第66章 ついに
ついに先生と、その、そう、やっと、うん。私はさっきから、膝の上でスカートの裾を何度も整えていた。今日のために用意した、自分でも鏡を見るのが恥ずかしくなるような下着をつけてきてしまったのだ。座るたびに肌に触れるその感覚が、彼女を落ち着かなくさせていた。
「……なんだ。さっきから妙にソワソワして。体調でも悪いのか?」
隣に座ったひろが、心配そうに覗き込んでくる。彼の瞳は、いつもよりずっと近く、熱を帯びている。
「い、いえ、大丈夫です……!」
「本当にそうなのか? 顔が赤いぞ。もしかして、だが……」
ひろの手が、香苗の熱い頬に触れる。その指先が、首筋から鎖骨へとゆっくりと滑り落ちた。香苗は「うわ、うわわ……」と思わず声を漏らし、逃げるように彼の首に腕を回して、自分から唇を重ねた。
不器用で、けれど必死な、誓いの口づけ。ひろは一瞬驚いたように息を呑んだが、すぐに香苗の腰を抱き寄せ、深く、奪い返すようなキスで応えた。
「……香苗。お前、そんなことしたら……俺がもう、我慢ならなくなるだろう」
ひろが耳元で低く、掠れた声で囁く。その腕の力強さに、香苗は彼が本当に自分を欲しがっているのだと痛いほどに感じた。
「ちょっと聞きたいんですけど、私たちその、彼氏彼女の関係になるってことでいいですか?」
「ん?あーそういえばちゃんとしてなかったな、改めて俺とお付き合いしてください」
「はい」
「…いいか? 今日は……もう、お前を帰さないぞ」
香苗は、赤くなった顔を彼の胸に埋めたまま、小さく、けれど確かな意志を持って頷いた。そして、初めての夜を迎えたのだった。
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ー翌日
柔らかな春の光が、絡まり合った二人の指先を照らしていた。
「……香苗、身体大丈夫か?」
隣で目覚めたひろが、愛おしそうに香苗の髪を撫でる。
「……はい、先生」
昨日のことが思い出されてとても恥ずかしくなる。
「もう先生じゃねえんだぞ?」
「えっと、、ひろくん?」
「それでいい」
香苗が幸せそうに微笑むと、弘之はふと、サイドテーブルにある写真立てに目をやった。そこには、かつて彼が忘れられなかった女性・美代が、変わらぬ笑顔で映っている。
ひろはその写真を静かに見つめ、心のなかで独りごちた。
(……美代。悪いな。俺、まだそっちには行けそうにない。……この子を愛し抜くと決めたから)
彼は写真立てをそっと伏せると、香苗の手を引いてベッドから起き上がった。
外は、雲ひとつない快晴。
二人はどちらからともなく手を繋ぎ、満開の桜が舞う並木道へと歩き出した。繋いだ手の温もりだけが、これからの二人の歩む道のりが、どこまでも穏やかで光に満ちていることを物語っていた。
やっと、やっと本編完結でーす!ここまで読んでくださった方本当に本当にありがとうございます!これから他の人たちのそれからについてと、もし花沢くんと結ばれていたらっていうのも書いていきたいと思います!Xでは、どうしてこの話を書いたのかとかも書いていきたいなあと思います。




