまたま大学の近くで花沢くんと二人きりで話した時のこと。
彼は相変わらず、私を見る時だけあの綺麗な瞳を少し揺らす。
私が本原先生と幸せにしていることを、彼はちゃんと知っている。諦めるべきだって、きっと彼自身が一番分かっているはずなのに。
「香苗」
別れ際、花沢くんが私の名前を呼んだ。振り返ると、彼は少しそっぽを向いたまま、でも、今まで聞いたことがないくらい真剣な声でこう言ったんだ。
「……何かあったら、すぐに言え。何があっても、俺がすぐに駆けつけるから」
「花沢くん……?」
「あの人が……もしお前を泣かせるようなことがあったら、その時は俺がお前を守る。……それだけは、忘れるな」
いつもは意地悪を言ったり照れたりするのに、その時の彼の目は、真っ直ぐに私を捉えて離さなかった。本原先生のことを心から信頼しているし、先生が私を傷つけるなんて思っていない。
だけど、花沢くんのその言葉が、彼なりの不器用で、命がけの「好き」の証明なのだと分かって、胸がぎゅっと苦しくなった。
みんなの幸せや、花沢くんの変わらない一途さに胸を締め付けられながらも、私が今、先生の隣にいられるのは、決して当たり前のことじゃない。
高校を卒業する前、私は人生で一番大きな「わがまま」を通した。決められていた婚約者のもとへ、私は自分から謝罪をしに赴いた。
頭を下げ、震える声で、必死に自分の本音を伝えた。
『本当に、本当に申し訳ありません。……私には、本気で好きな人がいるんです。その人以外とは、未来を考えられません』
相手の方には本当に申し訳ないことをしたと思う。けれど、自分の心に嘘をついて生きていくことだけは、どうしてもできなかった。そして婚約者の人も本当はこの結婚に前向きではなかったのだと明かしたのだった。
けれどもちろん、それを受け入れるまでの父の怒りは凄まじかった。
最後まで納得はしてくれなかったし、勘当されてもおかしくないような大騒動だった。大学生になった今でも、父とはお世辞にも「仲が良い」とは言えない。実家に帰っても、必要最低限の言葉しか交わさない、冷え切った空気が流れる。
だけど、最近、ほんの少しだけ変化があった。この前、叔父さんの家に顔を出した時、叔父さんがぽつりと言ったの。
「あいつ(お父さん)、お前が自分で決めた道を歩いてる姿を見て、最近は何も言わなくなったろ。不器用だけど、あれであいつなりに、お前の覚悟を認めてるんだよ」
その言葉を聞いた時、涙が出そうになった。父は今でも許してはいないかもしれない。けれど、私の「本気」を、少しだけ、本当に少しだけ、認めてくれようとしているのかもしれない。
……ただ。
お父さんが認めてくれかけているのは、あくまで「私が強い覚悟を持って婚約を破棄した」という事実だけ。
その『本気で好きな人』の正体が、まさか私の元教師である先生だなんて——それだけは、それだけは絶対に、死んでも言えない。
「香苗」
「はい、ひろさん」
今でも仲のいい家族を見ると辛くなることはあるし、ゆかりのことだって今でも何が正解だったのかはわからない。だけど今私は先生の隣にいる時はすごく満たされている。それだけで充分なのです。




